Gang of the Nintendo generation/phase-1
大規模な活動を始めるテログループ
鎮圧のために十三課も動き出すが……
周辺の幹線道路は多数の検問によって封じられた。
この封鎖された領域を手分けしてローラー作戦で潰していくのだ。
地道な人海戦術は面倒だが強力だ。
SAT、SIT、そして銃器対策部隊もフル装備で展開している。
警視庁と神奈川県警、大阪府警からの応援も今後来る。
真下たちも緊急で呼び出された。
警官殺しが多発する中、真下たちにも拳銃の携帯が許可されたのだ。
身の危険を感じたら使えとは刑事部長の言葉だ。
「装弾!」
一発一発マガジンに弾を込めていく。
弾でいっぱいになったマガジンを本体に挿し込みスライドを引くとデコックする。
セーフティを掛けてショルダーホルスターに差す。
「いいな。この前のテロ事件で多数の殉職者を我々は出した。今回は怪しいと思ったら銃を抜け。殉職者数をこれ以上更新させるな!」
『はい!』
応答とともに刑事たちは現場に向かった。
*************
杉下グループ掃討作戦の開始は坪倉から連絡された。
「おい、9ミリパラべラムはあるか?」
「何言ってるのよ。山ほどあるわ」
幸太郎は拳銃を手に取ってマリアに問うと答えが返ってきた。
「分けてくれないか」
「何をする気?」
マリアは怪しむ。
「杉下のいる場所に殴り込む」
「大丈夫なの!?そんなこと、今のあなたにできる?」
「できるできないじゃないんだ。やらなきゃならないんだ」
SIG PROを手に取るとマガジンリリースボタンを押しながらマガジンを引き抜く。
パラべラム弾をパッケージから弾を取り出すと一発一発マガジンに込める。
マガジンをまだ挿し込んでいない銃本体のスライドを引きスライドストップを掛けるとチャンバーに一発、弾を込める。
スライドストップを解除しチャンバーを閉鎖するとデコッキングレバーでハンマーを落とす。
フルロードしたマガジンを挿し込むと拳銃をポケットに入れる。
スマートフォンを手に取り坪倉に連絡を取る。
「坪倉。他の部隊と合流したい。合流地点を支持してくれ」
『何言ってるんですか!?あなたは彼らのターゲットですよ!?』
坪倉からは当然ともいえる言葉が返ってきた。
「だからだ。俺を囮にして包囲すれば勝ち目はある」
『ムチャ言わないでください!』
坪倉の語気が強くなる。
「奴を始末するのは俺の役目だ」
『……一応課長に進言します。それまでは待機していてください。これは命令です。一応この組織では私が先輩で上司なんです。言うこと聞いてください』
坪倉は一応聞いたというふうに答える。
「……了解」
急に意識が興奮から覚める。
答えた時には坪倉は通話を切っていた。
世の中、ことはうまく進まない。
「そう急いでも判断を誤るだけよ」
マリアがなだめる。
「……そうだな」
一息つく。
「紅茶でも飲んで落ち着いて」
「すまない……」
冷静さが欠けていた。
反省しなければ。
*************
左ウインカーを出し交差点を左折すると真田は話し始めた。
「昔親父がな、仲間と一緒にCMを見ていすゞのジェミニを買ったんだよ。二代目の」
「なんで?」
いすゞ。今では乗用車から撤退しているが昔はジェミニが日本で最も売れた時期もあったという話はどこかで聞いたことがある。
「当時のCMで街の遊撃手とか言ってスタントやってたのさ。シャンゼリゼ通りで」
「もしかして……?」
すぐに連想できた。
「そう。買えばできると思ったらしい。180度ターンも片輪走行も超接近併走も」
「できないんじゃ?」
聞いた限り凄い高い難度の技だ。
ちなみに超接近併走はスタントマンも連結した車でやったという。
