Achter mission: Feindschaft, die aufwärts verdreht werden sollte――絡まる敵意
遂に激突する白百合の姉妹と庶務十三課
その裏では全く違う存在もうごめいていた。
「あなたは楽しませてくれるよね♪コータロー」
潜在的な恐怖を想起させる楽しそうな、そして蠱惑的な笑顔でエミリーは言った。
サプレッサー追加のステア―AUGなんてものを持っている時点でエミリーとの戦力差は歴然だ。質が違う。
幸太郎には.32ACPのP230JP拳銃しかない。
弾数でも一発の威力でも負け。
勝ち目があるなら機動性程度か。
一瞬で意識を集中させる。
鎖に縛られた少女が真っ暗な空間に爆ぜる。
複雑なオブジェクトばかりの空間が一気に単純化される。
「その銃を……置いてもらおうか」
拳銃を突きつけ、語気を強くして言う。
「それ……むり♪」
言い切るのと同時に銃撃が始まる。
フルオートで5.56ミリNATO弾が放たれる。銃声は火薬の破裂音とは違うバスバスバスッという鈍い音になっている。
店のショーウィンドウのガラスが割れる音が鳴る。
金属の柱に跳弾する音が響く。
射線を見切ってすべて避けると二発発砲する。
すぐそばを通過した射線から破裂音がする。
二人の銃撃は全く当たらない。
エミリーはすぐに物陰に隠れる。
幸太郎もまた物陰に隠れる。
空になった半透明のプラスチックマガジンが床を転がる。
カラカラと金属よりずっと鈍い音がする。
エミリーは先ほどの連射で1マガジン全ての弾を撃ったらしい。
ジャキンという音でコックされたことがわかる。
結構、用意周到だったらしい。
戦闘が長引くことまで勘定に入れていたようだ。
反面、俺のP230JPはマガジン一個。
いろいろしょうがないとはいえ心許ない。
(隙をついての肉弾戦か)
軽量高速弾の5.56×45ミリNATO弾は弾速が超音速になる。サプレッサーを使うとソニックブーム以外の騒音はほとんどなくなる。おかげで若干距離を置いた場合では銃声がわかりづらくなる。
だがブルパップとはいえ、アサルトライフルは重くて長い。
格闘戦となると途端に邪魔になってしまう。
つまり格闘戦ならこっちの方が有利なはず。
近くを見まわしてカラーコーンどうしを繋ぐためのコーンバーを発見した。
(これを使うか)
急いで手に取ると長さを確認する。
(いける!)
P230JPをポケットに突っこんで、相手をうかがう。
牽制の銃撃が浴びせられる。
壁に当たって跳弾の音が響く。
(3、2、1!)
心の中でカウントダウンをして、一息に駆けだす。
距離にして十メートル。
ライフルの射程からすれば近すぎる距離。
サプレッサーの小さい口から焔が灯っているのがわかる。
全てスローモーションに見える。
飛翔する弾丸すら見えそうだ。
銃撃を回避しながらエミリーに肉薄する。
「うおおぉぉぉぉっ!!」
雄叫びをまき散らしながら。
*************
ククリとカランビットが激突する。
刃どうしがぶつかっては離れる。
マリアのコンバットマスターが三度吠える。
それを美里はかわして左手のP220で銃撃する。
マリアは美里の銃撃をかわし、喉笛を掻っ切ろうと左手のカランビットを振るう。
美里がかわすとマリアは化粧室から飛び出る。
追って美里も飛び出た。
「あなたは!?」
化粧室に残った神山はその場にいた男に尋ねた。
「私は李国明だ。彼女を止めろ!あの御嬢さんは私の命の恩人だ!」
李国明。資料に乗っていた武器商人の一人だ。
「どういうことです!」
WLSは中華系の武器商人を狙っているはずだ。なのになぜ?
止血作業を始めながら訊ねる。
「ここに転がっているのは偽のヴァイス・リリー・シュヴェスターンの一人だ」
「偽の?」
偽物というのはどういうことだ?
何故、他の殺し屋の屋号を使う?
