魔王を倒したら、「処刑します」と言われた件
俺はどこにでもいる、普通の社会人。
朝起きて、飯食って、働いて帰る。そんな代わり映えのない毎日を過ごしていた俺は、ある日異世界に召喚された。
目の前に女神様がいて、「貴方は勇者になりました。というわけで異世界に来てもらいますが、よろしいですか?」って言われて、二つ返事で「オーケー」と言ってしまったのが運の尽きだ。
いや、ほんと何してんの?
まあ、チート手に入れたし、冒険は楽しいから別に関係ないけど。
俺達勇者一行の最終討伐目標は、魔王だ。
何でも、女神様の悲願なんだとか。いや、自分で倒せよ。と、ツッコミたいところだが、そこはファンタジーのお約束だろう。無視だ無視。
「おい、ユウキ。もうすぐ魔王城だ。気、抜くなよ」
「お前こそな」
「ああん?ん、だと?」
「もう二人共。喧嘩しないで」
勇者一行は、《攻撃役》の俺――ユウキ、《盾役》の短気な男――ジール、そしてしっかり者の《回復役》――ニナの三人で形成される。
少ないように感じるが、一人一人の力がずば抜けているので、こんくらいが丁度いいのだ。
「お、見えてきた。あれか?」
「そうだな。……デカ!魔王城デカ!」
「もう!もう少し緊張感を持って下さい!」
「えー、いいじゃん。旅行気分の方が楽しめそうだし」
「これは旅行じゃありません、人類の明日を賭けた戦いなのです!」
「えー、そんな緊張するなって。なぁ、ジール?」
「馬鹿か、ユウキ。緊張感持て」
「あ、お前、この野郎!掌返しやがって!」
「へへ、してやったり」
「てめー……!」
「やめて下さい。貴方達が喧嘩したら魔王が暴れるより被害が大きくなります」
「「確かに」」
そんなミニコントを繰り広げている内に、魔王城に着く。
当然の如く、門番には「誰だ!ここは、魔王様の住まいだぞ!許可なく立ち入ることは……」と言われたが、俺が一言「黙れ」と言ってデコピンをお見舞いしたら、「いたああぁぁ!!」と叫びながら吹っ飛んだ。
力加減ミスった感じするけど、まあ大丈夫だろう。
俺達は、城の中に入る。内装も外装に劣らず豪勢だった。
「スゲーな」
「おい、見ろよこの絵画。これ、俺達が最初に受けた時の依頼のやつじゃね?」
「ん?あぁ……。ホントだ。あれか!偽物だって喚かれたやつか!」
「そうだよ!えー、まじか。まじで偽物だったんだ。よし、奪うか。じゃ、ニナ。これ、収納しといて」
「ちょっ……、アンタ達!私はパシリじゃないわよ!」
「じゃあ、下僕だな」
「ち、違うわよ!私が誰の下僕だって言うの?」
「そりゃ、偉大なる勇者様に決まってるだろ」
「お前こういう時だけ俺を持ち上げんな」
軽い調子で城内を進んでいく。
途中、途中出くわす雑魚共は、俺のデコピンで始末する。
ニナに敵を近づけないように注意しながら。
なんか、魔王軍四天王の中で最強と自称している奴もいたが、そいつも漏れなくデコピンで倒してやった。デコピン最強。
「弱いな」
「そうだな、味気ないな」
「なら、まだジベリ洞窟の方が楽しめたわ」
「それな、あそこ無限に《モンスター》湧くから楽しかったよな」
「ああ、《不落の洞窟》って言われるのも頷けたわ」
順風満帆に魔王城を踏破していた俺達、しかしその瞬間の終わりは唐突に訪れる。
『魔王の死亡を確認』
『討伐者は『最強の勇者ユウキ』『鉄壁の相棒ジール』『稀代の聖女ニナ』』
『三人を『裁きの間』に転送』
『準備完了しました』
『実行します』
頭の中に無機質な声が流れる。
ジールとニナも同様の声を聞いていたのが、表情から伺える。
「なんだこれ?」
「さあ?てか、魔王の死亡を確認とか言ってたな。ユウキ、お前魔王倒したのか?」
「うーん、あれじゃね?あの、少しだけ図体デカかったやつ」
「あー、あいつか。ニナ《鑑定》してたか」
「する暇もなく殺されていましたわ」
「確かにそうだな」
「『裁きの間』だっけか?聞いたことあるか?」
「ない」
「ないですわ」
「だよなー」
『『裁きの間』への転送失敗』
転送失敗?
