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ブラッディ・リヴァイアサン  作者: ホムラ
#01「強欲グール」
9/10

8

8.


 アイン達が出口に消えたのを確認し、僕は少女グールを壁に叩きつけるように蹴る。

 その勢いのまま、後方へと飛ぶ。噛みつかれた左腕から肉が削がれ、激痛が走るが歯を食いしばり無視。

 改めて対峙し、血だらけの左手に魔剣(リヴァイアサン)を走らせる。


「"鎧よ、纏え"――」

『武装完了――』


 流れた血が身体に巻きつき、赤い鎧と化す。

 鎧姿になった僕に危険なモノを感じたのか、少女グールは警戒するようにこちらを睨み、動かない。

 口の残った()()()を咀嚼しながら、ぶつぶつと何かを呟いている。

 

「――ない足りない足りない足りない――"影渡り"――」


 どぷん、と少女グールの姿が足元へと吸い込まれるように消える。

 暗所侵入魔術! 蘇生の生贄となった男から受け継いだのか、アレも使うのか!

 

「周囲警戒!」

『了解――』


 魔剣(リヴァイアサン)にも指示しながら、周囲に気を張る。

 どこから襲ってこようと、僕に攻撃された瞬間、先ほどと同じようにカウンターを仕掛けて――

 

「――"アギトよ、喰らえ"――!?」


 衝撃は右から来た。

 脳内に準備していた術式を呪文と共に展開する。

 鎧ごと食いちぎられた右肩から牙が生え口となり、噛みつくが――そこに相手はいない。


『再生開始――』

「――リヴァイアサン、察知できたか?」

『否定。負傷確認時、敵反応焼失。敵の攻撃速度はこちらの反応以上と推測――』


 不味い。

 あちらの攻撃にこちらの反応が追いつかない。これではカウンターどころか、このまま文字通り喰い物にされてしまう。

 人の反応速度では間に合わない。ならば――

 

「リヴァイアサン。()()を使う」

『了承――』

「"リヴァイアサンよ、我が身を喰らえ"!!」


 術式構築。呪文詠唱。術式展開準備――

 

「我亜あアぁァッああ牙我ァアああァァァああ嗚呼!!!」

『馳走――魔術・起動』


 手が砕け脚が折れ(はらわた)は抉られ頭蓋がひび割れ――

 ひび割れた僕の声と共に、全身がバラバラになる。ズタズタになる。

 痛みの中で術式を展開し、魔術を起動する。

 

「――嗚呼嗚呼……!!」

『魔術起動完了――』


 牙の生えた口を開いて唸り、そこに立っていたのは、鎧と肉と血が混じり合った、竜人だった。

 全身を傷つけ、代償とすることで、自身を魔導合成獣(キメラ)へと化す魔術。

 これが僕の秘中の秘。奥義ともいうべき技。

 

「――"影渡り"――」


 ただ事ではない雰囲気を感じたのか、影の中へと逃げる少女グール。

 しかし、今の僕にはどの影に逃げたか分かる。

 敵の口内に残る()()()の肉の匂いを感じ取ることが出来るこの状態ならば、敵の居場所も、襲撃方向も完全に把握できる。

 

 ――牙!

 

 勝敗は一瞬だった。

 背後から出現した少女グールの喉笛を、僕自身が噛みちぎる。

 地面に叩き落ちたソレは、ひゅー、という呼吸音をしばらく立てた後、動かなくなった。

 血まみれの中、全身を苛む痛みとは裏腹に――とても静かな決着だった。

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