仕事が減るし、いわれのない恨みまで買うのに。
「そうだ。偽物だよ、この女は。本物にある品がない!」
断言する李の姿に驚いてばかりいられなかった。
すぐに作戦を変えないといけない。
急いで無線機を取り出す。
「!こちらA班。急いでフードコートまで来てくれ。あと、救急車だ!」
二人を止めないと。
ククリとカランビットが激しい音を奏でる。
美里はP220を二点速射する。
マリアはいとも容易くかわし、左腕を切り刻まんと躍り掛かる。
下から左腕を狙うが美里はすぐに左腕を避けようと動かす。
カランビットは空を切る。
すぐに右手のコンバットマスターを撃たんと美里に向ける。
美里は肘でマリアの腕の向きを変えて射線をそらす。
一発があらぬ方向に飛ぶ。
同時にククリで首を狙う。
だが、それは簡単にカランビットで防がれてしまう。
美里はP220を三発撃つが今度はマリアの右腕で射線を狂わされる。
マリアのコンバットマスターがさらに三度吠える。
美里は発砲の直前にしゃがんで避けた。
急いでマリアは離れると物陰に隠れる。
ポシェットから予備のマガジンを取り出すと、マガジンを交換しスライドを引いて装弾する。物陰から美里をうかがう。
二発の牽制の銃撃の後、美里もマガジンを交換する。
「はあぁぁぁぁぁあ!」
マリアは物陰から飛び出した。
左手のカランビットが美里に迫った。
*************
銃撃が途絶える。
弾切れだ。
エミリーは急いでマガジンを交換しようとするが、それより早く幸太郎が握っているコーンバーがエミリーの左腕に命中する。
「くぅっ!」
エミリーはAUGを落とす。すぐに右手に持っているマガジンを落とし、ポケットに入っているフォールディングナイフに持ち替えて片手で開きこちらに振る。
背筋と脚部の筋肉をフルに使ってのけぞる。
目の前を刃が一閃する
(カランビット!?)
死神鎌のように湾曲した鋭い刃。逆手持ちに特化したグリップ。指を通すための穴。近年になってコンバットナイフとして人気になった超近接戦用ナイフ。食らえばザックリと肉が切られる。
エミリーは勢いそのままに左手を床について蹴りに移る。
幸太郎はコーンバーで防御する。
エミリーはそのまま回転してカランビットが喉を狙う。
コーンバーでカランビットの刃を受け止めると、幸太郎は後ろに跳ねのいて、もう一度構えなおす。
エミリーもまた後ろに一旦退いて、左手にもカランビットを握ると豹のように構える。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
先に駆けだしたのは幸太郎だった。
太刀のようにコーンバーを振りかぶりエミリーの頭を狙う。
ひらりと右にかわすと左手のカランビットで幸太郎の右脚を狙う。
さっと右脚を下げ一閃を回避するとコーンバーで背中を突く。
エミリーは一瞬床に叩き付けられるが、そのまま倒立の要領で脚を上げると幸太郎を蹴り飛ばす。
そのままバク転の要領で体制を立てなおすと、右手のカランビットで顔を切り刻もうと接近する。
幸太郎は瞬時に避けるが今度は左手のカランビットが迫る。
更に体をそらして回避すると、槍のようにエミリーの腹を突き距離を開ける。
構えなおしてすぐに幸太郎は横なぎにコーンバーを振るいエミリーの左脇腹を狙う。
エミリーは右手のカランビットで防御し左手のカランビットは幸太郎の右腕を狙う。
寸でのところでかわし、間合いを取った幸太郎は再度攻撃に転じる。
今度も脇を狙うがカランビットでガードされる。
すぐに後ろに下がると、今度はエミリーの方から接近してくる。
右手のカランビットの刃が幸太郎を捉えようと左から迫る。
