プロローグ
第二章始動!!
ごく普通だったはずの幸太郎の生活は激変する。
転校生はドイツ人姉妹。
多発する武器商人襲撃事件。
他国の情報組織の武力介入。
ヨーロッパ有数の殺し屋の入国。
真の敵は誰だ!!
イタリア シチリア島
「儂のシマから手を引いてもらおうか」
白髪の恰幅の良い男はそういって葉巻をカットして火をつける。
「わかっていると思うが、貴様らのシマは金の生る木だ。我々の権益が保障されるとは限らないのでな」
対照的な黒髪で細身の男は紙巻きたばこに火をつける。
「勝手に利益を横取りしておきながらそのようなことを言うのかね」
彼らはかの有名なシチリア・マフィアの首領である。喧嘩で双方の縄張りが決まらなかったために今回は手打ちを兼ねた会談となったのだ。
「さて、そんなことより具体的な条件の設定をいたしましょうか。これ以上流血の事態は避けたい。そうでしょう」
黒髪の男――ダンテは灰皿に灰を落としながら言った。
「そうだな」
白髪の男――グレゴリオは煙を吐き出してそう返した。
*************
「敵がいっぱいいるね、お姉ちゃん」
「わかっているわ」
二人の少女は遠くから警備をうかがっていた。
「気を付けてね」
少女たちは接吻をすると武器を構える。一人は黒染めの本体に木製グリップパネルのデトニクス・コンバットマスター小型拳銃とアイトール・ジャングルキング=ナイフを、一人はパウザP50対物ライフルを手に取る。
「わかってる。支援、頼むわよ。作戦開始」
小さく言葉を交わすと少女の一人が飛び出す。
*************
ズガン、ズガン
「なんだ!?」
UZIマシンガンを持っていたピエトロは小さな人影が横切ったように感じた。遠くから銃声らしき音も聞こえる。
「どうした、ピエトロ?」
「ミルコ、何か見えなかったか?」
「いや、なにも」
次の瞬間、共に警戒していたミルコは銃声とともに頭を撃たれて倒れた。
「ミルコ!」
ピエトロには状況がわからなかった。UZIを構えて周囲を確認する。『影』が視界に入る。トリガーを引き9×19ミリパラべラム弾をばら撒く。『影』はふっ、と消える。
「手打ちの日になんで襲撃なんかが起こるんだよ!」
周囲を見渡す。国家治安警察隊のやり方ではない。何者だ?
目の前にさっきの『影』が現れる。
「わぁぁぁぁぁ!!」
UZIを乱射するがまるで当たらない。いつの間にか『影』は目の前にいて左手にギラリと光るものを手にしていた。
ズバッ
喉元に一瞬冷たいものが触れたかと思うと、強烈な灼熱感と痛み、苦しみが襲ってきた。喉にぬるりとした鉄臭い液が流れ込む。鮮血があたりに飛び散る。
「なんだ!?」
銃声と騒ぎを聞きつけた仲間が集まってくる。
「ピエトロ!ミルコ!」
ウベルトが近寄ってくる。
「殺れ!殺っちまえ!」
サロモネの怒号とともにUZIやベレッタM12、アグラム2000といったマシンガンが一斉に火を噴く。小さな人影はいつの間にか消えていた。
「どこ行った!!」
「ドン。襲撃です。ピエトロとミルコが殺られました」
連絡係のアダーモが携帯で首領に連絡を入れると、ズドンという音とともに隣にいたベルトルドの体が真っ二つに吹き飛んだ。
「畜生!何が起こっている!」
次の瞬間、毒づいたカストの左のこめかみに風穴があいた。
「カスト!」
叫んだヴェネリオの左半身が赤いしぶきに変わる。
「どこだ。どこにいるんだ」
ロモロはあたりをきょろきょろと見て襲撃に備える。
「ギャッ!」
タツィオが悲鳴を上げる。ロモロ達が振り返るとタツィオは首から血を流して倒れていた。
「タツィオ!」
サロモネが近寄ると頭が赤い霧に消えた。
「アダーモ。狙撃手に探させろ」
ランベルトが指示する
「ネレーオ。どこに敵がいるかわかるか?」
無線機に声を吹き込むが返答が返ってこない。
「ネレーオ。どうした。ガスパロでもいい。応答してくれ!」
彼らは知らない。狙撃手のネレーオと観測手のガスパロがすでに体の三分の一近くを失って絶命していることを。
「だめだ!二人ともうんともすんともいわねぇ!」
結果を言った直後、後頭部に赤い穴をあけてアダーモは絶命した。
残ったウベルトとロモロは背中合わせになって警戒した。だが、彼らは二人そろって鳩尾を銃弾で串刺しにされ真っ二つになった。
*************
「貴様、私の部下を襲わせたのか!」
ダンテは怒りをあらわにしてグレゴリオを睨みつけた。
「何を言うかね。儂はそんなことはせんよ」
そういうとグレゴリオは灰皿に灰を落とす。
「では、さっきからの騒ぎはなんだ!電話で部下から襲撃の一報が入ったよ」
ダンテは苛立ちを隠せない。
「どうせ、儂らを狙った違うマフィアの仕業でしょう。我々を潰せばパイの取り合いは有利になりますからな」
余裕綽々の顔でグレゴリオは語る。
「貴様!飽くまで白を切るつもりか!」
ダンテは顔を怒りで赤くした。
「儂は知らんよ」
「ならば、しょうがない」
ダンテは携帯電話を取り出すと、電話番号を押し始めた。
だが、部屋のドアが急に開くと銃声とともに携帯電話は二つに分かれてしまった。
「何者だ!」