「それが一発目で完ぺきにやったらしくて、俺にも小さいときに叩き込んだのさ」
そう言いながらハンドルを握りなおす。
「まあ、当面の間チェイスはそこまでないだろうし、この腕は封印だな」
コンソールをいじるとラジオをつける。
『愛知県内で銃撃戦が発生しているのは北名古屋市周辺です。愛知県警は特殊部隊を向かわせていますが……』
銃撃戦。最近でもそこまで多くないこの単語に危機感を覚えたのは蓮池だけではなかった。
「何が起こってるんだ?」
「蓮池、課長に確認取ってくれ」
「ああ、わかった」
蓮池は携帯を取り出し茅ヶ崎のもとへ電話を掛ける。
「課長。何が起こってるんですか?愛知で銃撃戦なんて」
『先日紀伊くんを襲撃した犯行グループが違う目的で襲撃を仕掛けてきた模様だ』
「我々は?」
『すぐ片づける。東京で作業を続行しろ』
「了解」
携帯の通話を止める。
「どうだった?」
「紀伊幸太郎を襲撃したグループが違う動機で行動を始めたらしい」
「それってやばいんじゃ!?」
「どうにかするんだそうだ。作業は続行」
ランエボは道を進んでいった
強襲一班はSAF1装備を身にまとい守山駐屯地で待機していた。
「緊急事態だ。臨時の作戦となる」
秋津の表情は険しい。
「今回の作戦は杉下俊喜の仲間の迎撃だ。やつの仲間が山ほどの銃・弾薬とともに封鎖したエリアに侵入した。陸自が治安維持出動で展開するまでの時間稼ぎとして我々は敵の掃討を決行する」
「了解!」
駐屯地内に既に待機していた三菱ファイターを改装した黒塗りの装甲化トラックに乗り込むと予備の弾倉をマグポーチに挿し込んでいく。
灰田、桂木、名塚、和田はUH‐60ヘリコプターに乗り込む。
「作戦エリアに急行。県警のパトカーに先導させろ」
駐屯地の門を出るときに県警のパトカー二台が前方を先導し、けたたましいサイレンで道を開けさせる。
*************
緊急配備で機動隊が展開している。
所轄と本庁の刑事たちが分担して各戸に聞き込み、交番の警察官も普段より神経を張りつめらせている。
この空気を破るものが出現した。
ド派手なバイクやスクーター、そして乗用車が幹線道である国道22号線の道幅いっぱいに広がって進んでくる。
交通機動隊が全力で動きを阻止し、警告が続くがそれに応じる気配がない。
そしてついに事態の異常性がありありと浮かびあがってくる。
紫の服を着た少年がRPDを構え、動きを封じ込めようとしているパトカーに照準を合わせる。
「ヤバい!」
ハンドルを切ってパトカーは回避行動に出るが今度はまた違う車のRPKの射線に入り込んでいた。
7.62ミリ弾がパトカーを穴だらけにしていく。
キャビンが血の色に染まっていく。
「ヒャーハーッ!!」
一台のパトカーが爆発炎上すると、今度はまた違うパトカーに砲火が集中する。
「こちら交機06!暴走車両から攻撃を受けていま……」
無線で悲痛な叫びをあげていた隊員はすぐに銃弾の雨に爆ぜていった。
検問の警官隊はすぐに拳銃を抜き発砲しようとするが、検問で停車中だった自動車が逃げようと動きだし、場の混乱が生じた。
逃げながらリボルバーで応戦する警官たちを嘲笑うかのごとく軽機関銃のド派手な音とともに検問所にいた人という人は等しく銃撃を受けることになる。
状況は最悪を更新し続けていた。
だが彼らは空という概念を忘れていた。
上空からイヌワシのごとく刺すような視線を向けている狙撃手たちに、彼らは誰一人として気が付かなかった。
灰田と桂木はそれぞれ狙撃銃ナイツ SR‐25と豊和/S&W M1500バーミンターを構える。
「見えるか?」
「ばっちりです」
灰田の言葉に桂木は答える。
「前衛先導からお達しだ。機関銃の奴の腕を狙え」
