(7)
目で見てわかること、目で見ないとわからないことは確かにあった。大一は正直なところヴィジョンを観る前から生より劣るものだと考えていた。せいぜいミニチュアの青白いホログラムが動くぐらいが出てくると思っていた。
音や動き、各星の演出それらが全て自分の手元に集まる。姫たちの表情一つ一つが事細かによくみえる。
(ん?)
うっかりまじまじと映像の女性たちを眺めてしまったのに自動検索が働かなかった。
(その方が都合いいか。)
大一も観衆と同じように食い入るようにパレードの列を追っていた。しかし、どうしても水性の姫だけは、初めて言葉を交わした彼女は見つけられない。やがてパレードは宮殿へ続く外門にたどり着く。生でも見られる!ガバッと起立すると、心まで一般人と化してた大一は外の方まで駆け出してしまった。ざわめきが自分の遠く後ろで起こったようだが気にも留めなかった。
二人の姫がそれぞれの大駕籠から降りてくる。宮殿のものが現王の待つ広場まで向かう護送者に案内しているところ。何やら水星の鼓笛隊が慌てている様子だがそれもそうだろう、何を企んでいるのか知らないが今日の勝者はこちらかあちらのどちらか…
前方がどよめいた。二人も何事かと目線をそちらにやる。一人の男が後から護衛に追われながら駆け寄ってくるではないか。
「げ、現王様です!!」
予定にない事態に一帯は渾然とする。火星の姫が慌てて護送車を降りる、金星の姫は動向を見つめる。
「現王様あー」
火星の姫は上ずった声に精一杯の愛想を乗せながら同じように駆け寄る。二人の距離が縮まったその時――。
ザザザッ
突如として宮殿を囲う堀の水が吹き上がった。不意をつかれて足を止める王と姫。外門から道路へ渡る橋の上で立ち往生した王に向かって水の壁が倒れてきた。
「あっあぶ……!」
大一はデジャヴを感じる。飲み込もうとする大量の水。危険を知らせとっさに身構えることしかできなかった。
ザパァッ
しかし水の壁は予想に反して大一のギリギリ手前に流れ込んだ。そして水壁の向こう側には火星の姫とは違う人影。
カーテンを開けるように、水をわけて『王』のいる内側に入ってくる。
「ごきげんよう、現王様」
突然現れたのは、朗らかに笑う水星の姫。波乱の幕開けを告げた。