コーンバーを両手で構えてガードすると、下から別の刃が迫る。
右手をコーンバーから離して背をのけぞらせて避ける。
すぐに右から蹴りが来る。
右腕で受けるとそのまま連続で回し蹴りが来る。
その一撃も右腕で防ぎ、幸太郎も右足で蹴る。
防がれるとすぐに左足で蹴る。
エミリーは攻撃を受けると、幸太郎の体を両脚で蹴って距離を取る。
着地して間もなく、再度幸太郎にとびかかる。
右手のカランビットが幸太郎の頬に紙一重にまで近づく。
幸太郎は右ひざをエミリーに叩き込む。
一瞬動かなくなるが、すぐにエミリーは左手のカランビットで喉を狙う。
右手でコーンバーを握ると、その一撃を弾く。
「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
エミリーの右手が伸びる。
刃が幸太郎の喉を引き裂かんと迫る。
「このぉ!」
右手のコーンバーでエミリーの右手を打つ。
「あっ……!」
カランビットが手から落ちる。さらに左手からもカランビットを叩き落とす。
一歩二歩と後ろに下がると、幸太郎はポケットのP230JPを引き抜き、エミリーに突きつけた。
「君の負けだ!」
勝利宣言とともに。
*************
負けてしまった。
負けて、しまったんだ。
汚らわしい男に。
わたしは負けてしまったんだ。
わたしは、この男よりも弱いんだ。
突撃銃を持っているわたしは、拳銃だけのこの男よりも弱いんだ。
カランビットを両手に持ったわたしは、プラスチックの棒を持ったこの男より弱いんだ。
弱いんだ。
弱いんだ。
弱いんだ。
………
……
…
弱いんなら死なないと。
弱いは罪だから。
今すぐ、死なないと。
*************
俊足のカランビットを左手のP220で弾くと、美里は右手のククリを振り下す。
マリアはしゃがんで回避すると右手のコンバットマスターを美里に向け発砲する。
身体をのけぞらせて避けると、美里は左足でマリアの右手を蹴りあげる。
それでもマリアは拳銃を取り落とさなかった。
「っ!しつこい!」
美里は毒づく。
「どっちのセリフぅ!?」
マリアは言葉を返しながらカランビットを振るう。
避けた美里の鼻先を刃先が掠める。
ククリを即座に逆手持ちにスイッチすると美里は刃を上に振る。
即座に反応してマリアは重心を右に移す。
デトニクスを美里に向け一発発射する。
弾丸は美里のP220の銃口に向かう。
P220の銃口に吸い込まれたACP弾は一瞬にしてマリアに優位をもたらした。
美里の左手に握られているP220は一発の弾丸によってもう使うことができなくなったのであった。
指を護るために美里は拳銃を手放した。
蓮池は準備をしていた。
背広のボタンを外し、左腰のナイロン製サムブレイクホルスターに右手を伸ばす。
ホルスターにはレイジングブルが収まっている。
自動ドアをくぐり目標を確認する。
二人の少女がキャットファイトというには少々物騒な格闘戦をしていた。
片方はククリナイフとフルサイズの拳銃、片方は逆手に持った小型ナイフとサブコンパクトの拳銃といった具合だ。
一旦チャンバラをしたかと思えばすぐに銃撃。
一応報告は受けている。
精神統一をし、ゆっくりと息をする。
ホルスターのストラップを外し、居合の抜刀のごとくハンマーを起こしながら引き抜く。
銀のリボルバーは太刀のような煌きを見せながら振り下される。
照星と照門が合った刹那――それは美里のP220が破壊された瞬間と同じだった、蓮池は引き金を引く。
ダンッ!
激しいマズルフラッシュの後、.44マグナム弾がまっすぐ目標へと向かう。
弾丸はマリアのデトニクスのスライドに吸い込まれていった。
ガキュゥン!
