第三章
亮太改造計画を遂行することを宣言した由香は楽しそうに紙に計画を書き出している。そして由香のテンションが上がるほどに亮太は逆にテンションが下がっていく。由香がやる気を出して、亮太に何かをやらせるとロクなことにならないのは経験上よく分かっていた。以前は体力強化と言われて運動を強制され、脱水症状で運ばれたことさえある。そういう苦い経験がある亮太は今すぐにでも逃げ出したいという気持ちがありありと出ているが、自分の家に相手も住んでいるのだから逃げ出したところで帰ってきたら捕まるしかない。むしろ逃げ出したことで不機嫌になった分、さらに厳しくされてしまうだろう。
そんな風に逃げ出す、そして捕まるという結論しか生み出さない考えを次々に生み出している亮太の前で、勢いよく由香が立ち上がった。
「できた〜〜〜! この計画を実行すれば兄さんもたちどころにイケメンになるってもんよ。さあ、見てみなさい」
紙を手渡された亮太は黒縁の眼鏡の位置を正して凝視する。どんな無茶なことが書いてあるかわからないから見逃すことのないように見る。するとその内容に驚いたのか思わず呆けた顔で由香を見る。
「何……これ?」
「兄さんの改造計画だって言ってるでしょ。それを兄さんは実行しなきゃいけないのよ」
そう断言された亮太だったが、別段絶望感を味わっているわけでもない。なぜならその内容は以前脱水症状になるまでしぼられたことに比べると甘いものだったのである。
「体を清潔にする。ご飯を残さない。それから服装、身だしなみに気を遣う。そして外を出歩く。以上。……本当にこれだけでいいの?」
甘い内容に不審を抱く亮太。その疑問を解消するべく由香は亮太に説明を始めた。
「まあ言ってしまえばこんなことすら今の兄さんはできてないってことよ。普通の人には当たり前のことなんだけどね」
由香の説明に口をつぐんでしまう亮太。確かに当たり前のこのメニューさえできていない自分は何だったのかと思い始める。
「これをやれば少なくとも普通の男子高校生にはなるよ。まあ今がこれだからギャップで余計によく見えるかもね」
確かに由香の説明には説得力があった。少なくとも現在の自分では魅力どころかマイナス要素しかない。これ以上悪くなることはないと考えた亮太は覚悟を決めた。
「よし! 決めた。やるよ由香。協力してくれよ」
いつになく凛々しく決断した亮太に由香は驚いた。もう少し洗脳が必要かと思っていたが存外やる気がある。それでも楽に自分が思った方向に亮太を動かしたことから笑顔が出る。
「それじゃ、早速やるよ。夏休み明けに学校の皆と何より憎き涌井理紗を見返してやりましょう!」
「お〜〜〜!」
こうして改造計画は正式に亮太の了承を得て、開始するのだった。