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ショートショート(ホラー)

ひとひねり

「ウチの会社のエレベーター、幽霊が出るらしいぞ」

「夜中の0時を過ぎて呼ぶと、中に“背中を向けた女”が乗ってるんだとさ」


 終業間際、隣の席の佐藤が声をかけてきた。

 まったく嫌な奴だ。俺が今夜残業するのを知っていて、脅かそうとしているに決まっている。

 ビビってると思われるのも癪なので、わざと軽口で返す。


「エレベーターの幽霊って、なんでか決まって背中向けて立ってるよな」

「テンプレっつーか、ワンパターンっつーか、マニュアルでもあるのかって話」

「なんかこう、もうちょっと“ひとひねり”欲しいよな、ホラー的に」


 軽口が効いたのか、佐藤はやや不満げに口をつぐんだ。


 そのあとも「顔を見られたら終わりだ」とか、「振り向かれる前に『閉』ボタンを押せ」だの、いろいろと“アドバイス”してきたが、適当に相槌を打っていると飽きたのか、さっさと帰っていった。


 さて、邪魔者はいなくなったが、作業はまだ山積みだ。

 ──日付が変わる前に帰れるといいが……。



 結局、作業は終わらず、気づけば時計の針は深夜0時を過ぎていた。


 幽霊のことは少し気になったが、疲労のほうが勝っていた。俺は無造作にエレベーターを呼ぶ。

 到着音と共に扉が開く。


 そこには──背を向けた女が、ぽつんと立っていた。


 (……ほんとに“マニュアル”でもあんのかよ)


 さっきの冗談が、頭をよぎる。

 確かに気味は悪いが、思ったほど怖くはなかった。変に予備知識があるせいか、どこか現実味が薄れている。


 女は微動だにしない。音も気配もない。ただ、じっと“こちらに背を向けて”立っている。


 (……『閉』ボタンを押せばいいんだよな)


 そっと腕を伸ばす。音を立てないように、慎重に──


 ガタン


 自動で閉まりかけた扉が、伸ばした腕に当たる。反応して扉が再び開いた。


 その一瞬の音に、女がピクリと動いた気がした。


 見ると、女がゆっくりと腕を上げ、後頭部に手を添える。

 そして、そこから髪を掻き分けるようにして──


 “後頭部だと思っていた場所”から、ぎょろりと目が現れた。


 ──その首は、180度、完全に捻じれていた。


 見開かれた両目が、こちらを睨んでいる。


 『ひとひねり欲しいよな』


 ──あのときの軽口が、今、呪いとなって返ってくる。


 『閉』ボタンは指のすぐ先にあるのに、身体が動かない。足も、腕も、声さえも。


 女が“後退して”こちらに向かってくる。


 そして、無音のまま両手を伸ばし──


 俺の頭を、掴む。


 そして──


 ひとひねり


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