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Remodeling  作者: 氷室
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第五章

 風呂から上がった亮太は上機嫌だった。鼻歌なぞを奏でながらリビングに向かう。足取り軽くリビングに入り、そしてソファーに座る。行動一つ一つが普段どおりでなくどこか芝居がかっているところに機嫌のよさが見て取れる。

「いや〜、まさか由香があんなに親切にしてくれるなんて思いもしなかったな」

 先日までのお互いに干渉しない関係から一気に反転したことを喜ぶ亮太。どうやら彼の方は以前の関係を変えたかったようである。

「まあ何にせよこの機会にせめて会話が弾む兄妹になりたいよなあ……」

 もう完全に亮太の目的意識は変わっていた。理紗に報復をすることが主目的ではなく、そのための準備段階である現在の方が彼にとっては重要事項になったようである。

 亮太がそんな風に冷え切った兄妹関係の打開を考えていると由香もリビングへと入ってきた。その表情は満足げで一仕事終えた充実感が亮太にも伝わってくる程である。

「さあ、お風呂にも入ったことだし少しはマシになったんじゃない? 少なくとも不潔ではなくなったね」

 そう言って亮太を見つめる由香。どうやら亮太の変化具合をチェックしているようである。

「う〜ん……。髪が濡れていることもあるけど、どう考えても髪が長すぎる。前髪が長すぎるから顔が隠れて後頭部みたいになってるし」

 顔を顰めながら改善点を挙げる由香。確かに由香が言うとおり、亮太の髪は顔を隠してしまっている。後ろ髪はさらに長く、背中にまで達していた。

「前髪は切ることで決定でしょ。それでも案外髪がさらさらで綺麗なんだよね……。どうする? 長いほうがいい?」

 亮太のさらさらで長い髪を切ることには抵抗があったのか由香は確認を取った。風呂に入る前はセットもろくにしていない

ただ長いだけの鬱陶しい髪だったはずが、風呂に入って水気を帯びたら激変していたのである。これは由香にとって予想外の事態だった。

「そうだなあ……。長い方がなんか格好いいから切らない方向で」

 長い方が格好いいという考えに聊か閉口気味の由香だったが、確かに良質な素材だったので亮太の希望通りにすることにした。いじり甲斐のある素材に少し気分を高揚させながら由香はチェックを進めていく。

「本当に意外だけど顔はニキビなのに腕、足、体とかは綺麗な肌だね……。女としてはちょっとムカつくけどね」

 由香が思わずそう言いたくなるほど亮太の体は綺麗だった。これまでは風呂にあまり入らないこともあって少々臭いがすることや、長い前髪から少し覗くニキビなどで印象が悪いため腕や足などの肌には目がいかなかったのだろう。

「手の指も細長くて形がいいし……。あっ、だけど爪は汚いね。噛んだりしてるでしょ」

 やっとケチの付け所が出てきて由香は喜び始めた。駄目な兄を改造するはずなのに良い点ばかりが出てくるのが余程気に食わなかったのだろう。

「これからは爪噛むの禁止ね。そんなボロボロになった爪じゃ見栄えが悪いよ」

 ようやく注意らしい注意をできた由香は少しやる気を取り戻してチェックを続行し始めた。もう亮太は人形の様に黙ってなされるがままである。

「う〜ん、いくら何でも細すぎだよね。あばら骨見えてるし。ここは改善点ね」

「そろそろ勘弁してくれない? 何かこれ心身とも疲れてくるよ」

 泣き言を言い始めた亮太に由香は鋭い視線を送る。邪魔をするなと目で語る由香に亮太は一つ大きなため息をして再び人形に戻った。いくら座っているだけとはいえ、由香にあちこちチェックされていると気が張ってしまう上に同じ姿勢を強要されているような感じで疲れてくる。しかし亮太はそんな不満を口にせずただ耐える。ここで余計な口を開くと説教分だけ時間が延びるだけである。

「背も低いからやっぱり食事も改善しないと駄目だね。やる気が俄然涌いてくるね、これは」

 ますますテンションが上がっていく由香とは対照的に亮太はみるみるテンションが下がっていく。先程の上機嫌はすっかり消え失せていた。

「はあ……」

 亮太の口からため息がまた一つ漏れる。早くも兄妹関係の打開の再検討を考え始めることになりそうであった。

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