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第5話 女子高生と債権回収

「――さて、約束の品を回収しに行こうか」


佑夜は黒いパーカーのフードを目深にかぶり、月の光に照らされながら呟いた。

その声音は穏やかで、どこか悲しみを含んでいるようでもあった。

そして次の瞬間、彼女の姿は、月夜の帳の中へと溶けて消えた。


世界は静かだった。

けれど、その静寂の裏では、確かに何かが“終わろう”としていた。





――1年前 某県立高校・屋上



「……もういいや」


風の強い午後だった。


制服のスカートがばたつく中、彼女は柵の向こうへと足をかけていた。


短く刈り込んだ髪、スリムな体躯――陸上部のエースだった少女の姿は、今やすっかり影を落としている。


「故障してさ……走れなくなってさ。推薦もパー。友達も急に他人みたいになって……。あは、私って、結局、それだけの存在だったんだよね」


風が頬を撫でる。涙は出ない。とっくに枯れていた。



そして――跳んだ。


身体が空へと放り出された、その瞬間。

(その体、いらないなら――)


(くれない?)


耳元にささやくような声。



(代わりに、あなたに“鮮やかな栄光の一年”をあげるよ)

――取引をした。死の瞬間に差し出された、その甘美な声と。



気づけば地面に叩きつけられるはずだった身体は、芝の上に静かに横たわっていた。


傍らには、金色の髪を揺らす少女――いや、“女”がいた。透き通るような白い肌。

端整な顔立ち。ブレザー姿。

だが、その瞳の奥には、人間離れした冷たさがあった。


「じゃあ、契約成立ってことで……ここに、サインして?」

彼女が差し出したのは、梵字が刻まれた黒い紙。カラスの紋章。常識外の感覚が脳を侵食する。


「一年後、必ず来るから。それまで存分に楽しんで? でも気をつけて――それ、あんたの力じゃないんだから。借り物って、返すのが当たり前でしょ?」



女は、消えた。





――現在・女子高生の部屋


ポスター、トロフィー、雑誌の切り抜き。彼女の部屋は、まるで夢が形になったような空間だった。

あの事故のあと、彼女は再起不能とされたはずだった。

それが、復活劇。まさに奇跡。今やメディアが追いかける存在になっていた。


「やあ。約束通り、来たよ」

月明かりの差し込む窓辺に、あの金髪の“女”――佑夜が立っていた。


少女はベッドの上で少し笑って言う。

「うん……あなたのおかげで、本当にすごい一年だった。……ねえ、延長とかできないかな?」


「それ、無理。約束は約束。果たすために来たんだから」


「……そっか。ねえ、最期にさ、公園で話してもいい? あなたに、ちゃんとお礼も言いたいし」



佑夜は一瞬黙り込んで、それから口角を上げた。

「いいよ。朝までなら、付き合ってあげる」




――公園・夜


夏の終わりの風が、二人の間を抜けていく。ベンチに並んで腰かけ、ただ黙って夜空を見上げた。


言葉はなかった。時間だけが、流れていた。

「……あのさ、もう一回だけ聞いてもいい? なんとか、ならない?」


「ならないよ。だから言ったじゃない。借りたものは返さなきゃ、って」


「……そっか。仕方ないね」

その言葉と同時に、彼女は懐から錫杖を取り出し、躊躇なく佑夜に殴りかかってきた。


「!?」

咄嗟にかわす。反射的に距離を取ると、その背後から別の影が現れた。


坊主頭の男。僧衣を着ている。しかも、ガチのやつだ。

「貴様が……妖か。よくも、この娘の心の隙に入り込み、魂を蝕んで……!」



読経を唱えながら、錫杖を振るう。法力すら帯びたその攻撃は、明らかに人間業ではなかった。


(めんどくさい……)

佑夜は深く息をつき、次の瞬間、男の背後へと回り込む。



「ごめん、話が通じないタイプは苦手なの」

ボフッ、と鈍い音がして、坊主が崩れ落ちた。


少女は震えていた。

「……やっぱり、人間って、変わるね」


佑夜は宙に指を差し出す。そこに浮かんだのは、かつて交わされた契約の「誓詞」。


それは次の瞬間、黒く燃え、灰になった。

「契約不履行。仕方ないね。欲が出ちゃった。みんな、そう。栄光を得たら、その先が欲しくなる。だけど、それってただの“借金”なのよ。借りたら、返すの。人生も、魂も、全部」


「……じゃ、あんたの体は、いらない。そういう心の人間はね、どれだけ磨いても鈍く濁ってるから」

そう言って、佑夜は夜の帳へと消えていった。




(……その後、その少女は、走れなくなった現実に直面し、やがて――)





――戸祭家・深夜



「……ふぅ。人の欲って、ほんと尽きないよね」

正義の部屋でパーカーを脱ぎ、ベッドに飛び込む。


「こんな日は、マサヨシニウムを補給して、英気を養うかぁ……」

ベッドに入り 寝ている正義を抱き枕に寝たのであった。



これが通常運転であった。もちろん正義に拒否権はない……


☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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