〈3〉
ザニアトリ星立自然公園と人類の足跡、広大な土地は端から端まで一日で回ろうとすると、専用のレールウェイを使う必要がある。
しかしながらまだ調査は続いており、遺跡の奥深くには当然行くことができず、足跡のエリアもそんなに側までは近づくことができない。
つまりメインとなる遺跡の観光はほんの2、30分ほどですむ。地球をバッサリ駆け抜けて二、三時間で到着したのにたったそれだけではあまりにも割に合わない。
それにも関わらずドゥニアは柵に腕をかけて身を乗り出しそのガラガラの展示を眺めていた。
「んんん〜…」
ドゥニアの鼻息は荒く、ひと目で嬉しそうなのが伝わる。
「存分にご覧くださいね。」
流石にそこまで興味が続かないルオンが軽く告げる。
「現王様、いかがでしょう?すごくないですか?」
人類の前の姿の軌跡がそこにはっきりと刻まれている。その力の入り具合から重心、骨格、当時の生活習慣を想像することができる。確かに、すごいことなのかもしれない。
「遥か遥か彼方のあたしたちのご先祖様があそこで歩いてたの。なんだかびっくりしちゃいますよね。」
「うん、そうだね…。」
社会科見学もイマイチ乗り気ではなかった大一にとって、このピクニックだって例外ではない。あまり興味はない。関心もない。と言いたいところだが、今日はドゥニアの話をよく聞いていた。
特別生物学や歴史学に明るいわけでもなく、アカデミックな鋭い推察ができるわげでもなく、ただひたすら嬉しそうに自分の思ったことを口にする。それが大一を惹き付つけていた。
「昔の地球の人はどんな恋をしてたんでしょうね!」
突然そんなことも口にする。
「ドゥニアはロマンチストねえ…。」
手すりに肘をかけ頬杖を付きながらもイブは笑ってドゥニアの話すことをしっかり聞いていた。
「どうしてわざわざぬかるんでいた道を歩いたのでしょうか。」
「うん、柔らかい土って足で踏み固めたくなるの。」
「ふふ、ドゥニア様はそうなんですか?では、この遺跡にある無数の足跡はみんなで土遊びをした跡、と。」
「かもしれないです。」
意気揚々と答える。正しいことは誰にもわからないが、ドゥニアの答えなら素敵かもしれない。
「たしかにこれだけの足跡の化石があるのは奇跡的なことでしょう。」
後ろから眺めていたシーラが前に出てくる。
「足跡をつけた理由はともかく現王様へとつながる貴重な資料です。」
それはそうだろうが、その壮大な流れに自分が関係すると言われてもいまいち実感がわかない。
「そうですね!」
だがドゥニアはシーラに同調する。
「他星に住む我々の身体的な変化は決して進化とは言いません、環境への順応の結果です。もとをたどれば私達はこの足跡の主と同じなのです。」
熱をこめてシーラが主張をし、うんうんとそれをドゥニアが肯定する。
「であるので、我々は日々現王様へ感謝と畏敬の念を忘れることなく過ごしていかなければ…」
「待った。」
話があらぬ方向へ飛びそうになったのでシーラの話を大一は遮る。
「そう言ってもらえると嬉しいけど、こっちがビビっちゃうよ。俺はそんなカミサマみたいなできた人じゃないって。」
「し、しかし…」
まだ少しなにか言いたそうだったが、納得したのかシーラはそのまま「失礼いたしました。」と引き下がった。
「そんなあ、現王様は立派ですよ!」
「ははは、照れくさいな、ありがとう。ドゥニア。シーラ。」
二人は少しはにかんで「はい。」とだけ返した。
イブと目が合う。彼女が少しニヤリと笑った気がした。
(な、なんだろう、今笑った意味はなんだ?)
大一は今、全神経をとがらせて五人の姫へ気を配っている。誰か不満そうな人はいないか、退屈にしている人は?次は誰が何をしたがっているのか?五人の姫をみんな満足させる、というのは大変だ。
今だってシーラとドゥニアの会話を続けさせていたら、おそらくマリーあたりが不機嫌になり、シーラだけに対して不平の言葉を投げかけただろう。そうなったら今度はシーラが、同意見だったドゥニアに対しては何もないのかと不満が募る。だからこその先の迅速な対応である。自分が緩衝材となり、受け止め、かつ発言者のこともケアしていく。
(せっかくのみんなでお出かけなんだからさ…)
女性経験が足りない大一は常に気を貼ることで今日を乗り切る心づもりであった。
「現王様!現王様!」
勢いよく体をゆすられる。
「わっ、ひゃっ」
「次に行きましょう!今日はあたしが案内します!」
先陣をきってドゥニアがどんどん進んでいく。
(今日は俺にできることを。)
今週は明日(6⁄24)も22時に更新いたします。




