1st mission 登校初日
さて、任務の決まった二人は高校へ
※注意
若干きつい表現があります。特に最後の会話の多い部分には嫌悪感を催す場合もあるかもしれない内容があります。何が来ても大丈夫な方のみお読みください。
「こちらが転校生の神山健二君と霧谷美里さんだ」
太っていて眼鏡をかけた新担任の小坂(独身・男・数学科)が紹介する。高校二年の新年度早々の転校生は男女それぞれ一人ずつ。男のほうは平均身長くらいでやせ気味、顔はアイドルグループにいてもおかしくなさそうである。女のほうは少々幼げのある顔だ。栗色の髪が目を引く。スタイルは平均か、それより少しよさそうだ。
「ども」
「初めまして」
彼らが挨拶をするとクラス中が沸いた。
「美少女だ、美少女が来たぞ」
「キャー、イケメンきた!」
各自が思い思いのことをペチャクチャしゃべっている。まったく、下らないもんだ。面食いどもが。
「どうしたの?下僕のくせにムカついた顔して」
前席の黒髪ロングの美少女―河合杏佳が話しかけてくる。
「面食いどもがうるさいなぁ、なんて」
「あんたらしいわね」
「それに許可されてない会話は不快だ。お前はもう黙っていろ。担任の小坂の我慢は限界だ。すぐにでもキレる。下僕からの忠告だ」
「分かった。忠告に従わせてもらうわ」
河合は前に向き直った。小坂が今にもうるさくなった生徒に静かにするよう怒鳴りそうだ。ほんとにかったるい。新年度早々不快にされてはたまったものではない。
「はぁ」
ため息をついてしまう。幸せが逃げると家族や河合から注意されることが多いが、それでもやってしまうのはしょうがない。
次の瞬間、場の空気が小坂の怒鳴り声で鳴動し、また、ため息をついてしまった。
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この学校―大誠学園高等学校は私立高校としてはだいぶ小規模な学校だ。第一に水泳用のプールがない。第二に校舎に付属するグラウンドが小さく、部活動では野球部がほぼ占拠してしまう(まだ人工芝グラウンドがほかにあるからいいが)。第三に校舎の建屋が他校より小ぶりなもので4棟(うち一つは体育館)しか存在しない。部活動の予算もほとんどが全国大会レベルの柔道と、設備に金のかかる野球に吸い取られてしまうありさま。一応、中学校を併設しているが、中学部と高校部は面識がないのがこの学校の普通である。中学部から続き、高校編入組のトップの一部が入る中高一貫コース通称中学、高校編入組の上位が属する特別進学コース通称特進、高校編入組の下位が属する普通進学コース通称普通が存在する。俺たちは特別進学コースだ。特進、普通あわせて一学年およそ150人、高校全校で450人前後いる。
「あ~。かったるかった」
始業式は本当にかったるい。
「ホントそうね」
河合が同意する。
「あとは昼飯食べて面倒な業務連絡聞いて終わりか」
「食事はいいわね、癒されるわ。そうだ!転校生二人を誘いなさい!」
「そうだな」
「ふふふ…。これで下僕が増えるw「これ以上増やしてどうするんだ」そ、そうね。これ以上増やしても得じゃない」
「はぁ、もうちょっと普通な友達にするべきだろ。俺も下僕脱出と行きたいm「そうはいかない」チッ、くそったれ」
「誰がくそったれだ」
俺の称号は当面の間「下僕」だ
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この学校は始業式にも弁当持参だったらしい。うっかり持ってくるのを忘れてしまった。
「やあ、転校生。確か神山だったよな。一緒に食うか」
不意に掛けられた声に驚いた。警護対象自ら声をかけてくるとは。
「ありがとう。同席するよ」
「んじゃ、霧谷さんも一緒にどう?」
都合よく美里も誘ってくれた。
「ありがとう」
「それにしても二人とも弁当は?」
「二人そろって忘れちゃって」
正直に白状した
「そうか。じゃあ昼飯分けてやろうか。」
「いいのか?」
「いいの、いいの。どっちみち今日の体調で食いきれるかわからないし」
「ありがとう」
幸運だ。こちらから信頼を獲得する前に、警護対象から近づくなんて。
彼にすすめられ、ついていくと教室の一角に机が二つ、向き合うように配置されていた。もう先客がいる―黒く長い髪の、若干大人びた雰囲気の女の子だ。
すると不意に警護対象から話を振られた。
