6th mission phase-2 悪魔降臨
戦闘は激化する。
そして、幸太郎の真の力が目覚める。
目の前の有機的だった光景は一瞬で無機的な輪郭線と敵を示す黒い影の集合と化した。敵が武器を構えるのが見える。一番近い敵はすぐ右にいる。やつの懐に飛び込むことを決心して脚に力を込め床を蹴る。やつの感情も見える。いきなりの行動にたじろいでいる。銃を構えたが撃てるのは懐に入り込んだ後になるはずだ。敵の銃撃が自分の約2センチ後ろを追っている。奴の懐に入り込んでも惰性で発砲を続けるはずだ。やつの懐に入ると、その背中を発砲している相手に向けさせる。
「ギャッ!」
「やめろ、仲間を撃っているぞ!」
幸太郎の予想通り銃撃は惰性で敵の一人に殺到した。太田が発砲を止めようとしているがまったく言うことを聞かない。予想通りだ。眼の焦点、手の動き、判断速度、これらを観測してか推測されたのは兵隊のほとんどが薬物投与を受けているということだ。コカインかヘロインか覚醒剤か知らないが、命令を確実に遂行させるため、恐怖心をなくすために使用する。代償は大きいが確実な口封じでもある。
事切れた敵からAK‐74をもぎ取る。一発も撃っていないから弾数は三十発。不足はない。
ほんの一瞬ですべての行動を決定する。
敵の死体を盾にしながら他の敵を確認する。
こちらに何人も駆け寄ってくる。死体の脇から敵の一人が移動すると予測される位置へと指切りで二発発砲する。敵の悲鳴が響く。いっきに死体を跳ね除け、相手の位置を視覚、聴覚、触覚で0.01秒もかからずにすべて確認する。
敵が銃口を向ける。だが幸太郎はAK‐74を拳銃のように片手で構えてトリガーを指切りしながら踊るようにステップを踏む。まるで出鱈目に撃っているようでいて反動、慣性、敵の行動などがすべて計算された射線が無駄なく敵の急所を撃ち抜いていく。ちょうど三十発打ち切った。ほんの一瞬で敵は首謀者の太田以外動かなくなった。
「こい!バケモノだ!」
太田の言葉とともに奥のほうから何人もの敵が現れる。ここにいたやつよりも動きがきびきびしている。さっき相手したのが雑魚なら今度はいうなれば強化型雑魚であろう。装備に大差はない。床を強く蹴り、すぐ近くにいる敵に肉薄する。何発か発砲するが銃口の向きで射線を予測している以上まるで幸太郎に当たらない。敵の胸元の鞘に収まっていたコンバットナイフを引き抜き、流れるように喉笛を掻っ切る。敵の死体を弾除けにして胸にナイフを突き立て予備のマガジンを代わりに引き抜いて、自分のAKの空のマガジンと交換する。予備で二本余分にジャケットのポケットに入れてすぐに次の相手に移ろうと体を向ける。
だが
カシャン
という音とともに頬のすぐ横を何かが掠めたのを感じ取った。
「静音型狙撃銃か」
敵の出てきた闇の奥に音無き狙撃手がいる。だが混戦になれば関係ない。
身構えて、死体越しに敵を見据える。右足を踏み込んで躍り出る。闇の中に少しのきらめきが見えた。スコープのグラスだ。闇に向かって二点射する。悲鳴が聞こえる。狙撃はもうできまい。すぐに銃口を目の前の敵に向ける。構えようとしている敵の頭部に二発ずつ撃つことを念頭に入れ指切りで打つ。一つ、また一つと敵は動かなくなっていく。
「撤退だ」
闇の中に太田といつの間にか脇を固めていた二人は消えていく。
「逃がさん」
幸太郎は無表情に小さくつぶやくとマガジンを二秒もかからず取り換え発砲する。闇の奥から呻き声が聞こえる。
「敵は、壊す」
冷酷な破壊機械と化した幸太郎はゆっくり闇の中へと歩んでいった。
*************
時速90キロで街中を疾走する。道路にサイレンが反響し、警告灯が闇を照らす。中区三の丸の県警本部への道を急ぐ。
