(2)
髪形がしっかりさっぱり出来上がった。短めという大一の希望は残しつつ、あとはユエの理想の形になったようだ。以外にもこれが自分に似合っていてなんだか照れくさかった。
「では次ですね。」
ユエの合図とともに椅子や鏡が自動的に片付いていく。この白い部屋は一体何のための部屋なのだろうか。
「あなたはこの世界について知らなくてはなりません。一般教養が必要です。」
柔らかそうなの椅子が二脚、横並びでタイル床からゆっくり生えてくる。触れてみるとウレタンのような手触りだった。ユエがそっと手で椅子を指し腰をかけるよう促す。いやしかし、どうも椅子同士の間隔が狭い。大一は着席せずに話題を変える。
「一般教養なら頭に、その…学習ドライブ?があるんだからそれに入れれば…」
あまり口に出したくはなかったが、羞恥心を煽られるよりは軽い。
「たしかにそうですね。」
ユエが顎に手を当てる。
「ならそれでささっとすれば…」
「ですが知識があるだけではいけません。理解する、というのは記録ではないのです。確かに脳の二割ほどは機械になっていますが、自分で考えることを放棄されるのは違いますよ。」
思いがけない説教が飛んできてたじろいでしまう。だが正論だろうと釈然としない。そっち都合で連れてこられたんだぞ。険しい表情をしていたのかユエが即座に謝ってくる。
「大変失礼な真似をいたしました。王に意見をするなど…申し訳ございません。」
あまりに大げさな深々とした礼を見てしまうとどうしてもそれ以上の攻める気はなくなるのが大一。
「すみません、ユエさんに教えていただけるのならそのほうがいいですよね…。こういうのもあれですけど…俺ここのこと何も知らないから、代理を務めるとか不安しかないから、お願いします。」
返事のようにペコリとお辞儀をし、椅子に座った。
「ありがとうございます。では……それと失礼します。ユエと呼ぶことが適切です。」
以前よりも朗らかに言われた気がする。そして故も腰をかける。
忘れていた――。膝が触れ合うこの距離感はなんだ。
「ではまず各星人の特徴ですが………」
ユエは気にもとめずに授業を始める。そのせいで一方的に意識しているのがわかって余計に恥ずかしい。身振り手振り小朝賄賂すべてが目に映ってしまって魅力的な情報の数々に今はなされている内容が何なのか全くもって頭に入らない。いや、学習機能ドライブは働いているようで内容自体は理解できなくとも記録されていく。この緊張が二時間ちょっと続いた。
「今日はこのあたりで。」
ようやく開放されたときも、きれいな声が響くだけでよくわかっていない。惚ける大一をユエが釘をさす。
「王様はどうも女性にめっぽう弱いようであらせられますね。」
「う…」
緩みきった表情にいきなり冷水をかけられた思いをした。これには言い返せない。異性とのちゃんとしたお付き合いなどまずもって未経験。告白一つであの大騒ぎ、しかも大敗を喫している。すべてが初恋に映って大変なのである。
「いいですか3日後、明々後日には星の姫様のパレードがあります。今回の場合はそれが初顔合わせ、ボロが出てしまい偽物だと気づかれると大変なのです。」
「それはわかってるつもりなんですけど、やっぱり実感がわかなくて…例えば、具体的にどれくらいマズイんですか。」
自分の抱える秘密の大きさ、小さくないとは理解しつつもどれほどまでかは考えが至らない。
「王の行方不明で一つ、巡業をすっぽかしたことで一つ、姫を裏切ったことで一つ、時間遡行の禁忌を犯したことで一つ。」
「えっ」
禁忌。自分は本当にここにはいてはいけない人間だということが強烈に突きつけられる。
「な、なんでそこまでして…」
「もちろん先にも言いましたようにメンツ。そして絶対失敗してはいけないことなのです。地球の権威が堕ちるということは太陽系のバランスが崩れるのと等しい。抑止の力を失った惑星系でどんなことが起こるか、想像に難くはありません。リスクを犯してでも守らなくてはいけないのです。」
あまりに重大なことを淡々としゃべるのもで大一は面喰らってしまった。
「ですから、あと三日であなたには王様よりも王らしくしていただかなければならないのです。」
言葉につまりパクパクと口を動かす大一。そしてもう一つ、ユエは大一に大事なことを伝えた。
「婚約者のお嬢様たちはどの代でも自分を正室にさせるべく、熱烈なアプローチをされてきます。私ごときが触れただけでドギマギフワフワされていてはいけませんよ。」
冗談のような本気の使命が大一に重くのしかかった。