(3)
外の様子をあまり見ないまま夜を迎えてしまった。大一はユエに案内され、ベッドの上ではじめての夜を迎えていた。残念ながら一人である。『王』のためのベッドで驚くような広さを持っている。羽毛布団はもうとっくに使用されなくなっているそうで、化学繊維を木星人が開発したアジンワータというもこもことした素材に織り込んだものが作られているらしい。大一にはわからないが、脳が勝手にどこかにアクセスして答えを持ってきてしまった。
(無限の知識を持っていても何一つ理解できないってのは辛いな。)
頭が僅かに震えているのを感じながら、大一はベッドに倒れ込む。
天蓋付きのキングサイズ、しかしこれがあまりにも無機質でそのままベッドと天蓋の隙間を埋めてしまえばシェルターと呼ばれても差し支えない。
(目が覚めたら、砂浜の上だったとかはないだろうか)
脳が必死に「過去 帰り方」「時間遡行 方法」を検索している。有力な情報はどこにもないことがわかると同時に、未来の世界の情報にアクセスできるシステムが、大一にいまいるこの場所が現実なのだと教えてくれている。
いろいろありすぎて疲れているにも関わらず大一は寝付けない。次に目覚めたときに同じ景色を見られる自信が今はどこにもない。もっと言うと本当に目覚められるのかも疑問だった。
(ル・ルオン…)
いろんな人物の顔や絵画が頭に浮かび上がる。少し考え込んだだけでこれなのだ。電源は落とせないものか。今は彼女のことだけを思い返したい…。
姫は『王』の婚約者としてその者が望むと望まないと関係なくに政略上都合がいいものが選ばれる。今日聞いた話はそういうことだ。そしてその誰もが第一夫人に、お妃様になるのを至上とする。
(みんな自分以外の誰かに振り回されているのかな…。)
そう考えると少しだけ心が落ち着いた。ようやく眠気がやってくる。まだ見ぬ彼女たちを思って眠るのは、はじめてのことだった。