「殺すべきじゃ」
桂木は珍しく射殺を命じない灰田に問い直す。
「車ごと叩き潰せそうにないからな。殺すと死体を排除されて、また使う可能性がある。俺たちの存在を示して攪乱する方が上策だ」
「対空砲火が来たら?」
「対空砲はなさそうだ。心配すんな。名塚、和田。準備しておけ。やつらの動きを止めんのには貴様らの連射機能付きのションベンタレが必要だ」
「……下ネタ、やめてくれません?」
威勢よく言う灰田に桂木は顔をしかめる。
「海兵隊じゃ日常だ」
そういうと無駄話を切り上げスコープ越しに意識を集中させる。
「スリーカウント。俺が手前の紫をやるからお前は奥の黒い奴を頼む。あとは適当に合わせてくれ」
「了解」
「カウント!3000!2000!1000!」
意識を絞り、敵を狙う。
「発砲!!」
二つの銃口から7.62ミリNATO弾が放たれる。
注文通りに敵の右腕を破壊する。
桂木がボルトハンドルを操作している間に灰田は第二射で先頭の車の右前輪を狙撃しコントロールを崩す。
次弾の装填が完了した桂木も一台の運転手の右肩を狙撃し、あらぬ方向へと舵を切らせる。
軽機関銃装備の車両は全て動けなくなった。
追突して総崩れになった車の群れは立往生する羽目になる。
「よし!ションベンタレ!弾をばら撒け!」
名塚と和田はすかさずG36Kと89式を構え制圧射撃を開始する。
驟雨のごとく降り注ぐ軽量高速弾は敵に傷を与えていく。
「リロードする!」
「了解!」
狙撃で場を攪乱しつつ、リロードした名塚と和田は即座に構えなおし制圧射撃を再度加える。
「狙撃1より前衛先導へ!奴らの動きは止めた。叩き潰しに来い!」
『前衛先導了解』
無線を送るとすぐにヘリは転進する。
『こちら稲垣。例のポイントに向かって確認をして』
「了解」
その言葉の後ヘリは杉下の潜伏していると思われるアパートを監視し始めた。
*************
強襲一班を載せた黒いトラックは国道22号に入って検問所跡に向かっていた。
「狙撃1から報告。もうすでに国道22号にあった北名古屋の検問所は壊滅だそうだ」
情報班の無線手が報告する。
自衛隊のヘリで先行した灰田達はすでに発生した惨状を報告してきたのだ。
「早いな」
「装備に機関銃があった可能性が高いな。狙撃1に機関銃装備の車両を確認したら先行して撃破するように命令しろ」
「了解」
秋津の指示を無線で伝える。
「さて、ここで作戦は大体固まったな。ヘリコプターによる誘導で敵の先に回る。そしてSAT、SIT、銃器対策部隊と挟撃する」
「了解」
「使えるものは何でも使うぞ」
秋津はそういって見回した。
装備チェックを行いつつ、神山は美里を見る。
MP5K PDWのストックは折り曲げたままスリングで提げている。
何処か不安な顔をしている。
「どうした?」
「ううん……」
「狙撃1が敵の動きを止めたらしい。急いでくれ」
秋津の言葉と共にトラックは加速した。
検問所まであと2キロまで近づいたころ、不意に先導していたパトカーが宙を舞う。
後ろに流れていくパトカーは何回か回転した後爆発した。
「何が起こってるんだ!」
運転手が驚きの声を上げる。
「!?シモノフだ!シモノフの対戦車ライフルが!」
双眼鏡を覗いていた助手席の観測員が絶叫する。
「なんだと!?」
「骨董品だぞ!!それ!」
気が付いた御手洗が驚きの声を上げる。
短い間に陣地形成を終えていたのか。
「脇道に逃げろ!!これ以上近づくとこいつのでも抜かれる!」
秋津が指示すると脇道にトラックは入る。
ほぼ同時にもう一台のパトカーも吹き飛ぶ。
トラックは停車する。
後部のハッチから出ると透かさず拳銃を構え警戒する。
「銃器対策班とか大丈夫かよ!?」