「そういや、二人とも転校早々仲いいな。同じ身の上だからか?」
「いや、もともと遠い親戚で知り合いだったんだ。まあ転校の理由が生々しくて…。遺産相続とか……」
当初の予定通り偽情報を言って詮索されないようにする。
「……いろいろ苦労してんのな」
「まあな」
「まあ、座れや」
「へぇ、主人を差し置いて下僕が場を仕切るの?」
不意に話し出した黒髪の少女は女王か女貴族のようにふるまっている。
「そう言うな」
警護対象はまったく動じない。
「まあ良い。転入生とゆっくり会話できる機会を作ったんだ。今回は許そう」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺の名前は紀伊幸太郎。でこいつの名前は……」
「こいつぅ?まあ良い。私の名前は河合杏佳」
警護対象―紀伊幸太郎をまじまじと見る。初め個人情報表を見たときの写真はまさしくガラが悪く怖い顔をしていたが、直に見ると思いのほか優しく理知的な感じがする。どうも写真写りが悪いらしい。体格はがっしりとして、眼鏡をかけている顔は世間一般のイケメンとは違うカッコよさを漂わせている。
「…おい、まじまじ見んな」
「ごめん」
「こっちはいろいろ大変でな。変な妄想を垂れ流す奴がいたりするんだ」
「……というと?」
「勝手に男色家にされちまうんだよ、哀しいことに……」
「それは……ご愁傷様です」
「……さて、昼飯だ、昼飯」
そういうと彼は弁当が入っているのだろう小さい手提げ袋を取り出し、中からプラスチックの箱とステンレスの500ミリリットル水筒を取り出した
「まあ一人につきどれか二つだな」
ふたを開けるとサンドイッチが六つ詰まっていた。味は卵とトマトサラダと……どうも豚の生姜焼きらしい。
「残りで足りるの?」
美里がそう言う
「大丈夫。昼抜いても問題はない」
「本当に?」
「なあに、下僕は去年弁当に箸がなくて茶を一杯飲んだ以外食わずに午後の授業をちゃんと聞いていたことがあるのよ。この程度で不調になるわけない」
河合さんはそう自信満々に答える。
「まあ、あんときもきつかったと言っちゃ、きつかったが、耐えれないほどではなかったな」
紀伊は「はははっ」と笑う。
「まぁ駄弁りはこれぐらいにして早く食べるぞ。空腹で死にそうだ」
河合さんは色気より食い気らしい。すでに弁当箱のふたを開けていた。
「じゃ、いただきます」
紀伊も手を合わせてからサンドイッチに手を付けた。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「いっただっきまーすっ」
美里の言葉とともに俺たちの昼食は始まった。
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さて、昼食が終わると下校だ。担任・小坂のホームルーム時の話によると、武装した不良中学生によるカツアゲ・暴行事件が学校周辺で起こっているとか。何とも物騒なこった。しかも遭遇したらしっぽ巻いて逃げろときた。中学生相手に逃げるなんて、とブーイングが一部で起きたが、手口を聞くとクラスは凍りついた。リーチの長い金属バットや鉄製の棒、ナイフや鉈のような刃物類を持っていて、パンチがきかないらしい。対抗するには同様に金属バットや刃物・銃器類が必要だろうか。恐ろしい、ほんとうに。いつの間に中学坊主がこんなに狂暴化したのだろうか。
「物騒になったわね。日本にもパンクギャングかぁ」
河合の感想は的を射ていた。
「この周辺で警察二十四時の収録ぐらいできそうだな」
「ほんと。グレた中学生なんてちょっと前までタバコと酒と喧嘩ぐらいだと思ってたのにね。というわけで下僕、命の限り主人たる私を護りなさい」
「イエス・マム」
半分投げやりに答える。河合にとって下僕というのは親友とイコールらしい。入学当初からの付き合いだからよくわかる。いうなれば親友のルビが「げぼく」となることがあれば、下僕のルビが「しんゆう」となることもあるといったところか。
「紀伊、いっしょに帰るか」
「神山か。いいぞ、帰るときは大人数のほうがよさそうだしな。少人数でいてボコられたらたまったもんじゃない」
「そうか。美里、一緒に帰るぞ」
「はぁい」
そう答えると霧谷は神山に小走りで一直線に向かっていった。
「お前ら、本当に仲いいな。」
素直に感心する。ただ若干、普通の仲の良さとは違うように見えた。どこか霧谷が神山に依存しているようなふうに見えたのだ。