護衛の男たちがアグラム2000を構える。照準は入ってきた人影。だが、そこに人はいなかった。
護衛たちは周囲を警戒する。が、次の瞬間、護衛の一人は銃声とともに側頭部に穴をあけて倒れた。もう一人の護衛が振り向くと眉間に風穴があき崩れ落ちる。
「なんだ!?なんだなんだなんだ!?」
ダンテは懐のベレッタM92 EliteⅡを抜く。
「そこかぁ!!」
振り向きざまに三発撃つ。『影』はいつの間にか消えていた。
「ちっ、どこにい」
ダンッ
銃声とともに後頭部に風穴があいたダンテは口を開けたまま崩れ落ちた。薬莢が床を跳ねる音が響く。
「よくやってくれたよ。人生で初めて、学生時代に習ったドイツ語が役に立った」
グレゴリオは『影』に賞賛の言葉をかける。
「どういたしまして」
『影』の正体は少女だった。フードを脱ぎ、長い金髪をさらりと流して無機的に答える。
「報酬も追加しよう……と思ったが儂の大切な部下まで殺してしまうとは」
「邪魔をするものは排除するまでです」
「なるほど。わかったよ」
そういうとグレゴリオは少女の肩をポン、と叩く。
少女は不快そうな表情を露にし、拳銃――デトニクス・コンバットマスターをグレゴリオに突きつけた。
「契約違反よ。あなたを殺すわ」
「何を言っているかね。何も契約違反は……」
若干焦りながらも、グレゴリオは笑いながら返す。
「契約書には私の体に触れてはならないと書いてあるはずよ」
「なんだと!?」
グレゴリオは契約書をあわてて見直す。すると隅の方に老人が裸眼で読むことを考慮していないような文字で条項が存在した。
グレゴリオの怒りが頂点に達する。
「貴様、儂を嵌めおったなぁっ!!」
グレゴリオは懐中からベレッタM1934を取り出し突きつける。
「命だけはくれてやる。早く行きたまえ。死ぬぞ、若いの!!」
だが、少女はそのまま引き下がらない。
「甘いな。甘すぎるぞ、若いの。あと少ししたら儂の統括する娼館にでもスカウトしようと思ったのだが」
引き金を絞る。
「ここで、さよならだ」
グレゴリオが宣告した、その直後響いたのはグレゴリオの拳銃の銃声ではなく、窓の砕ける音と遠距離狙撃特有の惨状が発生してからの銃声だった。グレゴリオは右肩から左肩を50口径対物弾の通り道にされたのだった。
「甘いのはあなたよ。地獄で後悔してなさい」
*************
ホテルのベッドの上でわたしたちはパジャマ姿で抱き合っていた。
「あらあら、二人とも今日はお疲れナノ?」
にこやかに声をかけてきたプラチナブロンドで下着姿のお姉さんはセリーヌ・ミュラトール。娼館に売られそうになっていたところを私たちが二年前に買い取ってあげた女の人だ。
彼女は私たちを恩人と言って住み込みでいろいろしてくれる。料理に洗濯から相談相手まで引き受けてくれるから仕事に集中できる。
「うん。依頼主を久々に殺した」
「そうなんだ」
そう言ってセリーヌはカップにハーブティーを注いで私たちに渡してくれた。
「あの時は危なかったよ、お姉ちゃん。私がちゃんと照準していたからよかったけど…」
「ごめんね」
妹からの指摘にすまない気持ちになる。ハーブティーを一口飲むと体が温まった。
彼女は傷付いてほしくないのだ、わたしに。
ふとノートパソコンの画面が気になった。新しいメールが来ている。
メールを開くと、依頼が入っていた。
「依頼?どこで仕事をするの?」
妹が訊いてくる。
「はじめて行くところのようね。私たちに頼むのも珍しいと思うわ」
「どこどこ?」
セリーヌも首を突っ込んできた。
「日本よ」
二人ともその言葉に驚いた。
新コーナー!!
小辞典
デトニクス・コンバットマスター
デトニクス社が開発し、製造する小型のM1911クローン。
使用弾は.45ACP弾。この弾を使用する拳銃としては最小クラス。
懐や鞄に隠し持つことを前提とし、引っかかりにくいように形状を変更している。
パウザP50
パウザ・スペシャリティ社が開発し、製造していた大型対物ライフル。
現在はフレッシュアワー・マニュファクチュアリング社が製造している。
使用弾は12.7ミリNATO弾。作動方式はガス式セミオート。
同じ弾薬を用いるバレットM84A1より5キロほど重い。
ベレッタM12 アグラム2000
ベレッタM12はイタリア・ベレッタ社製の、アグラム2000はクロアチア製の短機関銃。
M12は「UZI、MP5と並ぶ」とまで称されたこともある銃。
グリップとフォアグリップの間にマガジンがあるという特徴的な形状で有名である。
アグラム2000はM12を基にクロアチア政府が開発した銃である。
グリップを人間工学に基づく形状に変更し、放熱性能の向上や軽量化をおこなった銃である。
クロアチア紛争やコソボ紛争で使用されたが、現在ではヨーロッパの裏社会に数多く流通している。
ベレッタM1934
ベレッタ社が製造していた小型拳銃。
イタリア軍の正式拳銃として開発され、1990年代までの長い間製造された。
なお、グレゴリオはこの拳銃を下っ端時代から買い換えつつ使ってきた。
(参考文献:MEDIAGUN DATABASE, Wikipedia)