「知らねーよ!」
MP5Jのストックを伸ばしながら言った井口の言葉に湯浅はチャージングハンドルを引きながら答える。
「作戦変更!我々だけで敵を叩き潰す」
秋津はいったん状況を整理するために班員に告げる。
「これからは迂回して敵の構築した陣地に向かう。航空狙撃支援も要請したいが他の方面に出ずっぱりだ」
秋津はHK416のチャージングハンドルを引く。
「まったく、並みの組織じゃないな」
明石はベルトリンクをセットする。
「JPLFの下部組織や残党も参加しているかも」
御手洗は89式のフォールディングストックを伸ばすとボルトハンドルを引く。
一息つくと秋津は一息吸い込む。
「作戦開始!」
『了解!』
応答とともに部隊は敵のもとへと向かった。
*************
「乗って!早く!」
稲垣副長に急にそう言われてエルグランドに載せられた俺とローゼンハイム姉妹は何処へ行くとは知らなかった。
言われたのは武器を持ってくることのみ。
ローゼンハイム姉妹は大きなハードケースを三つほどトランクに入れたが、俺はSP2022のみだった。
既に車内には河合がいた。
シートベルトをすると車は発進する。
「これから杉下のいると思われる地点をピンポイントで襲撃するわ」
稲垣が一つ地図を開くと赤い点がある。
「最終的に杉下の携帯がこの場所で動かなくなっている。地図上ではアパートが一つ」
目を凝らすとハイムという文字が見える。
「ここを我々が襲撃して杉下を殺人罪で逮捕する」
「そういうことね。で、自慢の特殊部隊は?」
マリアが尋ねる。
「他のところで敵の殲滅に時間が掛かっているみたいよ」
「そういうことね」
マリアはシートに体を預ける。
「お願い。急ぐわよ」
運転手にそう言い、天井に何かを取り付けたかと思うと、けたたましいサイレンが鳴る。
「今が絶好の機会なの。この機会は逃したくないわ」
幹線道路に出ると速度を限界まで出している。
「それにしても、なに持ってきたんだ?」
「私たちの武器の中でもとびっきりのセットよ」
そういうと一番上のケースを開ける。
中にはレッグホルスターと彫刻の施されたシルバースライドのコンバットマスター、そして大柄なシースナイフがあった。
右の太腿にホルスターをつけるとコンバットマスターを挿し込み、ベルトを着け、シースナイフのシースをベルトに通す。
「後はメインウェポンね」
エミリーもホルスターを提げるとマガジンを取り出して弾を込め始める。
「杉下の動きはわかってるのか?」
稲垣に幸太郎は尋ねる。
「うちの狙撃部隊の腕は舐めないでほしいわね。監視としても十分働く。それに今は刑事たちが見張っているはずよ。下手に動かないように釘は刺したわ」
車は街中を疾走する。
幸太郎は流れていく景色に妙な哀愁を感じていた
*************
警戒しつつ1000メートル進むのは結構しんどかった。
神経をすり減らすというのはこういうことだろう。
秋津班長のハンドサインが出る。一旦停止。散開。そして合図の後、強襲。
全てが静かに進む。
敵はどうも適当なものを撃っているようだ。
混乱から立て直した敵には、妙に弛緩した雰囲気が流れていた。
「航空狙撃支援を要請する。目標は自動砲の射手」
秋津は無線で狙撃班を呼び出す。
「狙撃支援で自動砲の射手を射殺したのと同時に強襲する」
『了解』
秋津班長からの無線に灰田は小声で返答する。
ゆっくりとローターの音が近づいてくる。
「発砲許可」
秋津の無線の数瞬後、ローターの音にまぎれ銃声が響く。
シモノフの射手が頭を撃ち抜かれ崩れ落ちる。
『目標無力化!』
秋津はハンドサインを出す。
『強襲!』