「どうした?」
「いや、なんでも」
たいてい気のせいだろう。たまにはこんなふうに仲が良い奴等もいるさ。
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下校。一部の生徒にとっては学校で一番楽しいひと時……だそうだ。よくわからないがそういう奴もいるのだろう。校門のところで幸太郎を待ちながら物思いにふける。それにしても九年ぶりの学校はつかれた。人の多いところだと体力を消耗する。美里は俺より疲れているかと思ったらまったく違った。杏佳とガールズトークに花を咲かせている。初めての学校は楽しかったようだ。そうこうしているうちに幸太郎が自転車を押してきた。
「楽しそうだな。以前いた学校でなんかあったのか?」
幸太郎が訊いてくる。
「よく知らないけど、以前はいじめられてたとか」
「なるほど」
ごまかさないと思わぬところで素性がばれる。それだけは避けないと。
「さて、下校だ」
幸太郎の言葉とともに四人で歩き出した。
「それにしても不良中学生に注意、ってちょっと大袈裟な気がするんだけれど……」
帰りのホームルームの時に感じた疑問を素直に言ってみた。
「いや、そこまで大袈裟じゃないんだ。噂だがその不良のいるという中学校、結構酷い有様らしいからさ。それに娯楽には金がかかるから金欠になりがちなんだろうし、闘争本能発散できて金が手に入るなんて、奴らにとっては一石二鳥さ。不良学生が強盗や傷害事件を起こすのは明白だな」
「そう考えれば筋が通るか」
「それはそうと、噂をすれば…だ」
ふと見ると、周りを自分たちより一回り若い連中が取り囲んでいた。ざっと見て12人。全員が茶髪か金髪に髪を染めて、ピアスを付けている。
「かねづるみぃ~っけ」
「いくらぐらい持ってんのかなぁ。このダサいヤツラ」
「しかもチョーカワイイコ二人もいるぢゃん」
なれなれしいというか、ふざけているというか、どこか気持ち悪い。
「アンタたち、年長者に対する態度がなっていないわね。調教してやろうかしら」
おぞましいオーラとともに河合さんが口を開く。
「どいてくれないか。関わりたくない」
紀伊も若干睨みつけるようにして言う。
「ナニいってるのかなぁ。あぁ!?」
「わっかんねぇ。けどコイツラ雑魚そうだぜ」
「早く気持ちイイコトしようや、ネエチャン」
一人が美里に近づき、なめるように見る。美里は気持ち悪そうに見ている。異様な雰囲気からか幸太郎は自転車のスタンドを下して、両手を自由にさせた。
「よぉ~し、さっそく『ブッコ』しよーかぁ!?」
すると各々鉄パイプやバット、ナイフを手に取り
「ヒャーハァッ!!」
一斉に躍りかかってきた。
だが幸太郎も河合も動じない。その気になれば自分たちのP220拳銃で迎撃できるが、使用規約上、今は警察比例の原則(相手の使用する武器より強い武器は使ってはいけない)が適用される任務だ。しかも、周囲にばれたら極秘警護も元も子もない。するとついに二人が動いた。バットを振りかぶっている一人の懐に幸太郎は一歩踏み込む。間合いが狂い、リーチよりずっと近くに来た幸太郎に相手はたじろいだ。すると……
「ふぐゎぁっ!!」
バットを持った一人が吹っ飛ぶ。幸太郎が殴り飛ばしたのだ。
「こんにゃろぅ!!」
また一人が幸太郎に今度は背後から鉄パイプをスイングしてきた。が、
「ぐごぉぇ!」
振り向きざまに幸太郎が放った裏拳を顔面に食らい、鉄パイプは空振りした。そんななか自分にも……
「カクゴぉ!!」
ナイフを持った一人がこっちに突っ込んでくる。どうも体格から俺のほうが弱いと判断したようだ。だが甘く見てもらっては困る。こっちは軍隊式実戦型徒手格闘の訓練を受けていて、実際に使っているのだ。直線的に突っ込んでくる相手は、ナイフを腰だめにしている。そして十分近づくと、腕を伸ばして刺突に適した体制になるはずだ。その時に握った手をひと蹴りすれば……。
「なっ!」
握っていたナイフは宙を舞う。それに気を取られた相手に一息で間合いを詰め、わきの下をピンポイントに殴る。
「げふぅっ!」
情けない声の後、相手は気絶したらしい。動かなくなった。ふと美里と河合さんは、と思って向きなおすと。
「あらぁ、ずいぶん弱いのね。こんな武器持って集団で襲っているのに、素手の女の子一人倒せないなんて♪」
河合さんは倒したらしい不良中学生3人を嗜虐的な目で楽しそうに見ていた。