甲高い音とともにマリアのコンバットマスターが吹き飛ぶ。
「あっ!」
吹き飛び、床に転がった拳銃に気を取られてマリアの注意は散漫になる。
「もらい!」
その隙に美里は一気に距離を詰めるとマリアの左手首をつかみ、背後に捻り上げるとククリを喉元に触れさせる。
「〈私の勝ちだよ、マリアちゃん。おとなしくして。殺したくないから〉」
ドイツ語で静かに告げる。
「やめろ!そんなことしても!」
「離して!」
遠くから声が聞こえる。
幸太郎と、エミリーちゃんの声。
「何が起こったんだ!?」
止血の応急処置が終わった神山がギョッとなる。
「〈もしかして……!〉」
マリアは振り払おうとする。
「どうしたの!?」
「止めないと、エミリーを!じゃないと死んじゃう!」
眼に涙を溜めてマリアは懇願した。
*************
いきなりで驚いた。
またカランビットを手に取って反撃をするくらいは覚悟していたが、彼女はその刃を自身の首に向けたのだ。
「やめろ!何してるんだ!」
「〈死なないと……死なないと……死なないと……〉」
手が震えている。その刃を自身の傷一つない喉に近づけていく。
急いで近づいてカランビットを持った右腕をつかむ。
「やめろ!そんなことしても!」
「離して!」
エミリーは何かに憑かれたかのようになっていた。
「落ち着け!なんでこんなことしないといけないんだ!」
「〈嫌ぁ!死なせて!お願い!〉」
完全に錯乱している。
「エミリー!」
こちらに駆け寄ってくる影が見える。
金髪の少女、マリアだった。
マリアはエミリーにかぶさるように抱きつく。
「〈落ち着いて〉」
「〈お姉……ちゃん?〉」
「〈死んじゃ……ダメだよ……!〉」
マリアの頬にはきらりと光を反射するものが流れた。
「〈お姉ちゃん〉」
エミリーの体は脱力し、すべてを姉であるマリアに委ねた。
「俺は邪魔だったか」
幸太郎は静かに呟く。
いつの間にか周辺には私服には似つかわしくない武装をした男女が「何事か?」といった表情で立っている。
神山の同僚たちだろう。
何人か見た顔がある。
「例の男は?」
「応急の止血は済んで安静状態だ。あとは救急車で病院だな」
「そうか」
神山は女性と話していた。
霧谷はMP5を持った女性からP220を手渡されている
幸太郎たちの背後には
「あ!あんた!あの時の!」
「ん!?ああ!この坊主!」
いつの間にか蓮池がいた。
「貴様の事件のおかげで俺はなぁ!家族を失っちまったんだぞ!」
「勝手を言うなぁ!」
幸太郎は掴みかかってきた蓮池の手を避け、掌底を蓮池の鳩尾に寸止めする。
「……しょうがない。今は仲間だ。休戦としよう」
「大人げないな、おっさん」
二人は離れる。
「で、なんで蓮池さんはこんなところに?」
「さっきも言ったが、今は仲間だ。貴様の事件のおかげでな!」
蓮池の言動の端々にはとげとげしい態度が見て取れた。
「それに、韓国国家情報院の特殊部隊がこの周辺に展開していることがわかった。俺はそれ対策の先遣隊の前線偵察員だな。あとから俺以外も来る」
「それって……。ッ……!?」
幸太郎は不意に拳銃をポケットから引き抜き発砲する。
「どうした!?」
「今、この周辺に仲間の特殊部隊はいないんだな!」
「ああ。いないはずだ。連絡もないから、到着までまだしばらく掛かるはずだ」
幸太郎の問いかけに蓮池は答える。
「あそこに特殊部隊装備の奴がいた」
「何だと!」
神山は急いで向かう。
確かにそこには黒い防弾装備に身を包んだ人物の死体が転がっていた。
見事に眉間を撃ち抜かれた死体は、その手に短機関銃を握っていた。
「UMPだ。45口径。フラッシュライト付きフォアグリップにレーザーサイト、サプレッサーまでついてる……!」
「それって、日本の機関は採用していないはず」
「うちも採用していない。てことは」
考えられる結論は一つ。
「この中にはもう韓国の特殊部隊が……」
「総員!第一種警戒態勢!」
神山は無線機に吹き込む。数人ほど周囲に来て拳銃やサブマシンガンを構えて警戒を始める。
そのなかには一度見た顔があった。
「坪倉凛?」
「お久しぶりです、お義兄さま」
彼女の手にはポケットピストルが握られている。
「まったく。拳銃なんて持たせて……頭脳労働者に肉体労働を強いるなんて言語道断です」
プンすかプンすかと愚痴をこぼしている。
