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Remodeling  作者: 氷室
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第四章

 改造計画をスタートさせた二人はまず最初のメニュー、清潔の前に亮太の現状を確認することにした。これによって改善点を浮き彫りにさせようというのが狙いのようだ。由香はまずざっと亮太の見た目をチェックし、ため息をついた。

「ぼさぼさで目すら見えない髪の毛に時代遅れの眼鏡。ニキビだらけの顔。うわっ、耳すごい汚いし。よくこれで学校行けるね」

 容赦なく欠点を並べ立てる由香に少しムッとした表情を向ける亮太。しかしそんなことは気にせずに由香チェックは続く。

「がりがりの体に背が低い。なんか欠点だらけだね。直し甲斐があるんじゃない?」

 あまりの言い草に亮太はしゃがみ込んで、いじけ始めた。この容姿だから哀れさよりも不気味さが先に出てしまっている。だから由香も容赦なく、躊躇なく亮太の首根っこを掴んで立ち上がらせた。

「い、いたたっ。おい、もうちょっとデリケートに人を扱えないのかよ」

 乱暴な扱いを受けたことに対して亮太は抗議の声を上げる。

「うるさいっ! 兄さんがいちいち変なことやってるからでしょ。もうチェックは終わったんだから最初からやってくよ」

 抗議の声を一蹴して由香はずんずん一人で歩いていく。初っ端からやる気を失くした亮太は愚痴を呟きながら由香についていく。

「大体お前はちょっとがさつ過ぎるんだよ。腕力と口ばっか成長してさ」

 由香は聞こえないふりをして進んでいく。何も言い返してこないことをいいことに亮太の悪口はさらに続く。

「胸は全く成長してないのにな。あ、わかった。栄養が頭と腕に取られちゃってるんだ。あ〜納得納得」

 楽しそうに悪口を続ける亮太には由香の肩が震え始めていることが感知できなかった。いつもは危険が迫るといち早く危険を察知し、対処できるというのに悪口に熱が入ってしまったために今回は全く油断してしまっていた。怒り心頭の由香は突然振り返る。しかしただ振り返るだけではなく同時に拳が繰り出されていた。裏拳である。

「ひぐっ! うあああぁぁぁぁっ!」

 由香の放った裏拳は凄まじい勢いで亮太の顔面にめり込んでいた。突然の激痛に耐えかねた亮太は倒れこみ、のた打ち回る。

「だ、誰の胸が小さいのよ。馬鹿言わないでよ。こういうのはね微乳……、じ、じゃなくて美乳っていうのよ! 大きい方がいいなんて何も知らない奴の考え。わかる?」

 怒りと同時に動揺も吹き出た由香は大きな声でのた打ち回っている亮太に言い聞かせる。しかしその説明は痛みと必死で戦っている亮太には届いていなかった。


 途中でアクシデントがあったものの、まずは最初の清潔から始めるために風呂まで二人はやってきた。家の中なのですぐのはずなのだが、やたら時間がかかっていた。

「さあまずはお風呂。きれいにならないとね。最後に入ったのはいつ?」

 由香の質問に対して亮太は虚空を仰ぎながら、考え込む。その行為の時点で由香には嫌な予感が頭に走り始めていた。

「五日前? いや、どうだろうなあ……?」

 これ以上の言葉は必要なかった。由香は冷や汗を流し始めながら、亮太の思考を止めさせる。

「も、もういいわ……。それ以上は何日でもいっしょよ。夏場に五日前って……。もうカテゴリーは不潔で括れるわ」

 いきなり脱力した由香だったが、気を取り直して計画を進行させる。

「とりあえず入りましょう。さあ早く脱いで」

 いきなり脱げと言われて、亮太は躊躇し始めた。目の前に妹とはいえ女の子がいるのだから遠慮してしまうのは無理もない。

「何やってんの? 早く脱いでよ。先に進まないでしょ」

 先を促す由香の顔に怒りが見えた亮太は急いで脱ぎ始めた。また裏拳を浴びせられてはたまらない。しかしやはり下着の段階となるとまた躊躇し始める。由香を見ると、いらいらが完全に表に出てきていた。亮太は仕方なく後ろを向けて下着を脱ぎ始める。全て脱いだ後に股間にはタオルを巻く。これで準備完了である

「準備できたね。それじゃどんどん行こう」

 そう言って由香は風呂場の扉を開け、中に入っていく。その行動を亮太は不思議そうに見ていた。

「何やってんの? 早く入って」

「いや、入ってって。何でお前まで入ってるの?」

 由香の行動に対して疑問の声を発した亮太。風呂に入るのは今さっき服を脱いだ亮太であるはずなのに服を着ている由香が真っ先に入っていくことに対して疑問を感じるのは当然だろう。そう思って質問をした亮太だったが、質問をした後に彼なりの回答が頭に浮かんできた。

「まさかお前、俺と一緒に風呂に入りた……。ふぐっ!」

 亮太が最後まで言葉を言うのを待たずに由香の回し蹴りが亮太の全く鍛えられていない腹にめり込む。やせ細っている亮太に対してこの仕打ちはあまりに酷過ぎた。ダメージを軽減する筋肉が少なく弱い亮太は膝をつくどころかそのまま後ろに倒れこんでしまう。

「くだらないことは言わなくていいんだよ、兄さん。さあ、ちゃきちゃき入ろうね」

 倒れこんで悶えている亮太を無理矢理立ち上がらせて風呂場へ連れ込む。ダメージの回復を待たないその行動は亮太を従順にさせるのに役立ったようで、逆らわずに人形のように連れて行かれる。

「はい、ここに座って。はい、お湯かけるよ」

 テキパキと進めていく由香に対して亮太の方はされがままの状態でいる。逆らうと殴られて尚且つ回復を待たずに引きずられてしまうことがよくわかったためであろう。腰掛けたまま大人しくしている姿はいじめられっ子の哀愁が漂っている。

「ほら、背中は洗ってあげるから。背筋伸ばして」

 そう言って背中をピシャリと叩く由香はどことなく楽しそうな様子である。鏡ごしに後ろの由香の表情がちらちらと映るが、柔らかに微笑んでいる。その表情は先ほどまでの威圧的で強引なものとは全く違って、由香に対する印象ががらりと変わりそうなほど優しいものだった。

「どう? 気持ちいいでしょ? 体洗うとさっぱりして気持ちいいんだから、それがわかったらお風呂入るようにしてよね」

 先ほどまでだったら、命令のようにこの言葉を渋々受け取って、しばらくしたら入らなくなってしまうのであろうが、今の亮太は違った。由香の優しい表情を見た亮太は自分に対して気遣いをしてくれているんだと思い、素直に受け止めようとする。

「ああ、わかったよ。これからは毎日入るようにするよ」

 素直に自分の言うことを聞き入れた亮太の様子に由香は疑問を持ったが、鏡に映る亮太の表情を見ると、何かを企んでいたり、渋々といった様子はなく本当に受け入れてくれていることがわかった。お互いに優しい気持ちになった二人はいい雰囲気の中で第一目標のお風呂を終えた。


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