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追いかけても駄目、待っていても駄目、呼びつけても駄目。大一はシーラと顔を合わせることのないまま数日を過ごした。
目の前にいても、視線すら合わせず、一言も発さず。まるでそこにはいないかのように振る舞っている。そして困ったことに一昨日ぐらいからマリーまでもが暗い、というか少しイライラとしてそうなオーラをにじませていた。ルオンとイブは気づいているのだろうが大一と接することに集中するので、マリー、シーラは放っとかれる。
「…ドゥニア、ちょっといい?」
みんなでの食事のあと、大一はいつものように明るいドゥニアに声をかけた。
呼ばれたドゥニアは喜んでそれに応える。二人は長椅子に腰を掛けた。
「ドゥにアのところ、タイタンでは一夫多妻が普通なんだって?」
タイタンは開発がうまく行っている方とはいえ、居住できる地域は狭人口もまだまだ少ないため、人手を増やすことと強い遺伝子を残しやすように王族は複数の女性を娶るのが慣習化している。
ドゥニアが地球の『王』の正妻にあまり執着しないのもこういった事情を目の当たりにしてきたからと言える。
「あたしは現王様に愛してもらえれば、それでいいんです。」
とドゥニアはどこまでも健気だ。そういう、ギラつかない気質のせいか、歴代の王室でも一番になれたタイタン人は片手で数えららるほどしかなかったという。
そういう背景のドゥニアだからこそ大一は聞きたいことがあった。
「タイタンの王様たちはどうやって奥さんたちの仲を取り持ってるの?」
先人の知恵はどんなに調べても出てこない。複数の夫婦仲を円満にする方法があるのならば、ぜひとも知りたいところだった。
「うーん…あるのかなぁ…」
ドゥニアは歯切れの悪い反応を示した。
「パパは…あ、王は毎日誰かしらを部屋に呼んで一晩過ごしています。他にも暇さえあれば頬を擦り寄せたり、お話を聞いてあげたり、みんなで遊んだりします。」
ドゥニアは小さい指を折りながら何をしているか一つ一つ答えていく。
「ほ、他には?」
「毎日みんなのこと好き好きって言ってます。」
大一が聞きたかったのはもっと具体的な仲を取り持つ方法で妻同士が衝突したらどうしたらいいのかということ。しかし、ドゥニアとは文化が違うから仕方が無いのだろう。大一はお礼を言ってこの場を終わりにしようとした。
「好きだって言ってくれたら何が起こっても大丈夫ですよ!」
そういってドゥニアは大一に抱きついた。
大一は彼女の頭から目を離さない。
「そうか、俺…」
でもそれを俺は言っていいのだろうか。