「転送失敗だって」
「ああ、何だった結局?」
「……ユウキ、ジール。何か強大な魔力を感じます。警戒して下さい」
……まずいかもしれない。
「おい、ジール……。ニナが暴れるかもしんない」
小声で耳打ちする。
「ああ、まずいな。どうする。気付いてる風を装うか?」
「いやいや、俺達は魔力とか分かんないから、それはむずいだろ」
「じゃあ、どうする?ニナが暴れたら本当にやばいぞ……」
「ふへへ。魔力の高鳴りを感じます……」
「まずい……!ニナの本性が……!」
「抑えるんだ、ニナ!」
「やめろ、ジール。こうなったニナはもう誰にも止めれない」
俺達が冒険をしている時、なぜニナを雑用係にしたのか。
それは、パシリやすいからという理由の他に、戦闘狂としての一面を出すのを防ぐためでもある。
くそ……。さっきまで成早で倒していた努力が……。
俺とジールが、ニナの暴走を止めるのを諦めた、次の瞬間。
俺達の真正面に、高速でなにかかが飛来した。
「久しぶりね、勇者ユウキ」
「久しぶり?生憎俺の異世界での友人はこの二人だけだ」
「あら、寂しいこと言うじゃない。覚えてない?私よ。女神よ、女神」
「女神……?ああ、あの時の」
「そう、思い出した?」
「はい、バッチリと。で……、何の用ですかね?」
「貴方達を『魔王虐殺罪』で処刑するためよ」
「……は?」
「死ね!」
ちょいちょい、待てニナ!まだ、話は終わってない!
「ジール、止めろ!」
「あん?こうなったニナは誰にも止められないんじゃないのかよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべながらジールが言い返してくる。
「……っく!ふざけている場合じゃないんだ!そいつは女神だ!多分俺達がどうこうできる相手じゃ……」
「死ね!」
ズドーン!という轟音が、辺り一帯に響く。
煙が立ち昇り、ニナや女神がどうなったかを確認することができない。
「ニナ!無事か?!」
「ええ、ユウキ。無傷だわ」
「そうか、良かった!で、女神はどうなった?!」
「気絶しましたわ」
「え?」
「だから、気絶しましたわ」
「あ、まじ?」
「はい、まじですわ」
……パねーっすわ、ニナさん。
聖女はその後、十分後くらいに目覚めた。
「ここはどこ?私は誰?」とか言い出した時は焦ったが、その後すぐに「ここは魔王城、私は女神」と言って覚醒したので一安心だ。
……ニナっていう不安要素があるけど。
まあ、今は落ち着いてるから大丈夫だけど。
「あのー、女神?話せそう?」
「はい、私は話せます」
「そうか、なら良かった」
「というわけで処刑します」
「ちょいちょい待て待て。なんで処刑っていう流れになってんだ?そこら辺説明してくれよ」
「魔王を殺したからです」
「……それの何が駄目なんだ?魔王討伐は女神の悲願じゃないのか?」
「そんな悲願はありません」
「……は?」
会話は平行線を辿る。
女神の悲願を叶えるために魔王を倒した俺、魔王を倒したことに憤慨している女神。
なるほど、見事なまでの矛盾だ。
「お前は俺に、魔王討伐が悲願と言ったんだ。覚えてないのか?」
「はて、そんな記憶は……?」
「当然よ。その女神は本当の女神ではないもの」
「はい……?」
「おいおい、誰だよてめぇ」
「ふふ、また強い人が……」
もうえらいこっちゃ。
ジールは怒るし、ニナは涎垂らして今にも殴りかかりそう。
てかニナ落ち着いてたのに……。もしかして、今日は血が騒いでるのか?慣用表現ではなく。
「あの、貴方は?」
「私は、女神よ」
「女神はもういますよ?」
「こいつは女神ではないわ。魔王の妻よ」
「魔王の妻?!魔王に妻いんの?!凄いなこの世界線!」
「黙れ……!この、勇者め!!!」
速い……!
チート補正で、動きがスローモーションになってるはずなのに……。
「うおっ……!」
バックステップを踏み、間一髪のところで回避する。
しかし、相手は避けられるのを予測していたのか、次の攻撃の体勢に入っていた。
……後ろ蹴りか……?
いや、口が動いている。
頭上を見上げる。
案の定、巨大な氷塊が落下してきていた。
蹴りはフェイントで、本命はこの魔法だってわけか。
異世界に来てから初めての本気の戦闘。
恐怖も感じる。怯えもある。でも何よりも勝っていたのは快楽だった。
案外戦闘狂なのかもしれないと、自分の認識を改める。
次は俺からも攻撃を仕掛ける。
腰に差さった剣を引き抜き、中段で構える。
一呼吸し、間を作る。この間を作ることで相手の気力を削ぐ!
一回大振りに振るい、相手が動いたのを確認すると、俺は上げていた腕を中段に構え直す。
一瞬、相手が微かに目を見開く。その時だけ動きが止まる。
しかし、それはほんのコンマ一秒。されど、コンマ一秒。
命懸けの戦闘の最中、それは大きな隙となる。
その隙を突いた、俺の渾身の突き技。
これで相手は倒れ……ないだと?
――まずい!
