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今日の昼は、大一の隣にルオンが座っていない。昨日は堪能いたしましたので、と遠慮して他の姫にその座を譲っている。円卓なので一定の距離を保てていると言いたいところだが、今日の両サイドについた、ドゥニアとイブは大一を挟むように接近していた。
「現王様、これ食べさせて。」
猫なで声でわざわざ大一の皿のものをイブが欲しがっている。
大一は過去にセクハラ発言で彼女を怒らせた記憶があるので少し怯えている。かと言って無言で、ぱかっと開けて待つ彼女の口の中に放り込んでもなんだか無愛想だろう。
「あ、あーん。」
もう従う他に選択肢がなかった。
今日の昼は何かと何かの手ごね合い挽き肉をじっくり焼いたもの。多分牛や豚など家畜の類だろうが、それらも進化して別の生き物のように扱われている。代替の新生物もいると聞いては、もはやアイビキ肉としか言えない。トロリとした舌触りのいい美味しいお肉である。
「んっ。」
小さく切った一口をパクっと食べた。唇に油がついてつるりと光った。
イブは大一を見つめながら布巾でトントンと軽く口元の油を拭きとる。布が動くたびにチラチラと唇が見えるせいで余計意識して彼女を眺めてしまう。
「ふっ、じゃ私からね。」
とニヤつきながらイブは自分の皿から一口切り取ろうとする。
「あっ、次はあたしの番ですよ!」
ドゥニアがそれにストップをかけた。しょうがない、と意外とすんなりイブはドゥニアと交代する。
「はい、現王様、あー。」
ちょっと大きすぎない?ドゥニアは顎が外れそうなくらい口を開けてる。彼女サイズの一口はこれなんだろう。ポタポタと汁が垂れているのを小さな手皿で受けている。
早く食べないと。
「あぐっ。」
顎がゴリっと音がした。それでも大一は気にせず一息でかぶりついてしまった。でも二人にもわかってほしい、自分は恥ずかしくてイッパイイッパイなのだ。
大一は顔全体で肉を噛み締めながら、自分の手拭きでドゥニアの手のひらをやさしく拭いてあげた。口に食べ物が入ったままのせいで苦しそうな息遣いであること以外はなかなか紳士的な動きである。
「くすぐったい。」
ドゥニアが甘い声を出して体をよじらせる。
ただ大一はまだもちゃもちゃと咀嚼を続けているので雰囲気も何もあったものではない。
「…んっんっ!」
あまりにもベタベタとするのでようやくマリーから物言いが入る。ルオンは知らぬ顔だ。
「あら、ローズマリー。何か?」
挑発するのは大得意だ。
「食事中にお二人共もう少しですね…」
「ならさっさと現王様の隣に座ればよかったじゃない。」
マリーが言い終わらぬうちに、イブがケラケラと笑いながらカウンターを食らわせる。だがマリーは毎朝一緒になれるので遠慮しているのだ。
「げ、現王様も!言われるがままではいけませんよ!」
「マリーもここに来ます?」
対面からドゥニアに誘われて一瞬顔がほころんだのが見えた。
「や、とにかく食事のときは食事!」
「本心隠してルールを遵守してると大変よ、ローズマリー。あなたが気づいたときには現王様のハジメテは何も残ってないかも。」
この発言は大一にも効いた。
「秩序なき王宮で何が平和の象徴ですか。」
それまで黙っていたシーラが一言発した。あまりにも真剣な声に食卓が静まりかえる。
「あ、あの…シーラ」
大一が話しかけようと手を伸ばすより先に、シーラが今の自分の発言にハッとする。
「失礼いたしました、食事中に。」
シーラは急いで食事を終えて誰よりも先に席を外してしまった。
「シーラ!」
大一はすでに空になっていた食器を片付け、みんなに謝ってからシーラの後を追った。




