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迷いの森Ⅰ ~やっぱウサギは、小さくないとかわいくないよね~

 王都を出てしばらく行くと、迷いの森と呼ばれる広大な森林地帯が、ぼくたちの行く手をはばんだ。

 本道から逸れると迷ってしまい、二度と出られなくなるという、いわくつきの森だ。それに最近は凶暴な魔獣もうろついているらしい。

 危険を回避するためには、森を迂回すべきだが、時間的に遠回りする余裕はないので、今回は森を抜けて行くことにした。

「これより、迷いの森へ入ります。魔獣に遭遇するかもしれません。お気をつけください」

 ウルフ団長が、ぼくたちに忠告した。

 森の中は原生林がうっそうと生い茂り、昼間でも薄暗く不気味な雰囲気が漂っている。

 手綱を握るトポロは、魔獣の出現を警戒しながら慎重に馬車を進めた。

「ドン、ドン、ドン、ドン」

 森に入ってまもなく、異様な音とかすかな振動が伝わってきた。

「前方から、かなり大きな魔獣が近づいてきます。注意してください」

 トポロが馬車を止めて、ぼくらに注意を促した。

 まだ、数百メートルくらいしか進んでないのに早速魔獣のおでまし?

 ぼくは、どんな魔獣がやってくるのか確かめるべく、馬車からおりて前方をじっと見つめた。

「ドン、ドン、ドン、ドン」

 森の奥から伝わってくる地響きが、だんだん大きくなる。

「リンクス、ハウンド、ダスマン」

「はっ」

ウルフ団長の呼び掛けに応じて、三人の兵士が馬から降りて、前に並んだ。

「よい機会だ。お前たちの力をサーヤ様と勇者殿にお見せしろ」

 三人が、それぞれの武器を構え、迎撃の態勢を取る。

 現れたのは、かわいらしいウサギちゃん?ではなく、体長五、六メートルの巨大なウサギだ。体が大きいだけじゃない。鋭い牙をもち、邪悪な目つきをした、見るからにやばそうな怪物だ。そいつが、ぴょんぴょん跳ねながら凄いスピードでこっちにやってくる。着地するたびに地面が震動する。