狙撃された射手に意識が向いた瞬間、少し離れたところにいた明石はミニミ・パラを構え火力支援を始める。
一気に敵が明石にくぎ付けになった瞬間、挟み撃ちするかのように位置取りした全員が物陰から銃口を向ける。
明石に銃口を向けていた敵に容赦なく弾丸を叩き込む。
「なんでだよ!なんで俺たち挟み撃ちされてんだよ!」
敵の断末魔が聞こえる。
神山はAKMを構えた敵の頭部に即座に5.7ミリ弾を撃ちこむ。
「殺せぇ!!たった8人だぞ!!」
MPi‐KMを手にした敵の悲惨な声が木霊する。
だがその敵も井口のM4A1の弾丸に虫食いにされ崩れ落ちる。
RPDを腰だめにして撃っている敵の側頭部を狙い御手洗は89式の3点バースト射撃で仕留める。
井口は56式自動歩槍を持った敵をホロサイトで捉えると一発で射抜く。
松尾はタボールでやけくそに突進してくる敵をなぎ倒していく。
霧谷もMP5K PDWでAKMを持った敵の眉間を撃ち抜く。
秋津はHK416で容赦なく一人一人念入りに射殺していく。
戦意喪失者であろうと、両手を挙げようと容赦なく。
「おい!ギブだって!ギブなんだよ!止めてくれ!!」
絵の前で敵が両手を挙げて叫んでいる。
しかし秋津は彼に容赦なく弾丸を叩き込む。
秋津のHK416の弾丸に倒れた敵は絶望の表情に固まっていた。
敵の嘆きもしゃくり上げる声も聞こえなくなったところで全員銃口を下げる。
時間にして5分弱。
敵が一応武器を持っていたとしても、それはまるで虐殺であった。
三十から四十人いたであろう敵は、あっけなく肉塊になってしまったのだ。
「惨いや」
御手洗はそうつぶやく。
「しょうがないさ。理性を捨てて享楽のみに生きようとしたものの末路と考えるとな」
松尾はそういって合掌し念仏を唱える。
「ここは片付いたな」
「ああ」
秋津に明石は答える。
「急ぐぞ。早期に解決しないと他の地域で混乱が発生しかねん」
「エミリー・ローゼンハイムから入電」
井口が秋津に伝える。
「なんだ!?」
「……交戦したとのこと」
「遅かったか」
敵の遅滞工作にまんまとはまっていた。
*************
目標地点周辺でエルグランドは停止する。
二挺用のショルダーホルスターと拳銃用マグポーチを挿した河合は装備を確認する。
マリアはケースを一つ開くと、中にあったUZI PROを手に取る。
エミリーはSVU‐ASを取り出すとマガジンを挿し込む。
幸太郎もマガジンを確認する。
「この周りを調べた刑事の説明だと、2階205号室にいるはずよ」
スライドドアを開いて外に出る。
「何者!?」
稲垣は殺気を感じ取る。
そこにはなぜか黒いウィンドブレーカーを羽織ったセーラー服の少女がいた。
プラチナブロンドの髪とヘーゼルの瞳が怪しく光る。
「今市内は避難指示で移動が制限されているわ。家に帰りなさい!」
稲垣の警告に少女は二振りのマチェットを鞘から抜く。
「武器を捨てなさい!」
稲垣はSP2022を構えて叫ぶ。
「何言ってんの……
オバサン
」
少女は笑いながら言う。
「……オ…バ……サン!?」
その瞬間、稲垣はカチンときた。
「そう!オ・バ・サ・ン!」
一つ一つ強調するように少女は言う。
「……みんな!やって、しまいなさい!」
「まるで悪の組織の女幹部ね」
そう言いつつも河合は二挺の90‐TWOをホルスターから引き抜く。
「ふふふ。私に勝てるかしら?」
少女は河合に肉薄する。
河合は振り下されたマチェットを躱すと90‐TWOを速射する。
女は銃撃を回避するとウィンドブレーカーを翻しながら再度河合に接近する。
二振りのマチェットを回避すると河合は再度銃撃する。
その銃撃をしなやかな動きで軽々と避けながら少女は再三河合に肉薄する。
彼女にとっては必殺の間合い。
