ー1章ー 7話 「噂と真実と、一本の骨付き肉」
……なぜ俺なんだ。
噂話というのは、必ずと言っていいほど尾ひれが付き、気がつけば原型がどうだったか分からなくなってしまう効果を有しているものだ。
先程のヒソヒソ話を鵜呑みにはしていない。
だが、前衛でありながら一匹も倒せなかったという事が事実ならば、それは彼女の異世界ライフにおいて致命傷だ。
俺は魔法使いという後衛の火力職。
前衛の剣士が居てくれたら確かに助かる。
だがしかし!
果たして彼女に前衛が務まるのだろうか?
実際に彼女の戦闘を見ていない以上、想像の域を脱することはできない。
だがしかし敢えて言わせてもらえるならば!
彼女がヒヨった場合、その魔物たちは俺になだれ込んでくるのは火を見るより明らか。
そんな彼女とパーティを組んで俺にメリットはあるのか?
……皆無!
多少の不満はあるものの、ここまで順調に進んできたんだ……ややこしい事に首を突っ込む必要はない。
ここはやんわりとお断りし……!?
「私じゃ、ダメ……ですか?」
何だその捨てられた仔犬のようなウルウルした眼差しは!?
そんな技を磨いている暇があるなら、もっと剣士としての腕を磨いた方がよっぽど自分のためになるんじゃないか!?
それにしても何という精神攻撃だ……素でやっているのだとしたら、かなりの魔性性質を秘めているぞ?
周りが面白がってコチラに視線を向けているのが、背中越しでも分かる。
断ったとなれば、彼女が笑いのネタにされかねない。
それは少し気の毒だ。
……仕方ない、話くらいは聞いてやるか。
俺は打算的ではあったが、彼女がなぜパーティを組みたいのか聞いてみることにした。
話によると幼い頃から回復支援職、つまりヒーラーになりたかったそうだが、冒険者になるためには資質検査を行うのだとか。
俺は初めから魔法使いだったからそんなものはなかったが。
そこでヒーラーとしての適正がないと言われ多少適正のあった剣士にしたそうだ。
言ってしまえば、真逆の職業という事。
それでも生活していくには剣士になるしかないと、冒険者登録をして魔物討伐に行ってみるが、魔物を切りつける事がどうしてもできないらしい。
もはや剣士として生きていくには絶望的な状態だ。
「それでも俺とパーティを組みたいのはなぜだ?」
やはりそこは聞いておかなければならない。
パーティを組むのは良いが、前衛として足でまといになるのであれば、本人の今後やパーティにとって良くない。
弱小であっても魔物と戦えば傷を負うこともあるし、下手をすれば死を招く事だってある。
「……これでダメなら、冒険者を辞めようと思っています」
その言葉に微かな覚悟を感じた。
本当にやりたかった職ではなかったのに、それでも諦めずに頑張ってきたのだろう。
俺と組むパーティが彼女にとって最後の冒険になるかもしれない。
どうせ引導を渡すなら、そこでヒソヒソと陰口を叩く連中よりはマシか。
「……分かった、引き受けよう」
俺は僅かに見えた彼女の覚悟を信じてみようと思った。
「おぉ、あの魔法使い……」
「バカッ、あれはキノコ縛りのスグールだ!……聞こえたらお前も縛られるぞ!」
きっと自分が選んだ選択肢が間違えだったと思っているのだろう。
だが生きていればそんな事いくらだってある。
一度や二度間違えたからといって、そんな事で人生のどん底だと思う必要は無い。
何かのキッカケで変わることだって、世の中にはたくさんあるんだ。
そのキッカケとなり得るかは分からないが、力を貸そうじゃないか!
俺は止まってしまった両手を動かし、再び骨付き肉をかぶりついた。




