奇怪
波多野さんが転校してきて
数時間しか経ってはいないが
クラスメイトとは特に何もなく接し
意外と短時間ではあるが打ち解けてきたようだ
ただ、やはり控えめで少し暗い
これはもうデフォルトなのであろう
しかし、奇怪な事を目にしてしまう
春野 月詩
4時限目体育────
「よーし!みんな体育館には居るな?
来ていないやつはいないか!」
桂木先生が皆に問う
「はーい!大丈夫でーす!!」
と、元気な声が体育館内に響く
その声の主は
宇宙野小鳥、
彼女が先生へと報告するのは2―3のクラス長だからだ。
彼女の特徴を述べるならばクラス内で1番背が低くしかし
負けず嫌いで頑張り屋な女の子、と言ったところか。
クラス長から確認がとれた桂木先生は
授業内容について話し始める。
「今日の体育は波多野さんが転校してきた事もあって
フリーにする!
お前ら!仲良く体動かして
波多野さんともっと仲を深めるといい!」
そう聞いたクラスメイトは
嬉しそうな声をあげ、湧き上がる
波多野さんは相変わらず周りに流されない。
「おーい月詩ー!
とりあえず体育館倉庫に行って
なにするか決めようぜー!」
「ん、照か。今行くー」
そうして、僕達いつもの2人組は
体育館倉庫へと足を運ぶのだった。
「僕あんまり体育館倉庫の匂いとか
好きじゃないんだよね」
「そうなのか?俺は男くさくて
結構好きだけどな?」
「好きそうだもんなー照」
そんな他愛もない会話をしながら
倉庫の中へ入っていく
電気は少し弱めで薄暗い。
持ち手が折れた木製のほうきや
古く錆び付いた掃除用具などが
危なっかしく転がっていた
「あれ、はたのっち!」
照が声をあげた方へ目をやると
確かに波多野さんが居た
ちなみに呼び方にはもう触れない
「あ…はい…」
「どうしたの?はたのっちこんな所で?
皆と何かしないの?」
「えっと…体を動かすのは苦手で…」
「へえー、意外。波多野さん
結構運動できそうな見た目だけど」
「月詩たまにそういう決めつけ方するよな!
良くないぞ!」
「そうかな、悪く思わせたならごめん」
「ううん…大丈夫」
「そしたら俺達となにかしようぜ!
簡単なスポーツとかさ!
んー、バレーボールでキャッチボールとか!」
照から出た提案でバレーボールで
キャッチボールをする事になり
3人は体育館へ戻ろうと歩き向かっていた時
ガチャン!!
「…痛っ…」
後ろで大きな物音と声がしたので
すぐに振り返ると波多野さんが
壊れた掃除用具に足を引っ掛け
かなりの勢いで倒れてしまったのだ
「おい、大丈夫か!はたのっち!
本当運動がダメというか
体が弱いんだなー」
「あ、うん…大丈夫、ありがとう海堂くん」
…?
照は気づいていないのか…?
いや見えていなかったのか…?
僕の見間違いかは分からないが
確かに…僕は見た。
波多野さんは確かに
波多野さんの手のひらには確かに
木製の折れたほうきの棒が
貫通して刺さっていたんだ
それが今じゃ何もなく、無傷
血も、何も出ていない、跡もない
「ーい、おーい、おーい!!!月詩!!!」
「はっ…」
「なーにぼーっとしてんだよ!
早く先生に言って、はたのっちを
保健室に連れて行って貰おうぜ!!」
「お、おう…」
そう照が言い、怪我をした
いや、無傷の波多野さんを
桂木先生へ事情を説明し保健室へ連れていくよう
波多野さんを受け渡した
もちろん僕が見たことは伝えていない
「これで心配はいらねーな!」
「そ、そうだな。なあ照?
何も見ていないのか?」
「ん?なんの事?」
まさかお前転んだ時に
ズボンの隙間からパンツとか見えたのか??!」
「あほか」
照の頭を軽く押す
やはり何も知らない
しかし話しておいた方がいいと思い
信じてくれるかは分からないが
照に自分が見た事を話す事にした。
「え…それ、ほんとかよ!
俺が感じたのはかなりの勢いで転んだのに
怪我とかしなかったんだな、ぐらいだけど??」
「ってかいい所を疑問に思ってるぞ、それ。
だけど本当なんだ、間違いなく
貫通して突き刺さってた」
「そうだ…もう1回倉庫に見に行ってみよう。
もしかしたらなにか見つかるかもしれない」
そう言って僕達はもう1度
体育館倉庫内へと訪れた
「確かはたのっちが倒れた場所は
ここら辺だったかな」
そう言い辺りを探すが特に何も無い
…事は無かった
そういえば肝心な刺さったほうきの棒が
見当たらない。
すると照が
「おい!!月詩、これって…!」
照のいる方へ駆け寄ってみる。
そこにはもう使われていない跳び箱の裏側に
ほうきの棒が慌てて隠されたかのように
少し雑に置かれていた。
波多野さんが倒れた場所に近い。
可能性は大いにある、これだ!という証拠があれば…
「薄暗くて見えねえなあ…」
そう言い照は隠し持っていた携帯を
ポケットから取り出しライトを付け
棒目掛けて照らした
2人は波多野さんが本当に怪我をしたという
確固たる証拠を見つけてしまった。
その棒には絡みつくように
真っ赤な血がまとわりついていたのだ。