「急げ。急いでくれ。頼む!」
パトカーの中で祈りながら、今までにないくらい一般道でアクセルをふかしている。
国道302号から国道23号に入り、環状線を通過し黄金跨線橋近くの三叉路を右に進んで大須通りに入る。黒塗りのトラックとすれ違い、市営地下鉄上前津駅の上で左折する。
久屋大通の100メートルを抜け、県警本部の正面玄関の前でパトカーを止め、急いでビルディングの上層階の会議室へと駆け上がる。会議室の観音開きの扉を開けて、蓮池は本部長に詰め寄った。
「若松本部長!今すぐに、自衛隊に応援を呼んでください!」
「蓮池巡査部長。何故ここにいるか!現場はどうした!」
舟木課長が怒鳴る。怯まずに蓮池は続ける。
「現場はほぼ壊滅してるんだ!指揮をしていた下野係長は狙撃され負傷。SATは到着前に全滅。車両も一台を除き全滅。無線は封鎖され、現場の警官は一発で体を消し飛ばす弾に怯えてんだ!」
「おい、やめんか!」
舟木は静止させようとする。
「早くしないと、警察の威信どころか日本国の威信すら吹き飛ぶぞ!!」
「やめんか!!」
舟木は怒鳴る。
「やめん…やめんよ!」
蓮池は懐のSIG P230JPを取り出し、若松本部長に突きつける。ハンマーを起こして少しの力で撃てることを示す。
「早くしろ。貴様の命か、自衛隊を呼ぶか、その二択だ!」
「急げ!気の狂った蓮池巡査部長を止めろ!」
警備部の井上部長の号令とともに複数の警官が背後から蓮池にとびかかる。
「貴様等ぁ!」
「外に追い出せ。こいつはこの場に不要だ」
若松は吐き捨てる。
「事件を数字と画面でしか見ようとしない貴様らに何がわかるんだ!」
蓮池の絶叫が会議室に響く。鬼気迫る蓮池の表情を見て警備の警官が怯む。
「何を戸惑っている。はやく追い出せ」
「貴様らの決断のせいで!何人の警官が死んだと思っているんだ!」
徐々に遠くなる蓮池の声。抗おうとする蓮池も三人に抑えられながら会議室から引きずり出されついに大きな扉が閉じられる。
一息つき若松は口を開く。
「……自衛隊に出撃を要請しろ」
本部長の言葉に会議室にいる全員が振り向く。
「背に腹は代えられん。県知事に話を通してくれ」
「あれほど我々だけで解決するといっていたのにですか」
井上警備部長が詰め寄る。
「詳細はわからんが、蓮池の言葉が本当なら多大な犠牲が出ているはずだ。ここは本部長の大英断として利用させてもらおうじゃないか。我妻、準備しろ」
「…わかりました」
総務部長の我妻警視長が応答し作業に取り掛かる。
「本部長。今呼んでも手遅れかもしれません」
「何を言っている、半田君。今回の責任はすべて蓮池に取らせる。私に拳銃を突きつけた度胸だけは買ってやろう。その正義感に乾杯、だよ」
*************
飛島第二倉庫から一キロの倉庫の屋上で狙撃手の灰田次郎はBarretM95を準備していた。これから突入する前に、露払いが必要である。仲間のシコルスキーS‐70がいるがそちらの固定武装はミニミ機関銃のみだ。先ほどからの戦闘で敵は対空ミサイルを持っていることが明らかになった。それの排除が先となる。航空識別番号は朝日新聞の取材用ヘリに偽装しており、基本的に目視でないとわからない。1.5キロ先のヘリコプターを暗闇の中で目視判別するのは至難の業だ。大抵航空無線を盗み聞きしていたのだろう。
「狙撃1から狙撃3へ。前衛に合流できたか?」
別働の狙撃3――霧谷美里に問いかける。彼女は対戦車火器を使う敵の掃討を行ったばかりだ。
『ありがとう狙撃1。さっき合流したよ。これからは前衛コードで行きます』
「了解。狙撃2。そちらの準備はどうだ」
今度は同様の任務を行う狙撃2――桂木志保に問いかける。
