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その知らせが入ったのは、深夜の巨大サラマンダー騒ぎから帰った朝の騎士団本部内でのことだった。
「ラピスラズリ・メルセデスが行方不明になった」
昨夜二十二時頃、勤め先の軽食屋・トワイライトから帰宅した後、自宅に帰っていないのだと言う。
「日が変わってもラピスが帰らないから、トワイライトさんに連絡したんだけど……」
母が不信に思い、トワイライトに連絡したことで行方不明になったことが分かったらしい。
「ラピスが……クソッ!」
「待てよ、どこへ行くつもりさ」
本部内の部屋でその話を聞き、外へ出ようとした僕をアインが諌める。
「決まってるだろ! ラピスを探しに行く!!」
「それは情報部がやってる。行方不明事件は情報部の管轄だろ? 警備部の出る幕じゃない」
「だけど、ラピスは妹なんだ!」
分かっている。
筋が通っているのはアインだ。
だがそれでも。妹が事件に巻き込まれたとなれば、黙って待つなど出来ない……!
「あーもう、お前ってホント暴走機関車だよな……探すならアテがある所に行こう。確かトワイライトの近くで現場検証してるとか聞いた。そこでなら、何かしらの情報が入るだろ」
「アイン……ゴメン」
「何謝ってんだよ。そして何一人で行こうとしてるワケ?」
頭を下げ、ドアに手をかけた僕にアインが不満そうに口を開く。
「いや、ラピス探すのは僕の勝手だから……」
「お前のコンビは俺なんだから、勝手に動かれても連帯責任で俺も怒られるの。なら最初から協力した方が良いでしょ?」
「……良いの?」
「良くは無いけど、良いんだよ。俺だってラピスちゃんには無事戻ってきて欲しいしね」
●
「警備部のお前達が何の用だ」
『情報収集――』
軽食屋・トワイライト前は封鎖され、多数の騎士団職員による検分の最中だった。
陣頭指揮を執っているのは情報部の魔導騎士・キリーク・アストン。まだ若いがやり手の騎士だ。
「ここの店員が行方不明になったんでしょ? その情報が欲しくてね」
「部外者に教えるわけがなかろう!」
「部外者じゃない。被害者は僕の妹だ」
面倒な問答はしていられない。単刀直入に情報を求める。
キリークは端正な顔を苦い表情に歪め、渋々と言った体で情報をくれた。
「彼女の制服の臭いから、ある程度の生体探知は出来た。だが――」
そう言って、キリークは道路真ん中の蓋が開けられたマンホールを指さす。
「前五件と同じだ。被害者はマンホール内の下水道に連れ去られたらしい。下水道内は広く、入り組んでいる上に臭いがひどくて生体探知も効きづらくてな。今日の昼からローラー作戦で領内の下水道を探す予定だが、見つかるかどうか……」
「マンホールの中に連れ去られたんですね?」
言って、魔剣を構える。
「"鮫よ、追え"――ェェイッ!」
呪文と共に、左手首を叩き斬る。道路に落ちた手首を魔剣で突き刺し、術式を展開。
『馳走――魔術・起動』
血に染まった真っ赤な手首の形が変わる。爆ぜるように巨大化・赤い鮫の姿へと変わる。
赤い鮫は空いたマンホールの中へと跳ね、落ちて侵入していく。
「またお前は……」
「貴様、おい、何をしている!?」
『治療中――』
アインが呆れ、キリークが驚愕する。
再生魔術によって手首を再生しながら、キリークに事情を説明する。
「鮫の嗅覚は随一です。水中だろうと追えます。まして連れ去られたのは妹です。妹の匂いなら、逃しません――追います!」
一方的に告げ、僕もまたマンホールへと飛び込む。
「すいません、俺も付いて行くんで! 場所が分かったら連絡します!」
後ろからそんな声と共に、アインもまた降りてくる。
「行こう」
「おう」
言って、下水道内を走り始める。
先行する鮫の行く先――ラピスの居場所に向かって。