「先遣の蓮池より各班。敵はすでに作戦行動中。私はすでに別件で行動していた現地部隊と合流」
蓮池は警戒しながら無線で交信している。
「発見次第射殺。ぬかるな!」
坪倉の隣にいる女性が指示する。
『了解、副長』
蓮池と幸太郎以外が返事をした。
「神山!そのUMP渡してくれないか?」
「わかった」
装備品を確認していた神山は勢いよくUMPを床に滑らせる。
受け取ると幸太郎はスリングに肩を通す。
「おい!二人とも武器を持って!」
幸太郎がローゼンハイム姉妹にいう。
マリアはポケットのKEVINを手に取るとマガジンを交換する。
エミリーは先ほど落としたAUGを取りに行く。
本体とマガジンを確認すると、本体のバレルロックボタンを解除しサプレッサー付のロングバレルを外し、カバンの中のショートバレルに付け替える。
サイトブースターを横に跳ね除け、マガジンを挿し込むとボルトハンドルを引く。
カバンの中からマガジンを取りポケットに入れる。
エミリーの視界の端に黒服が見えた。
AUGを構えるとすぐ照準を合わせて撃つ。
「ガッ!」
悲鳴が聞こえた。
「すぐそばまで来てる!」
エミリーの言葉の直後、何か大がかりな物を動かすためのモーターの音がした。
「なんだ、この音?」
蓮池の言葉の後、幸太郎は音の正体に気が付いた。
「シャッターを下ろす時の音だ!」
見ると防火シャッターや店先のシャッター、モールの出入り口のシャッターが閉まっていく。
「閉じ込められるぞ!急げ!」
全員で出口へと向かうが、そこにはすでに黒づくめの特殊部隊がすでにいた。
数は5~7人程度。手にはサプレッサーの有無などの細かな違いはあるが先ほどの敵と同じUMPを持っている。
敵はすぐにUMPを構えると、こちらに向けて撃ち始める。
急いで物陰に隠れる。
「こんちくしょおおおおおおおおおおっ!!」
幸太郎はUMPをフルオートで発砲する。
「日本の警官を嘗めるな!」
蓮池もレイジングブルで応戦する。
他の仲間たちも手持ちの武器で特殊部隊に応戦する。
みるみるうちに敵は行動不能になっていく。
だが彼ら特殊部隊の目的は達成された。シャッターはついに閉まってしまった。
しかも閉まりきった後、傍らで小さな爆発をおこして。
「畜生!」
蓮池は思いっきりシャッターを蹴る。
「さすがにシャッターは銃ではどうにもならないわ」
副長の言葉に坪倉も頷く。
「エンジンソーかバーナーカッターが必要ですね。爆発で電気制御盤が使えなくなったはずです」
「芸が細かいなぁ。エマージェンシーハンドルも木端微塵だ」
御手洗も周囲を見ていたが、どうしようもないと諦める。
シャッターはもう自力で開きそうにない。
「ここで籠の鳥というわけか。」
真田はそうつぶやく。
「最悪だ」
湯浅はシャッターをまじまじと見つめる。
御手洗もどうしたものかといった顔をしている。
「どんだけいるのよ、あいつら」
「知るか!どうしようもないさ」
桂木と灰田はMP5Jのマガジンを交換する。
HKスラップをそろって行うと、バジャッとボルトが閉鎖され初弾が装填される。
「それにしてもあいつは?」
「無線がつながらない」
「トラブルか。新入りは」
無線をいじりながら神山と御手洗が話している。
幸太郎は敵からUMPの予備マガジンとUSP.45を剥ぎ取っていた。
「これ使えよ」
UMPを一丁マリアに渡す。
「ありがと」
マリアはUMPのマガジンを抜いて新しいものに換えるとハンドルを引く。
「さて、どうしたもんか」
そう呟くと、幸太郎も空になったマガジンを交換し、ボルトリリースボタンを押す。
「これから敵の掃討を行う。後続の部隊の展開を待ちつつ、敵勢力に対し攻勢をかける」
稲垣は全員に作戦を伝達する。
「待機すべきじゃ……」
「待っていても埒が明かないわ。李国明も連れて行く」
「それしかないか」
「総員!戦闘準備!」
マガジンの交換が済んでいなかった人員もマガジンを交換すると、周囲を警戒し始めた。
「あの防火扉を越えるぞ」
御手洗の指示で防火扉に向かう。
全員が突入に備えて銃を構える。
挟撃に備えて警戒を全方位にしている。
「あんたもついてくるんだよ」
状況を飲み込めていない李国明を湯浅は手招きする。
「持っててよかったフラッシュ・バン」
御手洗は防火扉を一瞬開けて安全ピンを引き抜いたM84を放り込む。
シャッター越しに炸裂音がする。
