帰宅部の危機
我が名門校には帰宅部という部活が存在する。
学校の一室で僕らは集まり、一緒に帰る。ただそれだけだ。
この帰宅部は永きに渡りみんなに支えられてきたが、しかし
帰宅部にも廃部の危機が迫ってこようとしていた。
学校の一室に帰宅部はある。部室の中には『全国高等学校帰宅大会 優勝』
『◯◯県帰宅大会 準優勝』のトロフィーが壁側にずらりと並んでいた。
噂では昔は大勢の部員がいたそうだが、今では2人だけというご覧の有様だ。
帰宅部20代目部長の青木喜多久は、いつも通り部室に向かっていた。
ドアを開けるといつものことで青木が一番のりだ。パイプイスにどかりと座り
ため息をついた。そのときドアの向こうから足音が聞こえてきた。
「おまたせー、青木。」
「いつも遅いな、水田は。」
水田宅也。2年4組、青木と同じクラスだ。髪は茶髪しかもチャラい、そのうえ
時間にルーズ。しかし水田は必ずと言っていいほど帰宅部に来てくれる。
「今日も一緒に帰らないのか?」
「え、あぁー、帰っといて良いよ。俺忙しいし」
と言いながら水田は鞄からポテチを取り出しむしゃむしゃと食べだした。
実は青木は水田と一緒に帰ったことがない。
一緒に帰ったことがないのに部活に来てくれるあいつは、良いやつなのか
バカなのかよく分からなくなってきた。
青木は肩を落としながら一人部室を後にする。
「このままでは、今月までに3人集めないと廃部が確定してしまう」
帰宅部は例年部員の減少で危機的状況になっているため、条件付きで
廃部が決まっている。このことは青木しか知らされていない。
青木はどうした良いのかも分からず、頭を抱えていた。
靴を履き替え学校をでようとしたとき、木陰に隠れて何やら複数で一人の男子を
いじめているような光景が見えた。青木はそれに近づき、止めようとした。
「こんなところで、何をしている。」
不良グループが青木に近づいてくる。
「あぁ?テメェ誰だよ?」
「俺は、帰宅部20代目部長 青木喜多久だ。」
「き、き、帰宅部だと!?おいオメェらズラかれぇ~」
不良グループは帰宅部の名を名乗っただけで、尻尾を巻いて逃げ出してしまった。
助かった男の子に青木は心配そうに声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「ひぃ!」
「あんたの名前は?」
「ひぃ!」
「ひぃ!じゃ分からんだろう!」
「ひぃ!」
男の子は青木にビビってしまっていた。
「しかし、不良達はなんで俺の名を名乗っただけで逃げたんだろうな?」
「あ、あいつらは、あなたにビビったのではなくて帰宅部の名にビビったんだと思います」
「帰宅部に?」
「知らないんですか?帰宅部10代目部長の話?」