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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
木星ききます
136/190

[4]

 食器を下げるときにまごついたつもりはなかったが、シーラはすでに奥の角を曲がっていた。

「シーラ!」

 大一は角に消えていく後ろ足に向かって叫ぶ。反応はなく、その後を追うしかなかった。

 駆け足で角をのぞき込むとシーラもすでに早足で先へ先へと急いでいる。大一はもう一度呼びかけたが余計に驚かせて歩を早まらせただけだった。

 まだ追い続ける。

 だが以前と同じように、歩幅の差が二人の隔たりをなかなか縮めてくれない。こうなったら、と大一は側の出入り口から噴水の中庭にでる。直線距離でシーラの部屋までたどり着こうという考えだ。シーラの棟まではこっちのほうが断然近い。

 花畑をつっきり、居住棟を二つ越えたところで一気にシーラの部屋まで…と乱れた呼吸を整えていたが、シーラの棟の中庭への出入り口が施錠されている。

(やられた。)

 別の棟の出入り口からシーラの元へ。

 だがついた時にはもう遅くお祈りの時間にはいったそうなので、お引き取りを、と阻まれた。ここで少し待ちますと返したが今日は許してもらえなかった。命令させれば無理やりでも居座ることができるだろうが、そこまで強引にすることは大一にはできない。結局、言われた通り引き下がるほかなかった。

「二日連続で女性を追いかけまわしたご気分はいかがですか?」

 ユエが嫌みのように言ってくる。

 そのあとまた書斎に入って勉強、という気分にはとてもなれなかったので自室に戻ってベッドの上に突っ伏していた。

「シーラが何か…」

「なんだかよくわかっていないけれどとりあえず動く、現王様お得意のあれですね。」

「くそぅ、その言い方…。」

 ユエがこういうとげとげしい態度の時は、大方やり方が間違っていると暗に示していることが経験から言ってわかる。だから腹は立つが言い返せない。むしろ教えを乞いたいぐらいだ。

 側に控えているゆえに顔色をうかがうが、いつものように色もなく感情を読み取ることができない。

「…なんで逃げられるのかな。」

「命令をなされれば姫君といえど拒めませんが?」

「そうじゃないんだよ…。」

 近頃元気がないことは大一でもわかっていた、何かきっかけがあれば話せると思っていたのだが、そもそも話せる状態まで持ち込めないのが困ってしまう原因である。それに今日の発言。父親であるウーム庁長が来たときは、安心させる意味も込めて、馴染んできた、といったがやはり他の姫たちと違いまだ考え方が合わず孤立しているのが見て取れる。

 それに加えて大一はルオンと急接近した。それに触発されて宮中が色めいている中で、禁欲主義的な木星正教の教えはなかなか入り込む余地がない。それにのっとってシーラが動こうとしても煙たがられてしまうだろう。

「とにかく、俺はシーラだけが悲しむような結末にはしたくない…。」

「そうでしょうね。ただそのためには強引さも必要だと思いますが。」

「うーん…」

 強引さ。確かに『王』が命令すれば基本的には誰も逆らうことはできない。ただ、きちんと向き合って話し合いたいだけなのにそんなことをする必要が…。

 一対一で話し合うには…。

「…そうだ。」大一は枕から顔を上げた。

「ユエ、ペンと便せんはある?」

「…筆記具の類はこの世界に存在してません。」

 めったなことを言う。ペンが存在しなくても大丈夫とはどういう了見なのか。

「インクはあるでしょう。俺の思い描いた情報をそっちに送るからそれと紙を用意して。まさか紙までないとか言わないよな。」

 大一はやり返すようユエに強引さをみせつけて食って掛かった。用意出来ないとは言わせない、とまで言ってしまう。ユエが端末から大一のドライブのあたりに下り用のコードを付ける。大一は初めて自分からこの世界に情報を与えた。

「かしこまりました。必ずやご期待に添えますよう。」

 ユエがどこか笑みを含んだまま大一の部屋を後にした。

 追いかけて逃げられるのなら呼び出してしまえばいいのだ。簡単なことである。

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