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二二三○、通報確認。シングラード領西二八地区にて魔導合成獣出現との報。
同領騎士団の当番騎士は至急出動、対応されたし。
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現場はまさに、災害と言った有様だった。
商店街の大通り。そこは、深夜にも関わらず、建築物の炎上で真っ赤に染まっていた。
炎の真紅に染まる地獄の中に、そびえ立つ巨体が一つ。
見上げるほどに大きいソレは――巨大なトカゲだった。
チロチロと舌を出すように口元から火を吹いている。
「サラマンダー、か? こんな大きいのは見たこと無いけどさ」
「何だっていいさ、倒すだけだ。――"鎧よ、纏え"!」
呪文と共に、右手の魔剣で左手の掌を貫く。
燃えるような痛みと共に血が吹き出て、それらは赤い光となって僕の全身を包む。
『武装完了――』
一瞬後、僕は赤い鎧を纏って立つ。武装魔術。自身の身体能力、治癒能力等を増幅させる魔術だ。
さらにこの赤い鎧のは、もう一つ便利な機能がある。
「夕方と同じ手で行こう。僕が巨大サラマンダーの動きを抑えるから、アインがトドメを刺してくれ」
「それはいいけど、あのデカさだぜ? 夕方と同じような蛇じゃとても――」
「大丈夫だ。"鋼蛇よ、阻め"――」
べりべり、ばりばり。
巨大サラマンダーに向けた十本の指。鎧に包まれた十指から、そんな異音が響く。
爪が剥がれ皮膚が裂け肉がそがれ骨が砕ける。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
『馳走――魔術・起動』
痛みに歪んだ叫びと共に、両手から十指が千切れ、飛び出る。
それらは巨大サラマンダーへと向かい、その中で姿を変える。
伸び、膨張し――十匹の鋼を纏った蛇の姿へと。
――自動自傷。僕が纏った鎧は、外からの攻撃を防ぐだけではなく、魔術発動のため、自身を傷つける刃となる。
「――ィ往けッ……!」
十匹の鋼の蛇が、巨大サラマンダーを襲う。
――轟!
サラマンダーも脅威を感じたのか、蛇の群れに向けて炎が吐かれる。
しかし、鋼の鱗を纏った蛇達に炎は通じない。
ジャラジャラと鎖を引きずるような音と共に、鋼の蛇が巨大サラマンダーに巻きつきその動きを阻害する。
「――ィ今だ、アイン……!!」
「あぁもう……"貫くはグングニル"! "砕くはミョルニル"! "斬るはレーヴァテイン"! 取って置きの三連、喰らっとけ!!」
巨大な槍がサラマンダーを貫き、巨大な鎚が頭を潰し、巨大な剣がその頭部を斬り落とす。
鋼の蛇に巻きつかれた怪物は、抵抗らしい抵抗も出来ず、動きを止めた。
『生体反応消失――』
「うし、終わったー……ジル、大丈夫かよ、指」
『治療中――』
「なん、とか……」
じゅうじゅう、なんて音と煙を上げながら手の指を再生する。
自分の身体を斬りつける程度の痛みなら慣れたが、やはり欠損レベルの痛みとなるとまだ慣れない。
しかし、慣れなくても使わなくてはならなかった。巨大サラマンダーをあのまま悠長に放置など出来ない。
「アイン、とりあえず消火とか、その辺りの要請お願い……」
「あー分かった分かった。やっとくよ。しかし本当、お前って無理するよな。どっかでブレーキかけないと壊れちまうぜ?」
それは分かる。
傷つければ傷つけるほどに強力になる。それが僕の魔術の特性だ。
そして僕は、目の前の困難に対し、全力で当たるのが信条だ。
その二つが合わされば、どこかで破綻するのは目に見えている。
それでも、僕はこの道を進まなければならない。
進まなければならないんだ。




