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迷いの森Ⅲ ~大グモ襲来、ぼくの腕の見せ所~

 森の奥に入っていくにしたがって、不気味さが一層増していった。どこから魔獣が出てきてもおかしくない雰囲気だ。道幅も狭くなり、馬車がぎりぎり通れるくらいの幅だ。道の両側から伸びた枝が、馬車にこすれることもあった。

 団長たちは馬車の前後に一列になって馬を進めていた。ぼくたちは、さらに警戒しながら、ゆっくりと前進する。

「うわーっ」

 突如、馬車の後方からただならぬ叫び声。 その声に驚いた馬を鎮めるトポロ。

 ぼくは、止まった馬車から飛び出し、後方へと駆けつけた。

 そこに、体中に白い糸が絡まった状態で、地面に転がるハウンドが。

 ぼくは力任せに糸を引きちぎろうとしたが、丈夫な糸は素手では切れない。腰のホルダーに手を伸ばしたが、そこにあるはずのナイフがない。どこかで落とした?そんなはずは・・・。

 すぐにリンクスがやって来て、剣で糸を切ってくれた。ぼくが、ハウンドに絡まった糸を手早くほどいているところへ、母とウルフ団長もやってきた。

「木の上に魔獣が潜んでいます。お気をつけください」

 異様な気配を察知したリンクスが、頭上を見上げ剣を構えた。

 上方の生い茂った枝葉の奥に、数個の赤い光点が見えた。母とぼくは、ハウンドを助け起こし、頭上を警戒しながらその場を離れた。

 その時、木の上からリンクスめがけて、何本もの糸を束ねたような太い糸が降ってきた。 すでに臨戦態勢をとっていたリンクスは動じることなく、みごとな剣さばきで糸を寸断した。

「ドスン」

地響きをたてて、木の上から象のように大きなクモの魔獣が落ちてきた。冒険ファンタジーでは、お決まりのクモの化け物だが、実際に目の当たりにすると、グロさも威圧感も半端ない。

 リンクスが大グモに斬りかかった。大グモは刀剣のように変形した前脚でリンクスの剣を受け止めた。同時にもう一方の脚をリンクスに振り下ろす。とっさに後ろに飛び退き(やいば)をかわすリンクス。

 リンクスが次々に繰り出す攻撃も大グモに余裕でかわされる。大グモは、両脚の二つの(やいば)を巧みに使い、一方で剣を受け止め、もう一方で斬りつける。次第にリンクスが押され気味になった。

この不利な状況を察し、団長が動いた。

「電光石火」

 団長がボクシングのヒット・アンド・アウェーのように、攻撃後、素早く後退し、大グモの攻撃を巧妙に避けながら戦う。

 団長もやる時はやるもんだね。

 だが、この奥義、長続きしないのが欠点だった。数回の攻撃で、団長の息があがった。動きが速くなったぶん疲労も激しいのだろう。

 団長の奮闘も無駄ではなかった。団長が応戦している間にリンクスが気をためていたのだ。

疾風迅雷(しっぷうじんらい)

 出た!リンクスの奥義?リンクスが目にも留まらぬ早業で剣を振るう。これで決まったと思ったが、リンクスの連続攻撃も、大グモに軽くいなされてしまった。

 お互いに決定打もないまま戦闘が続いた。そのうち二人の手数が減ってきた。そろそろ体力の限界だろう。

「えっ」

 意表をついて、大グモはさっと後ろへ飛び退き背を向けた。まさか逃げ出す?と思ったら、尻から糸を噴射した。意表をつかれた二人は、なすすべなく糸で絡められてしまった。このままでは、やられてしまう。

「イツキ、お願い」

「任せて」

いよいよぼくの出番だ。真打ち登場ってとこかな。そう思った瞬間、ぼくは右手に短剣を手にしていた。

 大グモの動きを警戒しながら、手早く団長とリンクスに巻き付いた糸を切り、二人を糸から解放する。

「ここは、ぼくに任せて、お二人は下がって休んでください」

 大グモに向かって短剣を構えた。すると、剣が輝き二つに分離。ぼくは両手に一本ずつの短剣を握っていた。宮本武蔵の気分だね。

 新たな敵=ぼくに対して激しい憎悪の感情を顕わにするかのように、大グモは複数の眼を真っ赤にして襲いかかってきた。

 大グモの二本の前脚での攻撃に対して、ぼくも二刀で受け止め反撃する。だが、大グモは巧みな剣(前脚)さばきで、ぼくの攻撃を軽くいなしてしまう。しばらく一進一退の攻防戦が続いた。

「これじゃあ、埒が明かない」

 この状況をなんとかしないと、と考えていると、ぼくの思いに呼応するかのように、剣から強い力が流れ込んできた。体中に力が(みなぎ)る感覚。

 ぼくは後ろへさがり、大グモから距離を取った。そして、大グモに向かってダッシュ。そのまま斬りかかると見せかけて、大グモの手前で思いっきりジャンプ。大グモを飛び越える。

 ぼくを見失った大グモの隙をついて、背後から斬りかかる。だが、野生の感か、危険を察知した大グモが、ぼく目がけて糸を噴射した。これは想定内。大グモが繰り出す糸を素早く切り刻み、大グモに迫る。

 最後は、長剣に変化した剣で、とどめの一撃。

 傷口から黒煙を噴き出して大グモは消えた。

「おみごとでした、イツキ殿。さすがは勇者様」

 団長が、ぼくの健闘を讃えた。

 大グモを倒したあと、木の上につり上げられていたダスマンを助け出した。全身にクモの糸を巻き付けられて窒息死寸前だった。

 団長とリンクスは、何カ所か手傷を負っていたが、母が治癒魔法ヒールで治療した。

 あっという間に傷口がふさがり、傷跡も完全に消えていた。やっぱり魔法ってすごいね!

 ということで、みんな無事だったのでひと安心。

 

 団長たちが出発の準備を終えても、馬車に戻ろうとしないぼくに母が声をかけた。

「イツキ、何してるの?行くわよ」

「ナイフがないんだ。この辺に落ちてないか捜してるんだけど。見つからなくて」

「馬車の中に落としたんじゃない」

「そうかな。朝、起きてホルダーを装着したときは、気が付かなかったけど、その時落としたのかな」

母と二人して馬車の中を捜したけど、見つからなかった。

「おかしいな。どこでなくしたんだろう。昨日、寝る前にホルダーを外した時には、ちゃんとあったはずなんだけど」

「こんなに捜しても見つからないんじゃ、あきらめた方がよさそうね」

「でも、母さんにもらった物なのに…」

「昔使っていた物だけど、そんなに思い入れがある訳じゃないから、気にしなくていいのよ。いつか忘れた頃に意外な所から、ひょっこり出てくるかもしれないしね 」

 事も無げに言った母だけど、なんとなくさびしげな表情を浮かべているように見えた。

 落とした所が分からないから、捜しようがない。もっとも、落とした所が分かっていれば、なくすことなんてないんだけど。柄の装飾がきれいで気に入ってたけど、ナイフ捜しは一旦保留。

 ぼくと母が馬車の中でそんなことをしている間に、ぼくたち一行は、さらに森の奥へと入っていった。


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