「げふっ、ごほっ。畜生!悪魔が!」
一人だけ反抗できるだけの体力が余っていたらしい。
「何のことかしら♪ここに立っているのは天使だけよ♪」
「ぐはっ!」
にこり、と笑って残った相手の顔面に鋭い蹴りを入れている。
「すっ、すごい」
その光景を見ている美里は唖然としている。
「な、なんだと……」
「チッ、にげっぞ」
「ヒィィっ」
すると残った不良中学生は、倒れている仲間を見殺しにして一斉に逃げ始めた
*************
「まったく、無駄に体力消耗させやがって」
今、俺達四人は近くのタイ焼き屋にいた。疲れたから、みんなで甘いものでも食べようという話になったのだ。
「はむっ。甘くておいしい!」
「気に入ったか、よかった」
霧谷はベーシックな粒餡入りを頭からかぶりついていた。河合は生地に抹茶が練ってある小倉抹茶を、神山は栗餡入りを、俺はカスタードクリーム入りを食べている。
「本当にやばかったんだな……、不良って」
と神山がつぶやく。
「それにしても結構場慣れしてるな、お前。ナイフを蹴り飛ばすとか、ちょっとやそっとじゃ出来ないだろ。」
ふと思ったことを聞いてみる。
「そういう幸太郎も、大概だけどな」
「ははっ、まあな」
「下僕の場合、こんな戦闘力を持った事情が特殊でね」
「じじょー?どんな?」
「いやぁ、中学の頃に酷いイジメにあってな。いじめてた野郎どもをまとめて叩き潰そうと実践して、全滅させて、おかげで内申点全部失って、公立高校なんかは受けれなかった。だからここに来たってわけだ。おかげで輪ゴムと馬面と教師にトラウマがね……」
*************
「ははは」
幸太郎は笑っているが、いっきに空気が悪くなった。重苦しい空気はそう簡単に跳ね飛ばせそうにない。だが個人情報表の暴力沙汰に関しての詳細がよくわかった。諜報班に文句を言おう。
♪~♪~♪~
「ん?」
ふと何か電子音が鳴る。幸太郎には心当たりがあるようだ。
「え~っと、これだな」
制服の左内ポケットに入れてだした幸太郎の手元にはスマートフォンが握られていた。メールが来たらしい。
「ん?どれどれ。下僕、見せろ」
「へいへい」
幸太郎はおとなしく河合さんにスマートフォンを手渡す。
「ん~と〈お兄ちゃん、ちょっと帰り遅いよ。母さんが心配してる。べっ、別に私が心配してるわけじゃないんだからね!! by悠〉。へ?悠ちゃんついにツンデレになったの」
「悠ちゃん?」
「俺の妹だ。やつはそこまで心配していないだろうが、母さんは心配してるだろうな。つーわけで帰るわ。じゃあな」
そういうと幸太郎は自転車にまたがると、家のほうへと漕ぎ出していった。
「河合さん。それじゃあ俺たちも」
「ああ、また来週」
自分たちの任務は基本的に学校の門を出て、大きい道に出るまでだ。あとは他の班が守ってくれる。ただ信頼の獲得という面からすれば、こういう寄り道も必須だ。第一、美里も楽しそうだ。
「たのしかった♪」
本当に楽しそうだ。
*************
「今回の報告は以上です」
課長に報告する。
「よろしい。で、どうだったかね、学校は」
「久しぶりで疲れました」
「すっごくたのしかったです」
「そうか。ああ、あと私と強襲三班は来週末に陸自の東富士演習場に出向する。覚えておくこと」
『は!!』
敬礼で返す。
俺たちは現地に作った「分室」にいた。この「分室」は地方での任務の拠点になる。今回は前代未聞の超長期任務、故に俺たちは新築の高級マンションを縦横十字型に計5部屋借りている。こんなことをしているのは情報漏洩を防ぐためだ。俺と美里、そして課長の三人で当面の間、十字の交点にあたる部屋で生活することになっている。ほかの四部屋も夫婦や独身のエリートサラリーマンに偽装した課員が生活している。
「さて。晩御飯としよう」
課長は顔をほころばせて言う。結構な歳の課長だが、どうも料理が得意らしい。なんとも凄味のある、切れ者らしい初老の男の料理とは思えないほど繊細な料理が出てくる。独身生活だからだろうか。
「今日の晩御飯はビーフストロガノフだ」
*************
「ねえ、いい?」
部屋のドアが開くと美里が入ってくる。
「どうした?」
「ちょっと寂しかったの」
「そうか」
「|隣、座っていい?」
「ああ、大丈夫だ」
美里は俺の隣で脚を抱えて座った。度々こういうことがある。美里には何かトラウマでもあるのだろうか、俺のベッドに潜り込んでいたこともあった。そのたびに怖い夢を見たと言っていたが、本当のところはわからない。
