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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
止水
118/190

[4]

 興味を持つ。興味を持つ。

「どうなさいました?」

 大一の目とイブの翡翠の瞳とかち合う。

 今日はいよいよ晩餐会である。食事は夜からなので、昼頃にはほぼ全員が到着ししばしの歓談ののち宮殿内を軽く観光、観劇などの催し物もある。

 5人の姫たちはそれぞれ今日の日のための正装をしている。

 イブはいつものザックリゆったりした薄手の布ではなく、金糸が織り込まれた手触りの良い光沢のあるドレスをまとっている。乳白色のなめらかな布地がイブの褐色の肌を際だたせる。

「あれ?」

 イブの髪の毛がいつもより赤みがかって見える。いつもは白が強い明るいブロンドの髪の毛なのだが、それが今日は赤というよりうすいピンク色が加えられているように見える。

「何かおかしなところが…?」

 ほのかな笑みをたたえながら、じっと見つめる大一をイブはうかがう。

「いや、髪を染めたのかな…って。」

「あら。」彼女の目が少し大きく開いた。指を口元に持っていってくっくと笑う。

「前のほうがよかったですか?」

「違う違うそんなことないって、今のも似合ってると思うし。」

「…では、どっちでもいいのですか?」

「……う…い、いじわる言わないでくれ…」

 答えに詰まってばつの悪そうな顔をする大一にイブは謝った。

「ごめんなさい、現王様。ちょっとうれしかったので、つい困らせてみたくなってしまって。」

 さっと左手でそばに立つ侍女から扇を受け取り口を核にしてはにかんだ。瞳はちらちらと大一の様子をうかがっている。イブは褒めても素直に喜んでくれない。

 万全のイブのそばを離れて、ほかの姫たちの状況をうかがいに見て回る。おそらくドゥニアはまだバタバタしているのではないか。謁見の間を抜けて、まだ姿の見えないドゥニアの棟まで向かった。

 案の定である。

 入り口付近は男性の従者たちで固められ、きゃいきゃいと室内から女性たちの声が聞こえる。

「あっこれは、現王様。おうい、現王様だぞ、道を開けろう。」

 ワラワラと好き勝手にたむろしていた場所から男たちがどく。そんな統率0の動きでも確かに大一が通れる幅は道が開かれているのだから不思議だ。しかし男衆はこういうがノックしていいものか迷う。なぜなら内側からはまだ、「これがいいです!あれにしましょう!」と何かを選ぶ声が聞こえている。

「ドゥニア?そろそろ準備はできそう?」

 大一は扉の外で声を張り上げた。一瞬向こう側が静まり、モニターのほうからアワアワと焦る声がした。

「現王様っ!あの、その、ごめんなさい!お衣装が――」

「そうか、ならまだ時間はあるから落ち着いて――…ってごめん!」

 慌てて目をその場に伏せる。それはそうだ一瞬しか見えなかった、もとい一瞬だけ見えてしまったが、まだ彼女は服をきちんと着れていない。あられもない姿でモニターに応答したものだ。

 大一の様子がよく伝わらないようでドゥニアはそのまましゃべる。

「現王様はドレスはどっちがいいと思いますか?こっちのかわいいフリルの多めのものか、おへそが出るツーピースドレスのほうか。あれ?見えてます?」

 向こうには大一の頭部しか映っていない。

「いや、ドゥニア、いまはちょっと…」

「…?」

「何か着てからなら顔をあげられるんだけど…」

 地面に跳ね返った声がマイクに拾われるせいかちょっと遠い。

「えっ、下着は着てますよ?」

「そうじゃなくてさ!」

 ちょっと羞恥の感覚が違うらしい。

「おへその出るほうがドゥニアの元気さが出せていいんじゃないかな!じゃあまたあとでね!」

 もういたたまれなくなった大一は、早口で好みを告げてさっさと逃げ去るようにその場から走っていった。

 息を切らせてと今度はマリーの部屋の戸を叩く。しかし、返事はなくたまたま通りがかった宮殿の者から、「つい先ほど火星の姫様は部屋を後にされておりましたよ。」と入れ違いになったことを教えられた。

 シーラは昼前のお祈りの時間らしく会うことができないと思っていたが、

「どうぞ、中でお待ちください。」

 とすんなり通されてしまった。様子を見に来ただけだったのであまり長居をするつもりはなかったのだけれど、行為を断るわけにもいくまい。彼女の部屋でじっと待った。

 すると思ったよりは早く、シーラがお祈りのための部屋から出てくる。

「そろそろ準備を――っあ、現王様?」

 まだ閉じ切っていなかったお祈り部屋のドアをバンと大きな音を立てて閉める。そのような扱いをしても大丈夫なのだろうか。

「い、いかがされましたか、今日は来賓を迎えなくてはならないはず…ここで過ごされていては。」

「シーラに始まる前に会おうと思って。」

「!…わ、私のためにですか?」

 手櫛できらめく長い髪を梳いて軽く身だしなみを整える。そうやって少しはにかむだけで頬の赤みが分かりやすい透明感のある肌艶だ。

「では、現王様にお茶をふるまって。」

「はい。」

 シーラが大一の待つテーブルまで近寄って右隣の席に腰を掛けた。所作にはみじんの無駄もなく、落ち着き払ったたたずまいには一種の完成された美しさがこもっている…そんな感じだろう。

 シーラはその体躯にも関わらず、本当に流れるような動きをする。慣れた手つきで従者から差し出されたカップを一つ受け取り、大一の前に送る。もう一つは自分でとった。

「シーラはもう準備が整ってるって感じだな。」

 窓からさす日差しといい、静かに控える従者たちといい余裕すら感じさせるその部屋の趣が大一にそう感じさせた。

 シーラのドレスは今日は黒を基調とした服である。喪に伏す時の色として忌み嫌われやすいが、色白で美しい女性にとってはどこかはかなげな雰囲気を醸し出す不思議な色だ。全身黒、という感じではなく、レース状の襟や袖からうっすらと彼女の肌が見えて少しどきどきとしてしまう。シーラの黒く長いまつ毛がピカピカ輝いているように見える。

「結構ゆったりしたドレスだね。」

 それでもシーラにふさわしい感じのするものだった。飾り毛のないシンプルなデザインが素敵だ。

「えっ。」

 まだまだ他人をほめ慣れてない大一は、余計なことを言ってしまったのかと慌てる。

「えっ、何かまずいことを…」

 シーラが少し下をうつむく。これからって時に俺はなんて間違いを…と頭を抱えそうになった矢先、

「す、すみません、これは寝間着でして…そのまだ着替えが終わっていないので…」

「えっ。」

 さっと耳まで赤くなったシーラが、「すみません、遅れてしまうのでこれ以上は」と大一に部屋から出て行ってもらった。そうか、あれは寝間着…だからあそこまで薄かったのか。意外とぎりぎりまで着替えないタイプなのだろうか。そんなことを考えながら、いよいよ最後のルオンの部屋の前までたどり着いた。

「んっ、んんっ」

 大事なところで噛まないように軽く咳払いで喉を鳴らしてから戸を叩く。ルオンはきちんと誘いたい。

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