円卓会議 ~予言の救い主ってぼくのこと?~
円卓会議
~予言の救い主ってぼくのこと?~
周りに気を配りながら、オウル大臣は、ぼくたちを議場に案内した。
議場の中央には大きな丸いテーブルがあった。これが、いわゆる円卓だろう。
円卓にはすでに誰か座っていた。ぼくたちが側に行くと、その人?が立ち上がった。
頭は鷹で首から下は人間だ。古代エジプトのホルス神のような人が手を差し出し、母と握手を交わした。
「サーヤ姫、お久しゅうございます」
「ケルネス様もご壮健で何よりです」
「お見受けしたところ、勇者様のお姿がないようですが?」
「大神官殿、こちらが先の勇者様から聖剣を受け継ぎし勇者、イツキ様です」
オウル大臣が大仰にぼくの事を紹介した。
「ほう、この方が…」
大神官が、じっとぼくを見つめた。鷹の鋭い眼で見つめられると、何だか品定めされているようで気恥ずかしい。
「イツキは、わたしの息子です。夫に代わって剣に選ばれた勇者です」
「それは、頼もしい」
ぼくたちが席に着くと、オウル大臣が、詳しい状況を説明してくれた。
「半年ほど前から、迷いの森で魔獣を見たという、うわさが広まりだしました。そのうち実際に、魔獣に襲われ被害にあう者も出てきたのです。最近では、町の近くでもひんぱんに魔獣が現れるようになってしまいました。
そこで、新王となられたエリオット様が一週間前、兵を率いて魔獣退治に出立されました。しかし、その後エリオット様一行の消息がぱったりと途絶え、昨日、城門の扉にこんな紙がはってあるのを門番が見つけました」
「王は預かった。無事返してほしくば、ソーニョの国を渡せ。一ヶ月以内に我に服従を誓い、我を王として王宮に迎えいれよ。 ドラゴンの騎士」
「ドラゴンの騎士って?何者なの?」
母の問いに、ウルフ団長が答えた。
「偵察部隊の調べによると、ドラゴンの騎士は、炎の山の麓に城を構えているとのことです。いつも、よろいで身を包み、顔には仮面をかぶっているため正体は分かりません。一ヶ月前にこの地を見回った者からの報告では、城があるという情報は寄せられておりませんでした。信じがたいことですが、かの城は、一ヶ月という短期間で建造されたことになります」
「エリオット様は、そこに捕らわれているらしいのですが、王宮警護のために残った近衛騎士団と数名の者を除いて、王国軍のほとんどの兵員が、エリオット様と一緒に行方不明になってしまったので、我々だけで救出するには少々力不足なのです。かといって、ドラゴンの騎士の要求を受け入れる訳にもいかぬかと…」
沈痛な面持ちでオウル大臣が言った。
炎の山は、ソーニョのはずれ、城から歩いて数日の所にある。かつて炎のドラゴンのすみかだった所で、今でも火山の奥深くに炎のドラゴンが眠っている。最近、炎のドラゴンが目覚めつつあり、国中に邪気が広がっている。その邪気を浴びて普通の生き物が、次々と魔獣と化しているのだそうだ。
さらに困ったことに、ドラゴンの邪気が人にも影響を及ぼしはじめ、炎のドラゴンこそ世界を浄化し、新たな秩序をもたらすものとして崇拝する民も現れ、国の治安が悪化しているというのだ。
脅迫状を受け取った大臣は、主だった家臣たちと協議したが、良い案は浮かばなかった。そこで、マーナの知恵を借りようということになった。マーナは預言者であり、王家に伝わる予言の書の管理者でもあった。予言の書には、白紙の部分に新たな予言がいつのまにか書き加えられていくというのだ。そこには、今回こんな予言が追加されていた。
「悪しき獣、眠りより目覚めるとき、彼の国より再び救い主降臨す」
マーナは、伝説の勇者を呼ぶことを提案した。
「勇者様の力におすがりすることが、我々に残された最後の手段なのです。どうかお力をお貸しください」
オウル大臣以下みんなが、母とぼくに頭を下げた。
「頭を上げてください。わたしたちは、王国の危機を救うために、ここに来たのですから。みなさんの期待に応えられるように尽力します。そうですよね。勇者様」
母は、ぼくの方を見て微笑んだ。
「それに、エリオットは、わたしのたった一人の弟です。必ず救い出します」
その後、母とぼくは、今回の遠征に備えて助言を求めるために、オウル大臣の案内でマーナに会いに行った。