そう思った時にはもう。
決着はついていた。
大きな隙を晒した俺は、無様にも魔王の妻の攻撃を諸に受けることになる。
「がはっ!」
胸に大きな、十字の形が刻まれる。
頸動脈を突こうとした攻撃は辛うじて避けたものの、首筋に掠り、無視できないほどの傷を付ける。
吐血が激しい。立ち眩みが激しい。
初めて感じる「死」の気配がすぐそこまで迫ってきてるような気がした。
「終わりだ」
仰向けに倒れる俺に告げられた、残酷な言葉。
時間が止まってしまったのではないか?
そう錯覚するほどに動きが遅く見える。
しかし、心臓の音だけはやけに大きく響いており、今にも破裂しそうだった。
ドーン!という音が聞こえる。
――俺を殺すだけなのに……。用心深いな。
その音に見合うだけの痛みがやって……こない?
閉じていた目をゆっくりと開ける。
魔王の妻の姿がない。
周りに目を向ける。
少し離れたところにニナがいた。
その下にいるのは……魔王の妻だった。
「ユウキが死にそうだったから、助けてあげたよ!ユウキ、弱いね!」
あ、はい。そうですか……。まじですか……。
……ニナさん、まじパねっすわ。
「驚いたわ、ニナ。勇者を倒した敵をあっさりと倒すなんて」
「まじでそれ」
「ああ、がちでまじで」
傷を癒してもらい、今は女神に状況の説明をして貰っている。
「魔王の妻って、なんであんな強いんですか?」
「うーん、正直私も想定外だったわ。まあ、概ね夫を殺した恨みといったところじゃないかしら?」
「それだけで、あんな強くなれますかね?」
「女は愛する男ためなら、神にでも反抗するのよ」
「まじですか?!」
「まじなのよ」
まじか。女半端ねー。
コエー。
「てか、いつ魔王殺したの?」
「あら、貴方達が殺してたじゃない。デコピン一発で殺しちゃってたけど」
「あー……、あの少しだけ図体デカかったやつですかね?」
「そうよ」
「えー……、俺デコピンで魔王殺してたの?で、魔王の妻に倒されたの?」
やべー。魔王の妻半端ねー。
そして、それに勝つニナはどうなってんの?
ニナが勇者の方が安心でき……ないな。
うん。この戦闘狂に任せたら色々終わる。
よし。俺が勇者で良かった。
「で、『裁きの間』っていうのは?」
「それは、魔王の妻が魔王を倒した者のために作った、特設の処刑場よ」
「その場で断罪すればいいだけなんじゃ……」
「なんでも、そこで断罪された時の様子が全世界の人間に共有されるそうよ」
「え?」
なにそこ、怖。
良かったー。転送失敗して。
「転送失敗したのはなんで?」
「私が妨害したからよ」
「妨害してくれたんですか?」
「ええ。魔王の妻を倒さなきゃ、本当の意味で魔王討伐とは言わないもの」
「どういうことですか?」
「魔王の妻は、魔王を生み出す能力を持っているの」
「え。つまり、魔王の妻を倒さないと、永遠に魔王が誕生するってことですか?」
「そう」
「恐ろしや」
気絶している魔王の妻を見る。
こいつにそんな能力があると考えただけで怖くなる。
「早く殺しましょう」
「ええ、それがいいわ」
「じゃあ、誰が殺す?」
「私が殺したんだから、私が殺りたいわ」
「分かった」
「ちょっと、ただ殺すだけじゃつまらいじゃない。どうせなら、とっておきの場所で殺りましょう」
「とっておきの場所?」
「そう。『裁きの間』よ」
今、俺達は『裁きの間』にいる。
女神様が妨害した時に、その座標を固定しておいたそうだ。
流石女神。
「じゃあ、起こすわよ」
「「「はい」」」
「起きなさい」
それだけで起きるのか?
そんな不安は、次の瞬間には吹き飛んだ。
なんと、ニナにボコボコにされて、死んだように眠っていた魔王の妻が一瞬にして起きたのだ。
「……女神」
「魔王の妻。観念しなさい。反撃は不可能よ」
「ここはどこだ?」
「さあ?貴方が一番勝手知ったるところじゃない?」
「…………『裁きの間』か……!」
「ご明察。さ、ニナ。殺っちゃいましょう」
「はい。殺りましょう!」
やめてくれニナ。そんな馬鹿でかいナイフ持ったまま満面の笑みを浮かべないで……!
ああ……!こっち見ないで!
「大丈夫ですよ、魔王の妻さん。直に、夫さんのところに逝かせますからね」
全然大丈夫じゃないよ。
「じゃ、あんまり焦らすのも可哀想なので、もう殺りましょうか」
「待て、せめて遺言だけでも……」
「黙って逝って下さい!」
「ぎゃああぁぁ……!」
魔王の妻は胴体と首が泣き別れになり、またその胴体も半分に切り裂かれる。
「さあ、魔王の妻の三枚下ろしの完成です!」
そんなニナの言葉に俺は苦笑するしかなかったのだった。
読んで下さりありがとうございます。久しぶりに書いたので、誤字脱字が多いと思います。また、表現の誤りなどもあったら、感想欄で教えて下さると助かります。




