ー1章ー 6話 「スグール、異世界で一杯やる」
街へ戻った俺は、まずギルドへと向かった。
倒した証拠となる「花の蜜」を見せなければならないからだ。
カウンターの姉ちゃんに戦利品を渡す。
「お疲れ様でした!……確かに花の蜜10個、確認しました。これが報酬の1000Gです!」
今回は実に簡単な依頼だった。
動き回る相手では、俺の魔法は当たりにくい。
その点、人喰い花は移動しないから非常に助かった。
そして報酬も労力に見合わず非常に良い!
俺は変な事に巻き込まれないうちに、冒険者ギルドを離れた。
次に向かったのは換金所。
レベルアップのためにたくさんの人喰い花を狩ったので、「花の蜜」が大量にある。
これを換金すれば、今夜の晩飯は豪勢な物を食べられるだろう……今から楽しみだ!
実際に換金してみると、1200Gになった。
ギルドの報酬と合わせて2200G。
武器の製作費用が500G、宿代が一泊20G。
異世界に来て初めてのゆとりだ!
多少嫌な事はあったが、この手元資金に免じて許してやろう。
俺はこの世界の料理を堪能すべく、酒場へと向かった。
「ギイィィッ」と木がきしむ音がする雰囲気のある酒場と扉を開けると、そこには冒険者たちで埋め尽くされていた。
酒場と言えば、食事や酒を楽しむだけでなく、パーティメンバーを探したり、情報交換も盛んな場所だ。
まぁ俺の場合、特に大した情報もなければパーティメンバーを探している訳でもない。
今夜は静かに……だが盛大に食事と酒を楽しむのだ!
俺はカウンターの席で雰囲気を楽しみながら、今後の異世界ライフに想いを馳せながら飲む事にした。
「お?兄ちゃん、ここは初めてだな。なら、飛びっきりに冷えたエールと、骨付き肉がオススメだ!」
酒場のマスターに薦められたので、ひとまずそれを頂く事にした。
まず初めに出てきたのは、キンキンに冷えたエールだ。
大した事はしていないが、労働の後の一杯というのは格別……しかも転生後、初の酒。
不味いわけがない。
ゴクッゴクッと喉に程よい刺激を感じながら口に広がる豊かな香りと苦味。
……生きてて良かった!
そして次に出てきたのは、焼きたての骨付き肉。
香ばしい香りと、これでもかと滴る肉汁が胃袋を刺激する。
なんて罪作りな食べ物を出す店なんだ!
酒場がここしかないにしても、これだけ繁盛しているのは頷ける。
ナイフやフォークなんてお上品なものはない。
これはワイルドにかぶりつくのが正しい食べ方だろう。
俺は肉を両手で掴み、口へと運ぶ。
ガブリと一口………んーたまらん!
今日あった嫌な事が全て帳消しになる美味さだ!
感動していると、俺の隣りに客が座った。
見た感じ、俺と同じ駆けだしの冒険者といった印象の女の子。
武器から剣士だと直ぐに分かった。
前衛職はソロでも問題なく狩りができるから俺なんて直ぐに追い抜いていくだろう。
「おい、あれって……」
「あぁ、この間のヤツか。前衛だと思って誘ったのに、結局一匹も倒せなかった……」
何やらこちらに向かってヒソヒソ話が聞こえてくる。
カウンターには俺と彼女だけ。
間違いなく彼女の事を言っているんだろう。
どの世界にもそういった心無い言葉を発してくる輩はいる。
……気にする事はない、今は駆けだしで力量が伴っていないだけさ。
いずれ些細な悩みだったと笑える日が訪れるだろう。
そう思っていた時、彼女が俺に話しかけてきた。
「あのぉ...…私とパーティ、組んでくれませんか?」
肉を掴んでいる手が止まった。
ヒソヒソ話を信じる訳じゃないが……俺!?
異世界初の酒場で、俺は一人の駆けだし冒険者の女の子と運命的な出会いを果たしたのだった。