『狙撃2から狙撃1へ。こっちは大丈夫です。いつでもどうぞ』
「ではいくか。3カウントで発砲。タイミングはこちらが主導。ミサイルはこちらが叩く。そっちは機関銃を潰せ」
『了解』
『前衛先導から全狙撃へ。発砲許可!』
返答を聞くと暗視スコープを覗く。距離1000メートル。西南西風速1。ほぼ先ほどセットした状態で大丈夫だ。意を決してカウントを開始する。
「カウント!3000、2000、1000」
「『発砲!』」
マッハ2.5で飛翔する12.7×99ミリNATO弾が大気を引き裂く。ボルトを引き薬莢を排出する。暗視スコープの中で人影が消え去って真っ白になる。遠くの風景に赤い光が二つ見える。Raufoss Mk211の小さな火球が、自分たちが敵を射抜いたことを証明する。ナイトビジョンが復旧するまで待機する。
「狙撃1より前衛先導へ。露払いを行った。確認を求む」
『こちら前衛先導。屋上に人影一。武装は無し。こちらが対応する』
「こちらも引き続き警戒する」
スコープのホワイトアウトは晴れていた。
*************
「何があったんだ」
真下はこの事態に驚いていた。投光器が破壊され、真っ暗になった現場に火炎が灯った。そして強い光が暗闇を引き裂く。
「ヘリ?」
羽音が激しい。塗装から判断すると警察のモノではない。次の瞬間、立て続けに空気を引き裂く音がした。
「マシンガン?」
状況が今一つ掴めない。倉庫の屋上で爆発が起こり、いきなりヘリが飛んできてマシンガンで攻撃する。次に黒塗りのトラックが現場に侵入してきた。
「おい!ここは封鎖されている!早く戻れ!」
トラックに警官が詰め寄る。だが運転席から出てきた男たちの見せたものは、彼らに反論を与えなかった。
「公安調査庁……強襲班?!」
トラックの荷台からは黒尽くめの人影が出てくるのであった。
「おいおい…都市伝説じゃなかったのかよ……」
倉庫の扉の前に陣取る。事前の情報で敵の狙撃手が扉の内側に潜んでいることはわかっている。
「突入口確認。上層班、準備できているか?」
前衛先導の秋月はヘリから降下した上層班に確認をとる。
『準備できています』
返答が来ると隊員たちは火器を構える。
「作戦を開始する。突入五秒前。四、三、二、一、突入!」
扉を開けるとフラッシュ・バンを放り込む。
バンッと威勢のいい音と閃光が暗闇を犯し、敵を世界から隔離する。一斉にフラッシュライトで中を照らし89式小銃とミニミを発砲する。内側で待ち構えていた敵狙撃手が為す術もなく肉塊と化す。
「前衛3は俺たち1についてこい。前衛2と4は右に行け」
秋月の指示で下層班のルートが割り振られる。
「了解」
全班が返答して音もなく進んでいく。一つのコールサインにつき二人の分隊制だ。神山は霧谷と組んでいた。
前衛4とは途中で別れ、通路をまっすぐ進む。ふと、アサルトライフル独特の機械音と炸裂音が耳に入る。
「こちら前衛2。銃声が聞こえます。他の班はどうですか」
神山は無線に吹き込む。
『こちら前衛1。小さいが聞こえる』
『こちら前衛3。こっちでも聞こえます』
『こちら前衛4。比較的近い所からのようです。結構大きく聞こえます』
『総員警戒せよ。K・Kが武器を奪って戦闘している可能性もある。発砲時は細心の注意を払う事』
K・Kとは幸太郎につけられた簡易コードのことだ。幸太郎自身が見せた不可解で圧倒的な戦闘能力を考慮し、前もって幸太郎が戦闘に加わることも視野に入れてある。
「前衛2了解」
『前衛3了解』
『前衛4了解』
返答すると、ゆっくりと通路を進む。不意に横に伸びていた通路から誰かが飛び出してきた。神山と霧谷はそれぞれP90とMP5K PDWを構えレールにマウントしたフラッシュライトを焚き何なのかを確認する。次の瞬間飛び出してきた誰かは銃声とともにズタズタになっていた。
