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地球の王のクイーンアソート  作者: アホイヨーソロー
シェルター計画 後
103/190

〈6〉

「見ないうちにずいぶんワイルドな出で立ちになられましたね。」

 樹林を抜けたことよっていろんなところに葉っぱの切り傷を作ってしまっている。ただ幸い、大一が壁になったおかげでシーラの透き通る白い肌には傷一つついていなかった。

 到着するまでの経緯を話したら当然みんなに笑われた。

「そんなに運転したかったんですか?」

「意外とカッコつけたがりなのかしらね。」

 好きなように言われる。

「ごめん、シーラ。」

 大一はまず彼女に頭を下げる。危険な目に合わせて流石に怒っているだろう。

「いえ、とんでもない。もったいないお言葉です。」

 シーラは短くそれだけを告げた。少し頬を赤らめているのが見えた。

「手当を。」

 用意周到、なルオンが薬箱を使って大一の傷口を消毒しようとする。だが、これまた用意周到なシーラが割って入った。

「水星のルオン殿。それでは時間がかかってしまいますから、これで塞ぎます。」

 取り出したのはスプレー缶のようなものだが、缶の液体は入っていない。ボタンを押しながらさっと肌をなぞると消毒と傷口を塞ぐことが同時にできる。便利な機械だ。

 有無を言わさずさっさと手際よく大一の肌を機械でなぞる。

「ありがとう。」

「当然です。」

 感謝をされて誇らしげである。

「ルオンも。」

「ワタクシは何も。ただ、もったいないのは、せっかく甲斐甲斐しくお世話できるチャンスを逃してしまったことですわ。」

 わざとらしく目元に手を当てて目尻を拭うような仕草をする。

「撫でたり揉んだりして現王様をドキドキさせたかったのですが。」

「それじゃ興奮しすぎて、傷口が塞がらないでしょ。」

「流石にもう大丈夫だって!」

 からかわれてすぐにムキになる。この二人には常に手玉に取られているような気がする。

「えへん、おほん。」みんなを先導するドゥニアがはっきりと言葉にしながら咳払いをする。

「んふっ…」

 ビシリと屹立しているのがなんとなく面白く、大一の鼻から息が漏れた。

「現王様、笑わないでくださいよ!」

「ごめんごめん、そんなつもりじゃ…」

 少し慌てたものの「も〜」と頬を膨らましながらガイドを再開する。

「あたしがみんなで見たかったのはここからもう少し先になります!」

「じゃあそこで集合すれば…」

「みんな同時に見たかったので!」

 元も子もないことを言われたがドゥニアは反論をした。ビークルをここに乗り捨ててみんなで歩いていこうというのだ。

(この先にあるのは…)

 いや、やめよう。せっかくドゥニアがみんなで見たいというのだから、大一が検索機能でどういうところなのか先読みしてしまう必要はない。そっと目を閉じて心を落ち着かせた。

「ちょ…現王様気が早すぎませんか…?」

 マリーが突っ込む。ルオンが吹き出した。

「いや、これは心を落ち着かせようと。」

「やっぱり興奮してたんですね。」

「それも違うって!」

 ケラケラとみんなで笑い合う。ただ、視界の端の方でそれに混ざらず、不機嫌そうな表情の彼女がいた。

「ドゥニアに連れて行ってもらおう。ほら、シーラも。」

「!」

 その時、自分でも気づかないくらいの自然な流れにのって、なめらかな彼女の手をとっていた。大一、驚きのはじめてのエスコートである。…踊りのときは完全に振り回されていた。

 だが驚いたのはシーラも同じであった。あまりのことにシーラは手を振り払ってしまう。

「あっ!その…これは…」

「だ、大丈夫…俺もいっぱいいっぱいだったみたいだし。」

 自分のしたことに今更照れくさくなってしまい、逆にここで手を離されてよかったかもしれない。

「自分から握っておいて、いっぱいいっぱいって…くくく…」

 イブの苦笑が聞こえる。

「ザハブパトラ姫、そんなに笑っちゃだめですよ。いつものことなんですから。」

「いえいえ、ここは現王様の成長が見られたと喜ぶところでしょう。」

 もう完全に恋愛に関して子ども扱いだ。仕方ないが少し悔しい。だがドゥニアとシーラは違った。

「あなた方は…」

 まずい。大一が割って入ろうとしたところで思い切り右手を引っ張られた。

「うわっ!?」

「カリストの姫様。あたしが現王様の右手を取りますので、左手をどうぞ取ってください。自分からいけば恥ずかしくないですよ!こんな感じで!」

 大一ではなく、シーラを励ますようにドゥニアが歯を見せて笑う。

「しかしそんな…恐れ多い…」

「現王様が望んでいますから!」

 そう。シーラもドゥニアも形は違えど地球の『王』を敬愛するもの同士。現王が是といえばそれに従う二人なのだ。大一もドゥニアに後押しされて手を差し伸べる。

「うん、シーラが良ければ。」

「謹んでお受けいたします…。」

 はにかみながらシーラは手を添えた。

 背の一番高い姫と、背の一番低い姫に挟まれて、三人並んで歩いていく。呆然とする残りの三人。姫たちにやられっぱなしだったのでほんの少しだけスッキリしたのは内緒である。

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