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7.
「"解けるはギアス"――」
アインの解呪魔術の呪文。
六人の被害者を眠らせていた催眠魔術が解け、次々と目を覚ましていく。
その様子を、僕は背中を再生させながら眺めていた。
傍らにはもはやお馴染みとなった蛇で雁字搦めにした犯人の姿。彼は気を失っているらしく、ピクリともしない。
「兄さん!」
「ラピス……怪我は無い?」
目を覚ましたラピスが僕に近づいて来る。
目の前に立ったラピスが、驚愕したように口を覆う。
「兄さん、血だらけ……!」
「あ、ああ……大丈夫、もう再生は済んでるから」
だから、大丈夫。そう言おうとしたけど、妹の目を見たら何も言えなかった。
驚愕。恐怖。不安。混乱。
そんなネガティブな感情に染まった目だった。
困った。そんな目はして欲しくないのに――
「おい、とりあえず被害者達を脱出させよう。ラピスちゃんも早く!」
アインが被害者の娘達を取りまとめ、出口に向かわせる。
ラピスもそれに着いていくよう、促そうとした時。
「――まァだァッ! "影渡り"ィ!」
傍らの犯人が叫び、姿が消える。例の影を移動する術式!
意識が戻っていたのか――そして魔術を使えるほどに回復していたのか!?
身体はズタボロで、しばらくはまともに動けないほどに傷ついていたハズなのに……
「どこに――?」
周囲に視線を巡らせる。犯人はどこへ行った!?
出口――いない。
周囲――いない。
部屋奥――いた!
「ハァーッハァーッ」
部屋の最奥、魔法陣とミイラのそばに、彼はいた。
全身血まみれ、息も絶え絶えと言った姿で――それでも目だけは鋭くギラつかせながら、座り込んでいる。
「今さら何をするつもり? 今の影移動で限界だろ。大人しくお縄につきなよ」
「確かにな……」
アインの通告に、彼は言葉だけは同意する。
だがギラついた目が、笑みさえ浮かべた表情が通告を否定していた。
「だが、それでも! 娘を治すことだけはさせてもらう……! 本来なら七人の生贄が必要だが、仕方あるまいよ……」
言って、彼は魔法陣へと手を伸ばす。
「"強欲なる悪魔よ・我が身・我が魂・ブラッシュ・マクラーレンの存在を代償に・ボニー・マクラーレンの蘇生を叶えよ"……!!」
『術式起動確認――』
魔剣が静かに状況を説明する。
魔法陣に光が宿り、稲光が走る。ミイラ――彼の言う娘を中心に、魔法陣の文様が歯車のようにグルグルと回り"何か"が起動していく……!
「ああ――ボニー……オレは、お前を、愛して――」
犯人の身体が崩れていく。稲光に、魔法陣の光に飲み込まれ、消えていく。
魔法陣の光は犯人の身体を喰らうようにその光を強め、そして――
――閃光!
光が爆裂する。あまりの光量に、僕はラピスをかばいながら、自身もまた目をつぶってしまう。
――光が薄れ、目を開けた時。
魔法陣の上に、一人の少女が立っていた。
全身に包帯を巻きつけた少女。包帯の隙間からのぞく肌は真っ白く、目はぼうっと虚空を見つめている。
「蘇生が成功した……?」
『否定。術式の発動は不完全であったと判断』
魔剣の報告と同時、少女の目がこちらを向く。
ガチガチと歯を鳴らし、涎さえ垂れ流しながら、ズンズンと一心不乱にこちらに向かってくる。
「――りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない――」
「ラピス、逃げ――」
「命が――足りない!!」
そう言って彼女は、噛みついて来た。
咄嗟にガードに差し出した左腕に、骨まで届く勢いで噛みついている。
その目に人らしい知性等ない。まるで死肉を貪るグールと言った有様だった。
「ジル!」
「コイツは僕は処理する! アインはラピスと――皆を連れて逃げろ!」
アインの鋭い声に、僕はそう返し――グールと化した少女を、喰われかけた左腕ごと壁へと押しとどめた。




