浅中 歩
浅中 歩。
帰宅部19代目部長であり、クラスは違うが三宅と同じ3年である。
浅中はいつもと同じように昼休みに屋上へ向かう途中だった。
「ちょっとー、浅中くん。」
急に呼び止められた浅中は、どこから声がしてるのか分からずにきょろきょろする。
「ここだよー。ほらーもうちょっと下向いて」
うおっと驚いた浅中は帰宅部の顧問である湯栗先生を発見した。
小柄でゆっくりとしたしゃべり方が特長であり、周りの生徒からは湯栗ではなく
ゆとりっというニックネームで呼ばれている。
浅中は湯栗先生が苦手である。浅中曰く’’ゆっくり話されると腹が立つ’’らしい。
そのことを湯栗先生は当然知らないので、いつも通り話しかけられる。
「浅中くんにも言おうと思ってですね。ひじょーに残念ですがー
きたくぶ無くなることになるかもしれませんー」
先生が話す前からイライラとしていたが、言葉の内容を聞いた途端苛立ちは消えた。
「帰宅部・・なくなる?廃部って事っすか?」
「そーなんだよ。帰宅部は廃部になるみたいなんだ。部員2人では継続は
ふかのーと判断して、あと2週間で部員を少なくとも3人増やさないと帰宅部は
廃部になってしまう。顧問の僕としても力になりたいけど、こればかりはどうにもならなかった」
「そう・・・なんっすか」
浅中は肩を落とし、その場を離れたが、どこに向かっていたのかも忘れていた。
しかし足元だけは導かれるように屋上の方へと足が運ばれていった。
◇
予想はついていた。きっとこうなるって。
俺を入れて3人帰宅部を引退した。その中の1人は途中で退部届が出された。
帰宅部に今いるのは青木と水田だ。俺は分かってた、このままじゃ廃部になってしまう
ことも。帰宅部なんてもう入るやつなんていないことも。だから俺は青木を最後に帰宅部が
無くなれば良いんじゃないかって。でもそうはいかない、時間は待ってくれない。
2週間で3人なんてどう足掻こうが無理に決まってる。
最大最強と呼ばれた帰宅部は
いとも簡単に崩れていくのだろうか。
いても立っても居られなくなった俺は携帯電話を取り出した。
携帯には帰宅部である三宅と後輩の水田がメモリに入ってる。
残念ながら青木の番号は登録してない。なんだか青木だけは気が合わないのか
聞きにくいところもある。
"まぁいいか、青木には顧問からすでに伝えられてるはずだ"そう思い
指先は水田の電話番号を探していた。