一斉に雪崩れ込み、激しい銃声が響く。
敵は扉の向こうで待ち構えていた。
手際よく各個無力化していく。
扉に注目していたためか、ほとんどが何もできないまま肉塊と化していく。
「桂木。クリア!」
「霧谷。クリア!」
「湯浅。クリア!」
敵の無力化が完了したことを示す合図が響く。
「本当にどれだけいるんだ」
一方的な勝利。
戦闘直後の警戒。
襲ってきたのは十数の敵。
韓国は国内にこれだけの特殊部隊を侵入させていたのだ。
その割に練度は低めだ。パニックに陥って弾切れを起こしている奴が何人もいた。
サブマシンガンにアサルトカービンという充実した装備の割には練度がまるで伴っていない。
まるで実戦経験どころか十分な訓練すらされていない。
これじゃ付け焼刃なんて表現すら生温い。鍍金だ。
物陰を警戒しながらコミュニケーションを取る。
特に李国明の周りには三人張り付いている。
李国明は場慣れしているのか、そこまでおどおどしてはいなかった。
「警戒を厳に!」
蓮池はレイジングブルにスピードローダーで弾を込める。
真田も拳銃の残弾を確認する。
「まったく、拳銃なんて使うもんじゃないな」
真田の言うことも、もっともだった。
彼は運転手故に訓練以外で拳銃を扱うことはなかった。
人生初の銃撃戦はこの戦闘だ。
「だが訓練していてよかっただろ?」
「そうだな、まったく」
真田は溜息を吐く。
「まだどこかにいるんじゃないか」
毒づいた次の瞬間、幸太郎の目の前に特殊部隊が現れた。
迂闊すぎた。敵の気配が薄すぎた。
鉄の扉ががばっと開く。黒尽くめは闇からヌルリと現れた。
「え……?」
一瞬反応が遅れる。銃口はすでに完全に幸太郎を捉えている。
AS12フルオートショットガン。
面制圧を得意とするショットガンの中でも、敵にすると最悪の部類の装備。
他の隊員も応戦が遅れる。
「幸太郎!」
「なに!?」
「よけろぉぉぉぉ!!幸太郎!」
神山が絶叫する。
だが、身体は反応できない。
大量の散弾が体を穴だらけにすると思った次の瞬間
上から
何かが
降ってきた。
ダダンッ
響く銃声
飛び散る鮮血
崩れ落ちる敵
降り注ぐ薬莢
なびくリボンとフリル
そして
流れる黒髪
「一日と二十時間三十二分ぶりかしら。私の下僕♪」
目の前で
「そんな……」
黒いロリータ服を着た河合杏佳が、両手の拳銃で奇妙な型を見せていた。
小辞典
MP5J
正しく言うならば「高性能機関けん銃」やMP5Fと呼ばれる。
日本の警察機関向けに提案・採用されたMP5の最新モデル。
MP5Fは大型スライドストックを搭載したモデル。
これに強装弾対応エンハンスドボルトや大型フラッシュハイダーを追加搭載したモデルが日本向けMP5Fであり、一部でMP5Jと呼ばれるモデルである。
UMP
ドイツH&K社が設計製造する最新のサブマシンガン。
今までこだわってきたローラーロッキング機構を排除しストレートブローバックに変更した。
複雑な構造が排除されボルト自体の強度が上がったため.45ACP弾が使用できるようになった。
ボルトストップ/リリースボタンも追加され、HKスラップも見ることができない。
MP5を購入できない国向けとも言われているがMP5の普及率を崩すことはできそうにない。
一番売れているのは.40S&Wモデルらしい。
HKスラップ
H&K社のG3とその派生製品(HK33やMP5シリーズも含む)に使うテクニック。
G3シリーズのローラーロッキングボルトは構造の複雑さ故に強度が低く、ボルト閉鎖状態でマガジンを交換するとボルトがひずむ恐れがあった。
しかも、弾切れの際にボルトを後退したままにする機構も存在しなかった。
そのためG3系列の銃器は弾切れになるといったんハンドルを引き、ハンドルを上に捻ってずらしボルトを後退位置で固定してからマガジンを交換した。
そのあとにボルトを再度閉鎖するときにハンドルを上から思いっきり平手打ちすることで派手にかっこよくボルトを閉鎖し装弾することをHKスラップと呼ぶようになった。
ダイ・ハードで有名になり、H&K社のオフィシャルシューターも行う、ちょっとした応用テクニックである。
AS12
S&T大宇が製造するフルオートショットガン。
設計はアメリカのギルバート・イクイップメント。
十発のボックスマガジンや二十発のドラムマガジンを使用する。
もともとはアメリカ軍向けに設計されたもの。