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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
思わざる誤解
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[6]

 五人の姫たちの間で何やら準備をしているらしい。(だけど何の?)シーラに嫌われている理由を探ろうとしていたら、話が勝手に思わぬ方向に進んでいた。

「その“何か”にシーラが参加しようとしているならシーラもそんなに俺のことを嫌ってないのかな…?」

「そこまではわかりかねます。」

 大一の独り言にユエが答えた。

 グシャグシャにされた一枚の手紙が未だにまぶたの奥にこびりついて離れない。ドゥにあの手のひらに広げられた紙を思い起こす。

 その時、ふとある疑問が浮かんだ。

(もしかしてシーラじゃない他の誰かが握りつぶした可能性はあるか…?)

 確かに大一はシーラに直接渡してはいなかった。しかたなく渡したのは彼女の側近の者たちだ。まさかとは思うが、そこで処分されていたのであれば、シーラは別に手紙のことを知らないし、自分のことを嫌っていないことにもなる。

「……確かめる必要はあるな。」

「かしこまりました。」

 勇んで歩き出した大一の隣にユエがそっと控えたて進む。宮殿内に大一の靴の音が響いた。

 シーラの部屋の前に来るとモニター越しに中のものへ話しかける。少し遅れてからシーラの従者が応答した。

「おや、現王様。姫君は只今お祈りの時間でございます。恐れ入りますがお引き取りを。」

 深々と頭を下げた。だが大一は構わないといった風に手を降って応える。

「いや、今日は皆さんに用があって来たんですよ。」

 従者は不思議そうな顔をした。

「この前の手渡したメッセージカード…あれ、シーラに渡してくれましたか?」

「はい。」

 モニターの相手は目をつぶって短く返事をする。

「内容は確認していましたか?」

「はい。」

「なら何故、なんの返事もないのですか?」

「我々にはわかりません。姫君のお考えですので…」

 一向に取り合わない。するとユエが前に出て対応に加わった。

「王命を無視するとは正教の教えに厳格な木製の姫君らしくありませんが?他者には常々不敬だ不敬だと糾弾なされるのに、ご自分が破られるのは寛容ということでしょうか。」

「ユエ、そんな言い方は…」

 大一はユエを抑えようとする。だがユエは取り合わない。

「此度の件は、『王』を敬わないことよりも罪は重いと存じます。このままなんの釈明もされないのであれば然るべき処置を王室直属の執務官として取らせていただきますが。」

 脅迫めいたユエの冷たい発言に、それまで単調だった従者たちも流石に色を失う。

「つっ、都合が合わなかったのです。ですから、我々に落ち度はございません。」

「あなた方は王命をなんと心得ておりますか?先約があるならそれを告げるのは義務ではないでしょうか。」

「それについては誠に申し訳なく…」

 従者は口ごもって頭を下げた。その様子を見て大一は、シーラが自分のことを嫌いになったわけではないと気づいてユエを止めようとする。だがユエのほうが聞き分けなかった。

「命に背いてしまうという事実を恐れて、全てをなかったつもりになさるおつもりだったのですか。これで現王様を第一に考えてるなど、とても信じられません。」

 大げさに相手をけなすような口調でユエは声をはった。

「さ、先程からっ命、命、とおっしゃられるが、あれではそのように読み取れません!我々には軽い誘い程度に見受けられました!」

「……えっ…みなさんは内容を知っているんですか?」

「…えっ……あっ?」

 モニターが突然フリーズしたように、その中にいる従者が口を開けたまま止まっている。

 しかし従者たちが手紙を渡したあとで、シーラが確認して読ませたのかもしれない。

「内容を知っていたにもかかわらず、姫が誘いを断る理由がわからないとはどういうことでしょうね?」

「それ、は…言葉のアヤ…でございまして…」

 歯切れの悪い言葉がブツブツと切れて伝わってくる。明らかに画面越しでも顔色がすぐれないのがわかった。

 ユエが鼻を鳴らして。大一の方に向き直る。

「現王様、そろそろ戻りましょうか。」

 もう用はないと言わんばかりにそっぽを向いたユエを従者たちが引き留めようと叫ぶ。

「お、お待ちを!これにはわけが!」

「結構。」

 ユエはピシャリと言い放った。

「木星姫、イニ・シーラ=ペルンロード様には追って沙汰を申し上げます。」

 そう言って一礼すると、大一の背中を押すようにして引き換えるように促した。少し離れてもまだモニターから声が聞こえてきていた。部屋から出てくればいいのに。

「…俺は別にシーラを責めるつもりは…」

「現王様は、シーラ様と話したかったのでしょう?」

 髪の毛一本も揺らすことなくユエが歩きながら訊ねてくる。

「嫌われたというのもおそらく誤解でしょうし、これで二人きりで話せる機会ができたではないですか?」

 サラリとユエの髪が流れた。その表情に大一はハッとして頭を下げる。

「ユエ…その、ありがとう。」

「当然のことです。…私はあなたの秘書ですから。」

 二人は肩を並べて宮殿の中を進んでいった。

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