「イビル・ラビットです。危険ですのでおさがりください」

 団長の忠告に従い、母とぼくは、彼らの後ろに下がった。

「シールド」

 母が魔法でぼくたちの周りを半透明のドームでおおった。

 三人の兵士がイビル・ラビットと相対してにらみ合う。

「ガオー」

 雄叫びをあげながら襲いかかるイビル・ラビット。

 リンクスが剣で斬りつける。イビル・ラビットの長く伸びた爪が(やいば)を跳ね返す。すかさず、ハウンドが槍で突く。

 素早く後ろに飛び退き、切っ先をかわすイビル・ラビット。

 リンクスとハウンドが間髪(かんはつ)をいれず攻撃を繰り出す。

 二人同時の攻撃も余裕でかわし、するどい爪で斬りつけるイビル・ラビット。体が大きい割に動きは速い。それにとてもタフだ。

 激しい攻防がしばらく続く。兵士たちに疲れがみられ、しだいに押され気味になる。

「大丈夫ですか。ぼくも戦いましょうか」

心配になって、ぼくたちの側で戦いを見守っていたウルフ団長に声をかけた。

「なあに、それには及びません。少し手こずっているようですが、これくらいの魔獣、彼らなら何とかしてくれるでしょう。もう少し様子を見守っていてください」

 それまで二人の後ろにひかえていたダスマンが、手にした長い杖を頭上にかかげた。

「渦巻け、紅蓮の炎。烈火の如く吹き荒れろ。ファイヤー・ストーム」

「出た!ダスマン得意の火炎魔法」

 初めて見る火魔法だったけど、母の魔法のインパクトが強烈だったせいか、この世界には普通に魔法が存在することが分かっていたからか、そんなに驚きはしなかった。

 杖から放射された猛烈な炎の渦がイビル・ラビットを飲み込む。

「これで、やつもお終いです。真っ黒こげに丸焼きになるでしょう」

 団長が得意げに言った。これで魔獣をしとめるはず・・・だった。

「ガオー」

 咆哮とともにイビル・ラビットが、まつわりついた炎をはねのけた。全然ダメージを受けていないようだ。

「そんな…」

 予想を裏切る事態に唖然となる団長。

「やつは火に耐性があるようだ。だが、まだまだ」

 団長が、引きつった顔で一人つぶやいた。

「電光よ、ひらめけ。怒槌となりて我が敵を打て。ライトニング・ショット」

 ダスマンの杖の先端から稲妻が走り、イビル・ラビットを直撃した。

「ダスマンの電撃魔法です。かなり効いているようです」

 イビル・ラビットの動きが止まった。感電してしびれているのかな?

 団長が言うほどではないが、それなりのダメージは与えられているようだ。

「はあああああ」

 リンクスが、構えた剣に気を送るように全身に力をこめる。

「エクストリーム・スプリット」

 リンクスの鋭い斬撃が、イビル・ラビットの胴を真っ二つに切り裂いた。

「リンクスの奥義、エクストリーム・スプリットです」

 他の魔獣と同様に、プシューと空気が抜けるような音をだしながら、切り口から勢いよく黒煙が噴き出し、イビル・ラビットは、しぼんで消えてしまった。

「見事!すばらしい戦いだったぞ」

 ウルフ団長が、三人の活躍をほめたたえた。それから、得意顔でぼくたちにむかって言った。

「どうですか、我が部下たちの力。勇者殿にもひけは取らぬかと」

 すっかりご満悦のところ失礼だけど、ただ自慢してるとしか思えなかった。それに団長が、いちいち解説するのがうっとうしかった。

 確かに、あんなに強い魔獣をしとめた三人の連携は見事だった。だけど、攻撃の前にいちいち技の名前を言うのはどうかな?百歩譲って、魔法の呪文はしかたないとしても(文句はうざかったけど)リンクスが、必殺技の名前を言う必要あるかなあ?アニメじゃあるまいし。ウルフ団長ともども、相当自己顕示欲が強いんだろうな。

 母の説明によると、この世界には魔素というものが存在する。その魔素を使って魔法を発動するというのだ。

 精霊や魔獣は大気の魔素を取り入れて魔法を発動するが、人にはそんなことはできない。幸いにして、魔晶石は魔素が結晶化したもので、大量の魔素が含まれている。そこで、杖にはめた魔晶石に魔力を込めることによって魔法を発動するのだそうだ。しかし、この世界で魔法が使えるのは、ごく少数で、生まれつきの才能=魔力を持っている者に限られるらしい。

 本人の適性によって攻撃系、防御系、治癒系など使える魔法の種類は違うが、魔法の威力や効果は、魔晶石の魔素の純度と術者の魔力量や熟練度によって差がでるのだそうだ。

 ちなみに、母は防御系と治癒系の魔法使いだ。

 魔法の発動には、イメージが大切になる。詠唱は魔法のイメージを明確にするためのもので、必ず唱えなければならない訳ではない。だから、長々と唱えれば魔法の威力が増すということもないそうだ。

 ぼくも魔法が使えたらよかったんだけど、残念ながらぼくには才能がなかったようだ。

 それはさておいて、ぼくたちは先を急いだ。

 この後、何体かイビル・ラビットと遭遇したが、団長以下三人の活躍で撃退した。それ意外強い魔獣に遭遇することはなかった。小物の魔獣、いわゆる雑魚キャラが何度かおでましになったが、三人の兵士が難無く片付けた。ただ、出会った魔獣たちの力が以前より強くなっているそうだ。

 この先、さらに強い魔獣が現れるのを覚悟したほうがいいかも。

 イビル・ラビットが単体でしか現れなかったのはラッキーだった。もし、数体一緒に出現していたら、かなり手こずっただろう。やつらは縄張り意識が高く、お互いの生息域を侵さないよう棲み分けができているらしい。

 これは、蛇足だが、異世界ファンタジーにおなじみのスライムは、この世界には、いなかった。ちょっと残念。それに、魔獣を倒したら天の声が聞こえて、レベルアップするなんてこともなかった。

 

 ぼく=勇者の出番はなかった。強敵に備えて、エースは温存ってとこかな。


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