ゲーター・マチェット・プロフェッショナルの湾曲刃が河合の首筋を捉え、深々と貫入しようという時だった。
二人の間に何かが掠める。
突き進む刃が弾丸に吹き飛ばされる。
エミリーのSVUが火を噴いたのだ。
幸太郎は稲垣とマリアとともに鉄の階段を上がる。
205号室からは得体のしれない激しい音楽が漏れていた。
「突入!!」
稲垣の号令とともに幸太郎はボロい木の扉を蹴破ると畳敷きの部屋に土足で踏み込む。
拳銃を構えながら部屋の隅から隅まで確認する。
生活感のあるというより、テレビで見られるゴミ屋敷寸前のまるで片付いていない状況が目の前にあった。
奇妙なにおいが充満している。
怪しげな光が目に痛い。
「杉下!!どこにいる!!」
幸太郎は叫ぶ。
敷きっぱなしの蒲団が怪しく震えている。
急に背後のクローゼットが開く。
驚き振り返って拳銃を向けるが、そこには丸裸のままガムテープで拘束され、猿轡を噛まされた男がいた。
杉下ではない。
「なによ……これ……」
振り返るとそこには目を見開き脱ぎ散らかした服の上に裸で寝転がって肢体を痙攣させている見知らぬ女と、それを見て呆然としているマリアの姿があった。
車の陰でブローンしているエミリーはSVUの連射で敵を河合から引きはがす。
「くたばれ!!」
マガジンを交換し、連射で制圧するよう畳み掛ける。
急接近してくる敵は残ったマチェットを振りかざす。
「このぉ!!」
弾が切れたSVUではなく、すぐにコンバットマスターを抜き速射する。
弾丸を避けた敵に河合は背後から銃撃を加える。
敵は振り向きざまにマチェットの一閃で弾を叩き落とす。
「キル・ビル!?」
河合は驚愕する。
不意に敵は動きを止めると走って逃げる。
「待て!」
二人は敵を追う。
路地に逃げ込まれるがすぐに追いつくところだった。
だが急にバイクが飛び出る。
スズキ・GSR400。
突進してくる大きな影を二人はどうにか避ける。
「いい趣味してんじゃないの!!」
河合とエミリーが銃撃するが、それが当たった手ごたえはなかった。
「なんて奴よ……!」
河合の言葉が小さく響いた。
「なんで杉下を取り逃がした!」
幸太郎はやり場のない怒りをぶつけていた。
周囲には多数の警察官が展開し現場を封鎖していた。
マリアはあの惨状を見てしこたま吐いていた。
不意打ちでガッツリ見てしまい、結構キテいるらしい。
「隣の部屋の男から服を奪ったみたいだけれど、男は何も答えてくれないわ。携帯に頼ったのがバカだった」
稲垣は唇を噛む。
杉下の携帯電話は部屋に転がっていた。
電源はついたまま。
見ようによっては、それこそ、囮として使ったようにしか見えない。
ふと手の中にあるものを見つめる。
部屋に転がっていた何とも言えない針付きのビニール製のパッケージだった。
一個だけ拾って現場から持ち出したのだ。
「それにしてもなんだ?これは」
よく見てみると不気味なマークが浮かんでいる。
たしか化学汚染マーク。
見ていて思い起こされたのはロボコップ2に出てきた麻薬・ヌーク。
こんな小分けパッケージで出てきたはずだ。
「調べてみるわ。空のパッケージが二つあるのもあの二人と関係ありそうね」
稲垣はそういって目で示す。視線の先にはさっき痙攣していた少女と縛られていた裸の男がいた。
少女は心停止に陥ったらしく救急救命士が心臓マッサージを必死に施していた。
男は目が泳いでいた。うわごとのように意味不明な内容を呟いている。
「酷い有様ね」
ミネラルウォーターで口をゆすぎ、ひとまず落ち着いたマリアは肩で息をしながら言う。
「この症状、神経性の薬物によるショック症状にトリップね。そのパッケージは中身を確認しないといけないわ」
