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ブラッディ・リヴァイアサン  作者: ホムラ
#01「強欲グール」
4/10

3

3.


 二二三○、通報確認。シングラード領西二八地区にて魔導合成獣(キメラ)出現との報。

 同領騎士団の当番騎士は至急出動、対応されたし。

 

 ●

 

 現場はまさに、災害と言った有様だった。

 商店街の大通り。そこは、深夜にも関わらず、建築物の炎上で真っ赤に染まっていた。

 炎の真紅に染まる地獄の中に、そびえ立つ巨体が一つ。

 見上げるほどに大きいソレは――巨大なトカゲだった。

 チロチロと舌を出すように口元から火を吹いている。

 

「サラマンダー、か? こんな大きいのは見たこと無いけどさ」

「何だっていいさ、倒すだけだ。――"鎧よ、纏え"!」


 呪文と共に、右手の魔剣(リヴァイアサン)で左手の掌を貫く。

 燃えるような痛みと共に血が吹き出て、それらは赤い光となって僕の全身を包む。


『武装完了――』


 一瞬後、僕は赤い鎧を纏って立つ。武装魔術。自身の身体能力、治癒能力等を増幅させる魔術だ。

 さらにこの赤い鎧のは、もう一つ便利な機能がある。

 

「夕方と同じ手で行こう。僕が巨大サラマンダーの動きを抑えるから、アインがトドメを刺してくれ」

「それはいいけど、あのデカさだぜ? 夕方と同じような蛇じゃとても――」

「大丈夫だ。"鋼蛇よ、阻め"――」


 べりべり、ばりばり。

 巨大サラマンダーに向けた十本の指。鎧に包まれた十指から、そんな異音が響く。

 爪が剥がれ皮膚が裂け肉がそがれ骨が砕ける。


「ああああああああああああああああああああ!!!」

『馳走――魔術・起動』


 痛みに歪んだ叫びと共に、両手から十指が千切れ、飛び出る。

 それらは巨大サラマンダーへと向かい、その中で姿を変える。

 伸び、膨張し――十匹の鋼を纏った蛇の姿へと。

 ――自動自傷。僕が纏った鎧は、外からの攻撃を防ぐだけではなく、魔術発動のため、自身を傷つける刃となる。


「――ィ往けッ……!」


 十匹の鋼の蛇が、巨大サラマンダーを襲う。


 ――轟!


 サラマンダーも脅威を感じたのか、蛇の群れに向けて炎が吐かれる。

 しかし、鋼の鱗を纏った蛇達に炎は通じない。

 ジャラジャラと鎖を引きずるような音と共に、鋼の蛇が巨大サラマンダーに巻きつきその動きを阻害する。

 

「――ィ今だ、アイン……!!」

「あぁもう……"貫くはグングニル"! "砕くはミョルニル"! "斬るはレーヴァテイン"! 取って置きの三連、喰らっとけ!!」


 巨大な槍がサラマンダーを貫き、巨大な鎚が頭を潰し、巨大な剣がその頭部を斬り落とす。

 鋼の蛇に巻きつかれた怪物は、抵抗らしい抵抗も出来ず、動きを止めた。

 

『生体反応消失――』

「うし、終わったー……ジル、大丈夫かよ、指」

『治療中――』

「なん、とか……」


 じゅうじゅう、なんて音と煙を上げながら手の指を再生する。

 自分の身体を斬りつける程度の痛みなら慣れたが、やはり欠損レベルの痛みとなるとまだ慣れない。

 しかし、慣れなくても使わなくてはならなかった。巨大サラマンダーをあのまま悠長に放置など出来ない。

 

「アイン、とりあえず消火とか、その辺りの要請お願い……」

「あー分かった分かった。やっとくよ。しかし本当、お前って無理するよな。どっかでブレーキかけないと壊れちまうぜ?」


 それは分かる。

 傷つければ傷つけるほどに強力になる。それが僕の魔術の特性だ。

 そして僕は、目の前の困難に対し、全力で当たるのが信条だ。

 その二つが合わされば、どこかで破綻するのは目に見えている。

 それでも、僕はこの道を進まなければならない。

 進まなければならないんだ。

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