友情
「そいつと友達になるのはやめとけェ?」
そう遮って来たのは
クラスの内田 金彦。
いじめを起こすような卑劣な奴だ
喋り方といい、顔といい頭にくる
ついでに眼鏡をかけているところが尚更だ
「え…」
「おい、どういう事だ内田。
波多野さんに何が言いたい?」
「ふっふーん、聞きたいか?」
「てんめぇ、ずべこべ言わずに
教えやがれ!!はたのっちに
何かしたらタダじゃおかねえからな!!」
照が内田の胸ぐらを掴み声を張り上げる。
「ならば言いましょう?
でも君たち2人はもう
知っているんじゃあないかァい?
その女が怪物だって事を。」
「「…!」」
皆が揃っている教室で
言い放ったせいで
この教室内は格段に騒がしくなる
え!どういう事??!
あの子が怪物って??!
どうせ嘘だろ?!!
怪物ってどういう事なんだ!?
ざわざわ…
「波多野さん、
聞くんじゃあないこんな奴のこと!!」
────私、やっぱり
「そうだぞ!はたのっち!!
無視するんだ!!」
────こうなるんだ
「おい!波多野さん!」
────みんな嫌い
ガタンッッ!!カランカラン…
波多野さんが座っていた椅子が
勢いよく倒れ人波を掻き分け
教室の外へ走り抜けていく
お弁当箱も床に散乱し
大好きな目玉焼きもこぼれ落ちていた
「波多野…さん」
「ふふふふっ、あはっはっはっは!!」
ダァン!!!!!「んぐあっ…!!」
照が内田を殴り飛ばし
内田は机の群れの中に倒れ込んだ
「おっ…お前後で先生に言ってやるんだからなァ?!」
「勝手にしろ。
おい、月詩、はたのっち追いかけるぞ」
「おう」
僕達は散らかった波多野さんのお弁当と
椅子を元に戻して探しに出た
「どこにいると思う??」
「んー…、波多野さんが行きそうな…場所
空…きっと空が見える場所に居る」
「って事は屋上か!!
うっし、待ってろはたのっち!!」
僕達は必死になって走った。
すれ違う人に多少ぶつかりながら
先生に出会い注意されながら
会ったら何から説明しようかなどは考えず
ただひたすら屋上へと走った。
ガチャン…キィーー…
はあ…はあ…はあ
息を整え顔を上げると転落防止のフェンスと
綺麗に澄み渡る青空が見え
そのフェンスの先に
波多野さんが立っているのが見えた
「「いた!!!」」
きっとここから落ちても私は
死なないんだろうな
きっと私はここから落ちても
死ねないんだろうな
きっと私はここから落ちても───
「波多野さん!!!」
「はたのっち!!!」
「…!!…2人とも…どうして…」
咄嗟にこちらを振り返った波多野さんと
目が合ったがすぐ逸らされてしまう。
僕達も内田同様、私の事を
怪物と思っているに違いない
そう思っているんだろう。
「そりゃあ放っておけるわけないだろ!!
はたのっちの事心配なのは当たり前だろ!!」
「当たり前…?」
「そうだよ波多野さん。
今日出会ったばかりで
お互いの事あんまり知らないし
心配される筋合いなんて無い。
そう言いたいのはわかる」
「…うるさいよ…もう。
心配されたくもないのに
死にたいのに死ねないこの痛みが
もう消えちゃいたいのに
消えることが出来ないこの痛みが
解る事が出来る…!??解らないでしょ!!?」
誰にも打ち明けずにいた
心の中に溜まっていたものを
吐き出していく波多野さんの頬には
たくさんの涙が流れていた
心から流さず溜まっていた雫なのだろう。
とても重い内容に思えるが
僕と照はそんな事は感じなかった
波多野さんが抱いている痛みは解らない、
いや、正直解りたくもない。
分かったところで何が出来る?
一緒にその痛みを共感してだらだら長話か?
冗談じゃない。
痛みを解り合い長話してる暇があるなら
その痛みの原因を潰すまで。
僕らには答えがもう出ていた。
────その答えは
「僕達が守って闘ってやる」