第11話 sideプラチナランク探索者 霊羅ありす
「愛しの方はいたー? ありす?」
「……見失った。かなり出来る、あれは。あれほどの力ある視線、私のとても深いところまで見透かされているみたいだった。なのに、こちらが存在を探ろうとした途端、まるで只人のように気配が霧散して、完全に人混みに紛れられてしまった……」
ありすと呼ばれた女性が、掴んでいた電柱から手を離すと、軽々と飛び降りる。そして風で乱れた自身の銀髪を軽く整えながら、同じパーティーの女性メンバーである、火菜美の質問に答える。
「──というか、愛しの、とかではないと言っただろう」
「え!? ありす、自分より強い可能性のある、未知の視線を感じたって、さっき言ってたよねー?」
なぜかとても楽しそうに、火菜美と呼ばれた女性探索者が渋い顔をしたありすに質問を重ねる。
「──それは、そう」
「深淵の雫に触れし祝福の魔女。我らがパーティー、深淵探索同好会の貴姫たる、霊羅ありすが、そこまで言う相手でしょー?」
「……まあ」
「だいたい、付き合うなら自分より弱い男は嫌だって言ってたの、ありすじゃんー」
「──そこはほら。視線の方が、男性と決まった訳ではないし」
そこまで言って、ふっと顔をそらす、ありす。
「視線の、か、た……ぷっ、ぶふぅ」
ありすの物言いがツボに入ったようだ。耐えきれない様子で笑い出す火菜美。
「火菜美、しまいには、怒るぞ」
「いやだってさー、って、イタイイタイっ! つ、潰れるからっ、ご、ごめんて、もう言いませんーっ!」
「もう」
火菜美をグニグニとしていた拳をおろす、ありす。
「お姫様がた、もういいかな? このあとの予定が詰まっているんだが」
「あらー。保村は、ありす姫の懸想の相手が気にならないのー?」
ありすのグニグニからすぐに復活したらしき火菜美。火菜美も、その美しい見た目とは裏腹に、高ランク探索者のみで構成された深淵探索同好会のなかで、物理アタッカーを務めるだけあって、人並外れた高い身体能力を有していた。
そんな彼女が、ありすたちに声をかけてきたパーティーメンバーの男性探索者の一人、保村にそう尋ね返す。
「そりゃあ、まあ気にはなるが、それほどの実力者ならいずれ頭角を現してくるだろ」
「保村、冷静でつまんないー」
新しくからかう相手を見つけたとばかりにニヤニヤ笑いをする火菜美。
「常識人なだけさ。さ、ほんとに時間がヤバい。待たせるとうるさい相手も中にはいるしな。行こうぜ、お姫様がた」
「あのさー、本当に深淵に挑むのに、他のパーティーと共同戦線を結ぶのー? 足手まといじゃない?」
「その見極めも含めた、協議の場さ」
「……火菜美、さっさと歩いて」
「いや、ありすー。それはちょっとひどくないー。時間をとってたの、ありすじゃん。て……、つ、掴んで、引っ張らないでー! もげる、もげるからっ」
グニグニしていた拳を今度は鉤爪のようにして容赦なく火菜美を引っ張りはじめる、ありす。
「……もげていいんじゃない?」
「ダメだからね! 普通に死んじゃうからね!」
「なら、自分の足で歩いて」
もげてないことを確認しつつ返事をする火菜美。
「うー。ありすが協議に行くことに積極的……あ、わかった。さっきの愛しの視線の方のこと、他のパーティーに心当たりがないか訊きたいのかなー? かなー?」
その火菜美の指摘に、図星とばかりに黙る、ありす。
そんな二人のやりとりに、深淵探索同好会の他のパーティーメンバーは、いつものことだとばかりの、なま温かい視線を送るのだった。
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