そういって稲垣はパッケージをつかんでチャック付のビニール袋に入れる。
「それにしてもあの女は何!?」
「あいつ。タダモノじゃない」
河合とエミリー話していた。
「あのプラチナブロンド。染色じゃない」
「わかるの?」
「うん」
地毛がプラチナブロンドの人間なんて日本にはそこまでいない。
「調べてみるわ」
稲垣がメモを取る。
「これからどうなるんだか」
そうつぶやき、ふと嫌な気がして幸太郎は振り返る。
瞬間、アパートが爆発する。
「なに!?」
驚いて稲垣も振り返る。
赤々と燃える火炎が薄闇の空を照らす。
中には鑑識が多数いたはずだ。
遠くからの捜査員たちの絶叫が木霊する。
「携帯電話とこの薬以外の物的痕跡は吹っ飛んだわけね」
炎が照らすなか、稲垣は捜査の難しさを感じた。
幸太郎はローゼンハイム姉妹のマンションに戻るとシャワーを浴びて床に就いた。
「なんで、消えやがったんだ」
公安の監視網をあっけなくすり抜けた杉下。
そして謎の少女の存在。
彼自身がいつの間にか巨大組織の中に入っていることは確実だった。
しかもかなりの上級職。
「畜生……!」
小さく呟く以外、なにもできそうになかった。
「大丈夫?」
ドア越しにマリアの声が聞こえる。
「いや。やつを確実に仕留められると思ったんだがな」
つい言葉をこぼす。
「あなたはそこまでそいつが憎いの?」
マリアは小さな声で問う。
「ああ。俺の人生を狂わせた、元凶だからな」
低い声で幸太郎は答えた。
「あなたは何を望むの。彼を殺しても、元に戻るわけじゃないわ」
マリアの言うことは一面では正しかった。
だが
「俺は奴を屠るとあの時決めたんだ」
幸太郎は決意していた。
全てを失っても彼を殺すことを。
「あなたは何を見ているの」
マリアは幸太郎の心の闇を透かし見ていた。
*************
小辞典
RPD
7.62×39ミリ弾を使用する軽機関銃。
ベルトリンク式の弾薬を使用するが、AKのマガジンが使えなかったことが問題となり短い間でRPKが取って代わることになる。
RPK
RPDの後継軽機関銃。
AKをほぼそのまま銃床を大きくし銃身をバイポッド付の肉厚長銃身にした銃。
フィンランド製カスタムモデル、バルメM78はコマンドーのジョン・メイトリクスが敵地に乗り込んだ際の初期装備の一つ。
SR-25
ナイツ・アーマメンツ社が設計製造するセミオート狙撃銃。
M16の使用弾を7.62ミリNATO弾に変更し、メカニズムを単射のみに再設計。
銃身に余計な応力がかからないフリー・フローティングバレル構造にした。
世界最高精度のセミオート狙撃銃と言われたPSG-1を超える性能を有し、非常に高性能。
無論値段も張る。
灰田が使用するのはバリエーションの中でも競技射撃向けに高度に調整されたマッチモデル。
M1500
日本の豊和工業が設計製造する狙撃銃。
海外の各メーカーにOEM供給のごとく銃身とメカニズムが輸出されるものがほとんど。
桂木はS&W社に輸出されたモデルを使用している。
海外では評価が高くそこそこ売れているが、国内ではほとんど需要がないというドーナツ現象みたいなことが起こっている。
バーミンターモデルは小柄な動物を撃つために精度をより高めた歪みにくい肉厚銃身を組み込んだモデルである。
PTRS1941
SKSカービンで有名なシモノフが設計し、第二次世界大戦の東部戦線(大祖国戦争)や朝鮮戦争でソビエト赤軍などが使用した対戦車ライフル。
14.5ミリ弾を五発装填可能で、対装甲射撃や遠距離狙撃だけでなく対空戦闘にも使った。
未だにかなりの数があるらしい。
SVU‐AS
SVUのバリエーションの一つ。
軍特殊部隊向けの連射・単射選択式のモデル。
バイポッドを最初から装備している。