「幸太郎か?!」
そう叫ぶ。だが返答はない。
「こちら前衛2。K・Kと思しき人物を確認。追跡します」
『こちら前衛先導。了解した。くれぐれも注意すること』
「了解」
確認しながらT字路を曲がる。通路の先に光が見える。通路を進むと足元に一つ死体が転がっていた。さらに進み光の下へと出るとそこは、血と肉と薬莢が散乱していた。
「すごい……」
霧谷は息をのむ。
「もしかして幸太郎一人だけでこれだけの敵を始末したのか……」
「だとしたら……」
「そうだとしたら、今の幸太郎は……」
公園で見た風景が思い起こされる。今、幸太郎は眼前の敵を攻撃することのみに意識が向いている可能性が高い。危険だ。危険すぎる。ちょっとしたことで巻き添えを食らう可能性がある。
「前衛2より至急。K・Kは興奮状態にある可能性が高い。遭遇した場合は静かにして動きを止めること」
幸太郎のあの戦闘能力が野生の勘の類のモノだとしたなら、刺激を与えないほうが吉である。
『前衛1了解』
『前衛3了解』
『前衛4了解』
返答がきたことを確認すると区切られた区画を出て横に伸びた通路を急ぐ。
「うおぉぉぉぉ!」
AK‐74を構えたテロリストが二人に突進する。
P90のセレクターをセイフティからフルオートに切り替え発砲する。一瞬で敵は無力化される。
「どこに行ったんだ。幸太郎」
健二の呟きは無情にも暗闇に小さく響いた。
響く銃声を頼りに更に奥に進む。
背後から風を切る音がしたかと思うと連続した銃声が聞こえた。敵が背後から接近して攻撃しようとしたのを美里が察知して迎撃したのだ。
更に通路を進むと開けた場所の隅々が見えてきた。
「ん?」
奥のほうから声が聞こえる。聞きなれた声だ。不明瞭だが太田と言っている。目を凝らすと、奥のほうに太田と幸太郎がいるのが見える。
「前衛2より全前衛へ。目標を確認した。現在いる区画は……1K22」
「こちら前衛先導。了解した。方向を教えてくれ」
「X軸上、Y軸左方向だ」
「了解。総員急行」
報告すると奥へ急いだ。
早くしなければ。
*************
「太田。こんなところに逃げたか」
幸太郎はAK‐74の銃口を太田の背中に向ける。
「これを見て撃てるかね?」
振り返った太田の腕の中には見慣れた少女の姿があった。
「悠!」
「おっと。動くな。動くと撃つぞ。君の持っているAKから弾倉を抜き、込めてある弾を抜いて放り投げろ」
マカロフを悠のこめかみに突きつけて言い放つ。
「ちっ……!」
幸太郎は指示に従ってマガジンを外し、ハンドルを引く。チャンバーに残っていた5.45×39ミリ弾が勢いよく飛ぶ。AK‐74を真横に放り投げる。
「無力だなぁ、坊主。自分の無力を呪っていろ」
「貴様ぁ!」
「どうしようもない。警察も壊滅だ」
「所詮は人殺しか、ケダモノが!」
「いいのかな?そんなこと言って」
「人質がいるからって!」
「あたりまえだ。使えるものはすべて使うまでだよ」
「やり口の汚さと残酷さは俺が知る限り最低だ」
「革命に血は不可欠だよ。坊主」
「おい!動くな!」
不意に聞きなれた声が響く。闇の中から防弾着と銃を装備した神山と霧谷が出てきた。
「今すぐ銃を捨てろ。貴様は完全に包囲されている」
「ふっ。それはどうだろうネェ」
悠を羽交い絞めしている左手で金属製の筒を唇に咥えると甲高い音が響いた。犬笛だ。
変化はすぐに霧谷に現れた。
「い…や……、嫌ァァァァァァァ!!」
「美里!」
霧谷は叫びながら頭を抱えてしゃがみこむ。神山はその声を聴いて彼女をかばうように寄り添う。
『前衛2!悲鳴が聞こえたぞ!どうした?!』
無線から確認の声が聞こえる。
