仲間と共に冒険にしゅっぱーつ ~イッツ・ミラクル!!!まさか母が・・・~
王宮の正門前で、オウル大臣や大神官ケルネス、ウルフ団長と四人の兵士が待っていた。
「おはようございます、サーヤ様。昨晩はゆっくりお休みいただけましたでしょうか」
ぼくたちに気づいたオウル大臣が、あいさつをした。
「ええ、よく眠れたわ。ねえ、イツキ」
「うん、まあ」
「準備が整いました。いつでも出発できます」
ウルフ団長が言った。
「サーヤ様、これをお持ち下さい」
オウル大臣が黒い布でくるんだ細長い物を恭しく母に渡した。
「これは?」
「サーヤ様が使用されていた魔法の杖です。魔法石を交換しておきました。以前より魔素量も大幅に増加しています」
「ありがとう。前の戦いで魔法石が割れて使い物にならなくなったので、今回の戦いにどう対処したらいいかと思案していたところでした。これでわたしも心おきなく戦いに参加できます」
母が取り出した魔法の杖は、三十センチくらいの長さで、持ち手にエメラルドのような小さな緑色の石がはめ込まれていた。
「久しぶりで、魔法がさび付いていないかしら。ちょっと試しに。インビジブル」
「えーーーっ」
突然、母の姿が見えなくなった。まさか、ほんとに魔法使いだったの?まじっ!やばっ。
魔獣だの獣人だの、母が王女様だったのだってかなりショッキングなことだった。この世界に来て驚くことばかり。だけど、異世界ってそんなものかなって、なんとなく納得していたところだった。それでもこれは、ぼくにとって超衝撃的だ。マジックじゃない、種も仕掛けもない正真正銘の魔法が存在するなんて。しかも、まさか、まさかの母が魔法使いだったなんて!
母の魔法を目の当たりにして、ぼくは驚きと言うか、動揺と言うか、そんな感情で頭が混乱した。
「どう?透明化の魔法。成功したかしら?」
声はすれども姿は見えない。
「おおー。お見事です、サーヤ様」
相変わらずオウル大臣の物言いはオーバーだ。
「アピアー」
母が元の場所に現れた。
「なんとかなりそうね。あとは実戦で昔の勘を取り戻すだけね」
ウルフ団長がぼくたちの前に進み出て言った。
「今回の遠征には、わたしとこちらの四名が同行します。右から獣人のハウンド・イヌマールとリンクス・ネコール。こっちが人族のダスマン・ジンカーンです。騎士団選り抜きの兵士をそろえました。必ずやお二人のお役に立てると思います。それから、本人たっての希望でトポロ・エルフェスも同行することにしました」
トポロの名を聞いて母が反応した。
「トポロ?トポロなの!」
ウルフ団長の左後ろに控えていた兵士が、母の前で敬礼した。
「サーヤ様、お久しゅうございます。覚えていてくださったのですね」
「当たり前じゃない。幼なじみを忘れるわけないでしょう。久しぶりねえ。見違えたわ。立派になって」
しみじみトポロを見つめる母。
「サーヤ様におかれましてもご壮健でなによりであります」
「そんなかしこまった言い方はよしてよ。なんだかこっちが気恥ずかしいわ。お互い気心の知れた仲なんだから。昔のようにため口でいいわよ」
「それでは、お言葉に甘えて。オジョウは変わってないな。安心したよ」
「そんなことないわ。これでも一児の母ですから」
急に変わりすぎだろうと、つっこみたいけど、うれしそうな母に免じてそこのところは、スルーした。
「オジョウ?」
ぼくは不思議そうにつぶやいた。
「わたしとトポロは幼なじみで、みんながわたしのことを王女って呼んでいるのを聞いて、幼かったトポロはオジョウって呼び出したの。それ以来トポロは、わたしのことをオジョウって呼ぶようになったの」
決まり悪そうに説明した母の顔が少し赤くなっていた。
「ふーん。お嬢様って意味じゃないんだ」
トポロがぼくの方へゆっくりと歩み寄ってきた。
「こちらが聖剣を受け継いだ勇者様…」
「そう、息子のイツキよ」
「よ、よろしく」
ぼくは、ぎこちなく手を差し出し、トポロと握手した。
トポロは、前回の戦いで、父母といっしょにドラゴン退治のクエストに参加したそうだ。
その後、王国軍に入隊していた。エリオットの遠征部隊には参加せず。王宮警護の任務に当たっていた。
ハーフエルフで、耳の先が少しとがっている点をのぞくと、見た目は、ぼくたちと変わらない。ハーフエルフは、純粋なエルフほどではないが、かなり長命らしい。ぼくより少し背が低いから、身長は一五〇センチ後半くらいだろう。この世界の男性としては、低いほうだ。少年のような顔立ちで、母の幼なじみなのにぼくと同い年くらいに見える。
ちなみに、ハウンドは犬顔の獣人で槍の使い手。リンクスは猫顔の獣人で剣の達人とのこと。二人とも身長は一七五センチ前後で、筋骨隆々たくましい体つきだ。ぼくには外見から獣人の性別や年齢を判断することは難しい。
ダスマンは年の頃は二十代前半、細身で身長一八〇センチくらい。人間の男性で魔法使いだそうだ。魔法使いらしく、長い杖を持ち、ファンタジーにありがちな、魔法使い御用達のような黒いローブを着ていた。ウルフ団長を含め他の四人は、ぼくが着用を遠慮したヨロイを装着していた。
「ご武運を。神のご加護があらんことを」
大神官ケルネスが、旅の無事を願って祈りをささげてくれた。
母とぼくは二頭立ての馬車に乗りこんだ。御者はトポロで、他の四人はそれぞれ馬に乗って、ウルフ団長とリンクスは馬車の前方に、ダスマンとハウンドは後方についた。
大神官ケルネスとオウル大臣に見送られ、ぼくたちは炎の山の麓、ドラゴンの騎士の城めざして出発した。