最終話 嫁ムーブと鬼軍曹
「後、正義はうちの跡取りだ。
今年の夏は、私の単身赴任先で修行することになってる。
それと、そう遠くないうちに、
母さんもお父さんと一緒に暮らすことになると思う。
お母さんの力が、必要になりそうなんだ」
パパは、いつになく真面目な口調だった。
ママが隠していた過去。その重さに、ようやく家族全体が引きずられ始めていた。
「そうなったら、この家は、お前と正義が好きに使うといい。ただ、学生だから間違いはしないように。後、お前は高校卒業したら、どこか学校に通いなさい。今のうちに ……人並な生活を楽しめる時期が今しかないかもだからね。いいね?」
その話は、それで終わった。
戸祭家の“嫁”になったのだ。
だけど、どうしてだろう……ほんの少し、後味が悪い。
それでも私は、うなずいた。
これが“私たち”の選んだ形なのだと。
* * *
こうして――
私の嫁ムーブが始まった。
なれない花嫁修行。
ママは完全に“鬼軍曹”と化した。
「ホントに……こんなので、戸祭家の嫁が務まると思ってんの?」
(えっ、厳しすぎない!? ていうか、もしかしてストレス解消が目的じゃない?)
「この洗濯物、やり直し!」
「味付けが濃い! こんなんだと糖尿病になっちゃうよ」
「お弁当は周囲に見られるんだから、彩りを意識して! 冷凍食品に頼らない!」
まるで軍隊。
ていうか……完全にハートマン軍曹だ。
(これさ、私の気持ちを折って、正義の嫁を諦めさせようとしてるよね……?
無理無理無理。私、現役JKだよ!?
ついこの前まで中学生だったんですけど!!)
だけど――
「……いつも、ありがとう。佑夜」
その一言で、
私の中の全てが報われた。
その言葉をくれる限り、何度だって頑張れる。
誰がなんと言おうと、私は――お兄ちゃんの嫁になる。
「行ってきます」と、大学へ向かう兄。
その背中を、私はエプロン姿で見送る。
春になったら、たぶん――
この家で、お兄ちゃんと二人暮らしになる。
考えただけで、顔がにやける。
まるで、新婚さんみたいじゃない?
私は制服に着替え、トースト片手に登校する。
空は青く、蝉の鳴き声が、もう夏の足音を告げていた。
☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。
ここで、最終話とします。これ以降「閑話休題」で続けます。
物語の雰囲気が少し、コミカルになります。
また、エンディングについても、ご都合主義的展開になります。
なので、この雰囲気が好きな方は、これで最終話という認識でお願いします。
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