「被検体K‐3310号。噂のとおりか」
「嫌……イタイノ…イヤ……コワイ……」
霧谷はがたがたと震えだした。
「貴様!美里に何をした!」
神山が叫ぶ。
「ほぉ、美里か。いい名前だ」
太田は神山のほうを向いてにやりと笑う。
「質問に答えろ!」
「簡単なことだよ。君は疑問に思ったことがないのかね?なぜこの少女にもともと名前がないのか。そしてなぜこの少女がここまで戦闘能力を有しているのか」
「どういうことだ!」
神山は叫ぶ。
「彼女の育った施設は、朝鮮民主主義人民共和国の金日成記念朝鮮人民軍第七秘密学校なのだから、この程度のことは織り込み済みだろう?」
幸太郎には何も思い当らなかった。だが神山には思い当たる節があるようだ。
「ほう、その表情。よくわかっているようだな」
「北朝鮮の対外破壊工作員養成機関か」
「君の『北朝鮮』発言の訂正を願いたいね」
「訂正はしない。北朝鮮はこの国の敵対組織だ」
「飽くまで認めないか。まあいい」
幸太郎に今が絶好の機会に思えた。カーゴパンツの右ポケットには茅ヶ崎に渡されたP230JPがある。相手の意識は比較的散らばっていて動作を認識するのに時間が掛かるはずだ。あとはもっと神山に意識を向けてくれればもっといい。
「第七秘密学校の幼年工作員育成課程では、工作員の暴走を防ぐために一人一人に特定の周波数の音で無力化するように暗示が掛けられている」
そうもっと向こうに意識を向けろ。
「彼女にもそういうものが掛かっているのさ」
「なぜそれがわかったんだ」
もっと、もっとだ。
「彼女の顔の特徴、そしてリサーチだよ」
「っ!」
「我々が本来十年前に手に入れるはずだった少女なんだよ。彼女は」
もっと!!
「本来は、佐渡島沖で沈められてしまった工作船で来るはずだった。それを君の上司が途中で攫っていったのを見かけてしまってね」
もっとだ!!!
「人攫いとは。下衆だねぇ、君の上司も」
今だ!
幸太郎はカーゴパンツの右ポケットに手を入れP230を抜きながらセイフティを解除する。手を伸ばしながら左手をスライドに掛け、スライドを引きチャンバーに初弾を送る。スライドを引く音に振り向き、驚愕の表情で固まる太田に対し右手を伸ばし左手を添えて狙いを絞る。引き金を引くと.32ACP弾が放たれる。太田の右人差し指は微動だにしない。弾丸は亜音速で太田に向かって進んでいく。マカロフの引き金にかかっている人差し指に命中し、それを吹き飛ばす。ほんの1秒強で決着がついた。痛みでマカロフを落とし、人差し指を失った右手を左手がかばって羽交い絞めにしていた悠が解放される。
「グァァァ!」
太田は痛みに顔をゆがめる。
「クソガキィ……貴様ぁ!拳銃を隠し持っていたのか!!」
「下衆が何を言っているんだ。革命家気取りの糞が。人民の支持を得たければ人民を巻き込むな。貴様は一番初めから間違いだったんだよ。極悪非道のテロリストが」
憎悪に満ちた表情で睨みつける太田に幸太郎は冷たく言い放つ。
幸太郎の勝利宣言。だが太田の目にはまだ諦めの色がなかった。
「これで諦めたと思うな。まだ手はある!」
次の瞬間、闇の中から白い影が躍り出て太田と幸太郎の間に立ちふさがった。
「この子はなかなか優秀でネェ。初めは暗示に対して反抗して見せたが、順応してしまえば圧倒的な戦闘能力を発揮してくれたよ。身代金の入ったトラックに潜んでいた権力の狗どもを一瞬で蹴散らしてくれた」
その陰の正体は
「おい」
彼らがよく知る顔
「なん…で…」
幸太郎の『主人』を自称する少女
「そんな、どうしてだよ」
河合杏佳だった。
「どうしてだよ、河合!」
『下僕』の幸太郎の叫びが響いた。
*************
アクションシーンは書いてて楽しい。