出発前夜、悪夢にうなされる ~もしかして、これって予知夢?~
その夜王宮で、ぼくたちの歓迎と壮行を兼ねた会が催された。出席者はオウル大臣、ウルフ団長、大神官ケルネス、それに母とぼく。国の一大事という現在の状況では、盛大な晩餐会とはいかず、簡単な食事会といったところだった。
夕食後、母とぼくは明日に備えてゆっくり休むため、王宮に用意されたそれぞれの部屋に案内された。
「うわー」
部屋に入ったとたん、ぼくは思わず感嘆の声をあげた。まるで高級ホテルのような豪華な調度品、天蓋付きのベッド。夢の国のヒロインになったような気分だ。実際、夢の国に来てるんだけど…。
ベッドは、超ふかふかで気持ちよかったけど、気持ちが高ぶっていたせいか、なかなか寝付けなかった。
でも、ここでの非日常的な体験で、自分でも気づかないうちに精神的にも、肉体的にも疲れていたのだろう、知らないうちに深い眠りに落ちていた。
ぼくは夢を見た。
深い森の中、泉のほとりにたたずむユニコーン。ぼくをじっと見つめる優しいまなざし。
突然、黒雲がわき上がり空を覆う。上空から無数の火球が降り注ぐ。燃え上がる大地。炎に巻かれて逃げ惑う人々。いつの間にかユニコーンは消えていた。
知らないうちに、ぼくも炎に囲まれ逃げ場を失っていた。炎の渦がぼくを襲う。
「うわーっ」
自分の発した声に驚いて目が覚めた。
「トントン、トントン」
ぐっしょりと寝汗をかいていた。すでに夜は明けていた。
今の夢は何だったんだろう。妙にリアルだった。
「トントン、トントン」
さっきから聞こえていた音。誰かがドアをノックしている。
「イツキ、起きなさい」
「起きてるよ」
「さっさと着替えて、食堂に来て」
「分かった。すぐ行く」
ふと見ると、ベットの側に異世界勇者必須のアイテム、ヨロイが置かれていた。稀少金属ミスリル製かな?
「これも、つけた方がいいのかな?まあ、今は食事をするだけだから後でいいや」
とりあえず、ぼくは着替えだけを済ませ食堂へ向かった。
食堂の入口にメイド服を着た女性が立っていた。昨日の夕食のときには見かけなかったはず?ここも働き方改革とかで交替でやりくりしてるんだろうか。なんてことを考えながら、ぼくに会釈した女性を何気なく見た。
「えーっ」
女性の頭にまさかのねこ耳!付け耳なんかじゃない。本物の耳。ぱっと見は普通の人間と変わらなかったので、ぼくの驚きは半端無かった。
かわいい。よく見るとおしりにしっぽもはえている。それ以外ぼくたちと外見上の違いはない。オウル大臣やウルフ団長とは違った進化をした獣人だろう。
もふもふのネコ耳を触りたいという衝動をどうにか理性で抑えたぼく。ネコ耳メイドさんに案内されたテーブルには、母が一人ぽつんとすわっていた。ぼくは母の向かいの席に座った。
「待ってたのよ。さっさと食事を済ませて出発するわよ」
ぼくが席に着くと、待ち構えていたかのように、テーブルに朝食の皿が並べられた。
食事を済ませたぼくたちは、出発の準備を整えた。
用意されたヨロイを着てみたけど、重いし、関節が曲げにくい。不慣れなため違和感があり、動きがぎこちなくなる。反応が鈍くなると戦いに支障をきたしそうなので、着用するのはやめた。軽装の方が動きやすいし、盾を手に入れれば、防御には問題ないだろう。きっと…。