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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
思わざる誤解
141/190

[3]

 大一はユエたちが作成したインクペンをくるくると器用に回していた。

(俺はみんなに好かれたい…。)

 代理として、姫たち全員にいい顔をして良好な関係を築き上げておく。それはもはや大一の中で二の次のことであった。

「あのさ…」

 いつものように部屋で待機をしているユエに視線を送って話しかける。

「もしも、もしもさ………本物が…」

 大一は言いよどんでしまった。『王』の名を騙って本当はその男のために召し抱えられた姫君たちを、あわよくば自分のものに…。

 邪な考えだと思っていても、彼女たちとの共同生活を通して今がすごく充実している気がしてならない。機嫌を損ねたらその原因を探したり、男らしくなろうと自分を鍛えてみたり、振り回されながらも一歩一歩みんなと歩み寄ってきたのだ。どうしても愛着が湧いても仕方がないことだった。

 ユエは何も聞かなかったように静かにその場に佇んでいる。

「好かれたいなら好きになれって言ったのはそっちだ。俺、もうみんなのことが…」

「現王様。」

 それ以上の言葉を遮られる。

「あっはい、す、すみません。」

「いえ、そうではなくて。」

 ユエは襟元を正した。

「その恥ずかしいセリフを手向ける相手が間違っております。」

「は、恥ずかしいって…!」

 思い返してみるとたしかに言おうとしていたことは恥ずかしい。

「きちんと、面と向かわなくては伝わらないこともございますよ。」

「そう、だな…。」

 近頃、ルオンと口づけをしたあたりから、みんなから「好き」と言ってもらえ始めている気がする。前後の文脈によって多少のニュアンスはあるだろうが紛れもなく大一に対する「好意」である。

(俺からも伝えなくちゃ…。)

 大一はいじっていたペンを机においた。席から立ち上がろうとするとユエが前に進んでくる。

「現王様、先程から通信がつながっております。」

 差し出された通話機の青いランプが点滅していた。

「えっなんでそれ早く言わないの。」

「なにかお考えのようでしたから。あと因縁の相手だったので慎重になりました。」

 ユエは通話機を手渡してまた持ち場に下がっていく。(…因縁の相手?)大一は通話機を起動した。

 テレビ電話という過去の遺物を遥かに凌ぐ、3Dホログラムメッセンジャーが今は主流である。ところでこういったものに限らず何でもかんでもホログラム表示していて目が痛くなりそうだ。

 相手の顔が立体的に浮かび上がる。因縁の相手とは。

「ご機嫌よう、現王様。」

「あっ。」

 途端に大一の顔が曇った。一月前のことがついこの間のように感じる。相手はラ・イルマ・フィン・グレトヒェン。何のようだ、と眉をひそめて相手を窺う。対するイルマは呑気なものだった。

「やーやーこの間はどうも。なんか機嫌悪くさせちゃったみたいで。」

 素知らぬ顔をしてぬけぬけとそんなことを言ってくる。

「でもやだなぁ、ルゥに聞いたけど俺のこと覚えてない風だったんだって?」

 公の場ではないのでフランクに話しかけてくる。この男は『王』の知り合いである。

「…俺の前で俺の妻に手を出す男なんて知らないね。」

 大一は慌てなかった。まだ瞳には闘志が燃えて相手の出方次第では相応の処置を取るつもりであった。

「あれは、悪かったって。ルゥにも後で怒られたよ。『下手をすれば現王様に嫌われたかもしれないんですよ!』って。早いとこ弁解すりゃよかったなあ。」

 ルオンに手を出させてしまったのは自分の落ち度だと思っている大一は渋い表情になる。嫌われることはあっても大一からルオンを嫌うはずはない。

「それで何の用があって連絡をよこしたんですかね。」

 心が狭いとは思うがどうしても本能が警戒をしてしまう。

「今度、この間の詫びでどっかいい店に誘おうかと思って。」

 そんな友人感覚で歩み寄られても困る。大一の心は決まっている。イルマの誘いに即答した。

「悪いけど遠慮しとくよ、ここには五人も俺には勿体無いくらいの嫁がいるからね。」

「…ふぅん、でも最終的にはうちのルゥ一択でしょ。遊びの女ぐらい引っ掛けておかないと。最近遊んでないみたいだしさ。」

 余計なお世話だ。

 うんともすんとも言わない大一にイルマは少し感心したようだった。

「妻を娶ると変わるもんだなぁ。んで、ルゥが一番として4人のうち誰をキープにするんだよ。」

「そんなつもりはない。」

 この大一の答えには意外そうであった。『王』の元へ嫁いできた姫君たちは熾烈なデッドヒートを繰り広げてるというのが外の人々の印象である。

 そろそろ誰を一番にするか決め始めた頃だと思ったが…まだ拮抗しているということだろうか。

「あんまり難しく考えない方がいいんじゃないか?ほら体の相性とかで選んじゃってもさあ。」

「悪いけど俺は真剣なんだよ。」

 揺るがない大一の瞳。それは通話機越しでも伝わってきた。イルマはようやく引き下がった。

「…それなら誰も泣かせねえよな?適当に遊んでんだとしても女の子泣かせるやつはクソだ。」

 ここに来て初めて意見が合った。

「…忠告はありがたく受け取っとく。」

 イルマがいい加減そうに手を振って通信を終えた。

(みんなは今どんな気持ちなんだろう…)

 通話機をユエに返すと大一は彼女を伴って部屋を出ていった。

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