メサイアプロダクション
ここは――スターシンフォニアプロダクション。
芸能界でも名の知れた、大手芸能事務所のひとつだ。
私は――赤司花梨。
このスターシンフォニアのオーディションを受けていた、アイドルを夢見るごく普通の女の子。
そして今日が、その運命の日。
オーディションの、結果発表。
けれど。
「……ない。私の名前がない……補欠合格の方にも……」
どこを探しても、自分の名前はなかった。
――私は、落ちた。
胸の奥に突き刺さる現実。
涙があふれそうになって、慌てて袖でぬぐった。
何も言葉が出ないまま、私はその場を離れた。
帰り道――。
「ねえ、キミ」
背後から突然声をかけられ、私は立ち止まった。
振り返ると、スーツを着た男性がこちらを見つめていた。
「僕ね、こういう者なんだけど」
そう言って差し出されたのは、一枚の名刺。
その表には――メサイアプロダクションという文字。
(……メサイアプロダクション?)
スターシンフォニアよりも規模が大きく、実力派アイドルを数多く輩出している、大手中の大手。
そんな事務所の名前が、名刺に刻まれていた。
頭が追いつかないまま、私は名刺を受け取り、そのまま家へ帰った。
「ただいまー!」
「なに、花梨、ずいぶん明るいじゃない。もしかして……受かったの?」
「ううん、オーディションは落ちちゃった。でもね、帰り道にスカウトされたの。しかも――メサイアプロダクションに!」
「えっ!? あのメサイア!? すごいじゃない! 今日はお赤飯にして正解だったわね!」
***
翌日。
私は、メサイアプロダクションのビルの前に立っていた。
「……ここで合ってるよね?」
見上げたビルは空に届きそうなくらい高く、胸の鼓動が速くなる。
(大丈夫、落ち着いて。私は、スカウトされたんだから)
深呼吸して、そっと自動ドアをくぐる。
そこには――眩しい世界が広がっていた。
華やかなオーラをまとう男女。洗練されたフロア。
テレビでしか見たことのなかった“芸能界”が、目の前に広がっている。
その瞬間――
突然、照明が落ちた。
あたりが暗くなり、ざわめきが広がる。
そして、どこからともなく響く声。
「おめでとうございます。あなた方は、私の独断で選んだ、18歳以下のアイドル候補生――100名です」
ざわつく会場。その声は静かに続ける。
「私は、愛度塁。今日から、あなた方には共同生活を送ってもらいます。家に帰ることはできません。そして、ここでのルールには絶対に従ってもらいます」
「約束しましょう。このカリキュラムを最後まで生き残った者には――日本一のアイドルグループの座が約束されます」
驚きと緊張が混ざった空気の中で、私はただ静かに息を呑んだ。
(これが……本物の芸能界の世界なんだ)
怖い。でも、ワクワクしている。
私は、この道を選んだ。自分の意志で。
――夢の続きを、私はここから歩き始める。