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9.
「兄さん!」
血まみれの騎士団制服姿のまま帰った僕を迎えたのは、騎士団本部に保護されていたラピスだった。
「ああ、こんな血まみれで――また、こんな――」
妹は僕の姿にショックを受けている。
大丈夫、傷は治っている――と返そうとした所で、僕はふとあの男のことを思い出した。
この事件の犯人。自分を犠牲にして、娘を生き返らせようとした男。
何をしてでも、自分をどれだけ犠牲にしようと、目的を果たす。
その点では、僕とあの男は同じなのかもしれない。
ならば、自分を殺してまで目的を遂げたあの男の姿は――
「ごめん、ラピス」
「え?」
僕は、ラピスの手を握りながら、謝っていた。
ごめん、ラピス。心配させて。
何をやっても、自分をどれだけ傷つけても誰かを護る。それが正義だと思う。
正義は負けてはならない。正義は屈してはならない。正義は――折れてはならない。
だからこそ、不安にさせてごめんなさい。
「どうしたの急に、兄さん」
「いや、考えないといけないな、と思ってさ」
自分を最後に死なせる正義。もしかしたら、自分の行く末にそんな未来が待っているのかもしれない。
それは駄目だ。それは間違っている。だから――
負けない正義。
屈しない正義。
折れない正義。
そして――失われない正義。
それを、見つけないと。
そんなモノがあるのか、それは分からない。もしかしたらこの世のどこにも無いのかもしれない。
それでも、探さなければならない。
涙を浮かべたラピスの顔を見ながら、僕はそう誓った。
――ブラッディ・リヴァイアサン#01「強欲グール」完