「今日、一緒に寝ていい?」
「ん?いいよ」
「ありがと」
美里は優しくしてもらいたかったのだろう。現に、この組織にいる少年工作員の殆どはテロや犯罪で家族を失ったり、家庭の不和があって逃げて保護された人材が多い。第一世代の俺もそんな感じだ。彼女もそうだろう。
「寝よう」
美里は寝るのがいつも早い。
「わかった」
明日のために、今日は俺も早めに寝ることにした。
*************
分室のうちの一つで私はとある人物に電話をかけていた。
「内閣総理大臣、ですか。不思議なものですなぁ、国家に対してテロを行った人間を擁する政党が今や国会の第一党だなんて」
『貴様、電話口だからといって何を言ってるんだ。それが総理大臣たる私に対する態度か!』
その人物とは内閣総理大臣、萩原一雄。政治家一族の世襲議員だ。
「そうですとも」
『なにぃ!』
「当たり前です。法務大臣に学生運動で警官一人を爆殺した死刑廃止派の人権派弁護士。財務大臣に反米、反自衛隊活動家だった過去のある人物。文部科学大臣に日教組の重鎮。おまけに総理、貴方は就任式でいきなり同盟国であるアメリカに喧嘩を売り、事実上敵対している中国と韓国と北朝鮮に媚を売った」
『日本の外交はアメリカ中心じゃないんだぞ!』
「だから反日教育を行っている諸国に媚を売った、ということですか」
『ちがう!我が国は独立国家だ。今までの与党のやり方は日本のための物ではなかった!アメリカからはもう距離をとるべきなんだ!』
「どこが独立国家なのか。自衛隊は軍でも警察でも準軍事組織でもなく、事実上米軍がなければ安全保障の面で国家としての体面すら維持できない。にもかかわらず、なにを偉そうに独自外交をしようなどと考えているのか。私には理解できませんな」
『一介の公務員に何がわかる。私は内閣総理大臣だぞ!貴様らの部署なんていとも簡単に潰すことだって出来る!』
「ほぉ、小児性愛者は言うことが違いますな」
『……なんだと』
「貴方は、過去に少女買春の加害者だった。お気に入りは大体小学四、五年生の少女に学校指定の水着を着せそれを……「これ以上言うな!」おや、否定しない」
「き、貴様、な、なぜそのことを」
「我々の任務の一環です。敵対する勢力の弱みを握る、情報戦の基本です」
「こ、口外無用だぞ!このことは!」
「それはあなた方の貢献によります。我々に必要な予算を全額承認するよう頼みますよ」
『わ、わかった!だから、たのむから……』
ガチャっ
「よく耐えましたね、課長。あの資料で吐きそうなのに。胃薬渡して正解でした」
諜報班の稲垣敏子がコーヒーを淹れ、私に差し出す。
「ああ、君の胃薬のおかげでビーフストロガノフを無駄にせずにすんだよ」
コーヒーを一口すする。今回は普段より大分薄めだ。
「この手を使うのは初めてだったな」
「今まではどの総理も必要性を十分知っていましたからね」
「逆に今回は自分たちに牙をむくことになるからな。余計に反発する」
初めての脅迫だ。ここまでどうしようもないほどに権力志向の強い総理を見たことがない。いや権力志向だけならまだしも職務や立場を理解していない。バカ息子が大企業の社長になったも同然だ。
「なんであんな人格に育ったのでしょう」
「帝王学で人格が歪んだのだろう。」
あんな幼稚な性格で東京大学法学部と大学院を首席で出ている。精神年齢に比例してか小学生に性的興奮を覚えるらしく、買春している事実もある。購入履歴を見るだけで吐き気を催してしまう。購入した最低年齢が7歳、最高年齢が11歳となるともはや病気だ。それでいいところの浮世離れした純粋培養のお嬢様を妻にしているのだから気味が悪い。
「書類作成後は速やかに就寝してくださいね。そのためにコーヒー薄くしたんです。神山と霧谷はもう寝たようですよ」
霧谷はわかるが神山もか。珍しいが、霧谷が一緒に寝てほしいと懇願したのだろう。
「それに弁当と朝食を作るんでしょう。寝不足だと包丁で指切りますよ」
「そうだな、早めにカタを付けるよ」
部下のありがたい忠告に従うことにした。鶏のから揚げの下準備も済んでいることだし、今日は片づける書類の数も少ない。早く仕事をして寝よう。
いろいろ予定が立て込み大変スローペースです。
今後も続きますのでよろしくおねがいします。
11/22追記 考証ミスを修正しました