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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
止水
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[3]

 王の席の右からシーラ、ドゥニア、イブ、マリー、ルオンとなった。ルオンが進んで端になったことでシーラがそれに呼応するように右端を取るドゥニアの意見を尊重し、あとは左側というところで、イブが、

「まあここはローズマリーに譲ってあげましょうか。」

 と言い出す。

「あなたがそこまで現王様に夢中になったのだもの。」

 ニヤニヤと一言付け加えたせいで、マリーの顔の赤みが強まる。

「違います!いいですそういう理由なら!」

 何も違わないし自分の意思を示すいい機会なのだが否定してしまう。

「スルカ姫とザハブパトラ姫にはたびたび譲られてばかりですからここは遠慮します!」

 あらそう?とイブがほくそ笑んだときに、マリーは自分がはめられたことを悟った。ただそれを指摘してしまうとまた恥ずかしい。こうして歯がゆい思いをしながら席順が決定した。

「俺、何もしてない…」

「せっかく足を運んでいただいたのにごめんなさい。」

 足?手を引っ張っただけだよ、とドゥニアが素直に答える。

「あ、え、選び直しますか!?」

 いっぱい食わされたマリーをその元凶のイブがよしなさいよしなさい、と抑え込む。

 彼女たちにどんどん決められてしまった。もともと誰かを選ぶことを避けているので安心といえば安心なのだが…。

(これじゃあ…)

 先程のルオンの表情がどうしても頭から離れてくれない。

 五人の会話が盛り上がる場から一人きりで先に自室へ帰っていく。情けない。

「…いや、俺は誰かを選んじゃいけないわけだし、これでいいんだよ!」

 しんとした白い廊下で胸を張ってみる。がすぐに気持ちがしぼんでしまう。自分はいらないのか?最初の頃はもう少しいろいろやれた気もするが…。

「現王様。」

 ふいに前から呼び止められる。いつもの体にフィットしたひとつなぎのスーツでユエがやってきていた。

「あ、話し合いはすんだ。俺もそろそろ寝るよ。」

「左様ですか。」

 短く応えるユエの横を過ぎて部屋の前につく。

 部屋の扉に手をかけると瞬時に生体を認証して入り口が開く。これも同じ遺伝子がなせるわざか。

「なあ…」

 大一は立ち止まったままユエに声をかける。

「これで、いいのか?」

「何がでしょうか。」

「みんなの気分を害さないよう全体の仲を取り持って、一人ひとりが協力的になれようにすることが…。」

「悪いことではありません。」

 いい、とはユエは答えなかった。

「俺は選んじゃいけないんだよな。」

「どなたかを選びたいのですか?」

「いや、五人を納得させるような決断を俺からするとき…」

 ガリガリと爪が人工頭髪をかき分けて強く頭皮をひっかく。

「それは至難の業です。」

 わかってる。大一の手につい力がこもる。

「むずかしいってのは…わかってる。でも何もしないと…」

「姫君たちから愛想を尽かされそう、と。」

 大一はハッとしてユエに振り返った。ユエは直立したままいつも通りの仮面をかぶったような表情をしている。

 やはり恐れていた。無理やり与えられた使命を果たせなくなることよりも大きな、彼女たちに相手にされなくなることを。

「問題はありません。あなたが『王』である限りそれはありえません。」

 そう感情のこもらない声でユエは言うが、大一は肌で感じている。いや、今日になってようやく気づいた、ともいう。

「そういう、力に縛られたのではなくて…」

「………簡単なことなのですが。今伺っているお悩みの原因も。」

 そんなこともわからないのか、と試すような視線を向けられる。

「わからないんだよ。俺には。頼む、教えてくれ。」

 頭を垂れ、すがるような声をひねり出す。

 ユエはどんどん大一の胸の内をこじ開けていってしまう。その上、今感じている不安すらお見通しなのだ。彼女には敵わない。

「まず私からは、正妻を選ぶな、と申しただけで他のときは別にお選びになって構いません。夜伽をするなとも申しましたが、勘違いされない範囲であれば夜に姫君とお会いなさることも問題ないわけです。」

 大一は驚く。何一つそういうことは聞かされていなかった。

「本来ならご自分でそこまで思い至っていただきたかったわけですが。まあ、たとえ現王様がそうなさらずともこちらとしては問題はないわけです。」

 ユエは前に顔を突き出して大一に近寄る。ツンと澄んだ香りが鼻を刺激した。

「ですが今、こうして悩んでいらっしゃる。」

 大一の胸を打つ不思議な鼓動にも気が付かずユエは教え続ける。

「このままいけばご推察の通り、全員から愛想を尽かされます。嫌われはしないでしょうがね。実際そうなった代の王室の末路をお聞きになりますか?」

 大一は首を必死に横に降る。ユエの一言一言が大一に深く深く突き刺さって恐怖を煽られる。

「現王様、姫君たちと過ごしあなたが欲深くなっているのがよくわかります。」

「…えっ」

「あなたは愛されたいのです。あの五人の可憐な姫君に。その身に触れること叶わずとも、心は繋がりたいのです。」

 無条件で愛を注いでくれるとはじめにユエから言われた。それには間違いなかった。でも応じてはいけないとどこか頭で否定していたらしい。

「本当は、何もせずとも、自然に過ごしているだけで勝手に愛されるなどということは無いんですよ。」

 都合のいいことはないとわかっていたはずなのに。いい人は好かれるけれど愛されはしない。ユエから以前言われたことだ。愛してもらえるってどういうことか大一なりに考えて動いていた、つもりだった。

「現王様、彼女たちを振り向かせるのであれば。」

 もっと一人ひとりに興味を持つことです。

 一人ひとりを見てあげることです。

 彼女たちを愛してくださいませ。


 頭の中に刻まれていった。

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