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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
木星ききます
133/190

[1]

 カリストの正教庁の長を務めるイニ・ウームの娘、イニ・シーラ=ペルンロード。木星を主天とあおぐ木星正教の教えに従い、宇宙のバランスを保つという使命を胸に王宮にやってきていた。

 朝、シーラは自室で深いため息をついた。

(ここにきてからというもの、早合点をして失敗続きで…ドゥニア殿には慰めていただきましたが、必勝の策であった「火星の姫との連携」もうまく行かず…。)

 ピクニックの時にマリーの逆鱗に触れてしまったのはわかっている。だが、本当はあのような反応をされるとは思っていなかった。恋愛感情が希薄で合理的に物事を考えられる火星人、という性格を考慮したはずだった。

 目をつぶると今でも、あの日のマリーの剣幕が思い返される。

 この前の食事会で計画が難航していることを父に報告した。怒りもせず呆れもせず、父は一言、「がんばりなさい。」と告げただけだった。

(私は、木星正教の確固たる地位を得るために…そして皆が輪を乱さないよう秩序と平和に満ちた世界の象徴として働かなくてはならないのに…。)

 シーラはちらりとお祈りの部屋に目を向けた。

 従者たちが察してすぐに案内される。

「とにかく、このままではいけない…。」

 ずるずる引きずるように扉の向こうへ入っていった。


(主天たる現王様は昼食を終えられると最近は、秘書を伴って書斎に向かう…。)

 食堂にて。

 シーラはわざわざ食器をきれいに並べて片付けている大一にをじっと見つめた。本来ならばする必要のないことだが、「これぐらい当然」とのことで後片付けをしている。その横から手を差し伸べて手伝うルオンの姿があった。

(あの日以来、ルオン殿が妙に現王様に近づく。)

 各々がうすうす二人の間に何かあったと気づいているがなかなか口に出せない。具体的には「どこまで?」と聞きたいところである。

(私と約束を交わした現王様が…最後まで至るとは思いませんが…ルオン殿がここにきてトップに躍り出たと見ることは正しいでしょう。)

 ルオンは片付け終わった大一にこそこそと耳打ちをしている。

「違うって!」

 何を言われたのか顔を真っ赤にして否定する。その姿をルオンがくすくすと笑ってからかう。

 二人のやり取りは間違いなく恋人同士のそれである。まだ初々しさが残っているあたり、もしかしたらそこまで関係は進んでいないかもしれない。

 落ち着きを取り戻し、書斎に向かうため大一は姫君たちと別れようとする。

「あ、ではワタクシもご一緒に…」

 案の定ルオンが一歩進んで立候補する。

「あー、今日、あなたに用があるの、待って。」

 しかし今日はイブの従者に行く手を阻まれてしまった。ちょっと頬を膨らませるルオン。

 シーラは迷った。多分これからここで彼女を問い詰めるような審議が行われるだろう。普通の王室ならばこういうことはこっそり行われるし、もっと言うと基本的に競争相手への牽制は陰湿なものである。それはこんな開けっぴろげに話し合おうとするとは、イブの余裕の表れなのだろうか。

 オープンになればなるほどクリティカルな質問は出にくくなる。ということはここにいてもシーラが想像できるようなことまでしか聞かれないような気がする。それなのであればここから出てしまいたい…。

 シーラがふと目を上げると対面のマリーと目が合った。まだ彼女とは気まずいままである。

(今、睨まれたでしょうか…)

 マリーは真面目な顔をしているときは仏頂面で、何かの不満を抱いているように見える。今ももしかしたらシーラがこの場所にいることが気に食わないのかもしれない。シーラの決心はついた。

「あの、私はお昼の祈りがありますので。」

 勝手にいたたまれなくなったシーラが裾を広げかしずいてからその場を離れる。

 スライドドアがしっかりと閉じられた。その脇をイブの従者たちが固める。

「…で?どこまでいったの。」

 全員の着席を待たずイブが前のめりになっていきなりな質問をする。

 その横のドゥニアも目を輝かせた。

「ザ、ザハブパトラ姫!」

「何よ?」

「そういう質問はまずですね、手順を持って…」

「そうやって手をこまねいてるから、あんたのほうが順調だったのにルオンがさっさと済ませちゃうのよ。」

「な゛っ…」

 マリーは手痛いカウンターをもらった。

 ルオンは全く動じていない。それどころか以前よりも増して全身からあふれ出る余裕オーラが彼女の笑みをより一層まぶしいものに変えている。

「そんな大げさなことではありませんわ。」言葉遣いすら拡張高く落ち着きがある。

「少し現王様と…唇と、唇をちゅっ、と」

 人差し指の腹どうしを合わせる。

「おおーっ」

「まあ仲直りのキスというやつです。」

 とルオンはすました顔で言った。しかし、ドゥニアやマリーはともかくイブ相手にはごまかそうとしても通じない。

「ふふーん。そう、仲直り、ねえ?」

 ニヤニヤとルオンの顔を見守った。

「ええ、仲直りです。」

 ルオンとイブが互いに見透かしあっていることは百も承知。キスだけとはいえど特別な夜であったことは間違いがないのだ。

「これは私もうかうかしてられないかあ。」

 とイブは腕を伸ばして体をほぐす。

「あ、あのスルカ姫。」

 端にちょこんと座って会話を聞いていたマリーが、手を挙げて発言する。

「仲直りってことはそれ以上のことは特に何も…?」

「『それ以上』とは?」

 ルオンは素知らぬ顔で首をかしげる。

「えっ、いやそれは…その…えっと…」

 もじもじと急に自分が口にしようとしたことに恥ずかしさを覚えるマリー。

「そうですねえ、必死にせがめばいけたと思いますよ。」

「!!」マリーが顔を振り上げる。

「でもワタクシはマリー様と違ってがっついていないので…。」

「だっ誰ががっついてますって!?」

 姫にあるまじき声を荒げて立ち上がってしまった。

「はい!あたしも!」

 ドゥニアがさっさと流れを断ち切る。

「チューできてうれしかった?」

 ルオンはハッとする。

「はい…とても。」

 はにかむ乙女の頬。他の姫たちの対抗心を一層かき立てるには十分だった。

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