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炎の山の頂上での決戦 ~ドラゴンの騎士の正体とトポロの過去

 体格は別人のようだけど、ドラゴンの騎士の顔は間違いなくトポロだった。

 トポロは生きていたのか?いや、魔獣がトポロに化けているのかも?

「トポロ、さん?」

 恐る恐るぼくは、トポロ?に声をかけた。

「おれは、勇者をも(しの)ぐ最強のドラゴンの騎士。トポロなどという弱者ではない!うっううう」

 頭を抱え、苦しそうにうめくトポロ?

「そんな目でおれを見るな!オジョウ。うううっ」

 ぼくの顔に母の面影をかさねているようだ。

 母のことをオジョウと呼ぶのはトポロだけ。ということは、トポロ本人に間違いない。だが、どうしてトポロがドラゴンの騎士に・・・?

 ぼくは、トポロの(オーラ)を探った。

 トポロの中で、白い(オーラ)と黒い(オーラ)が激しくぶつかりあっている。良心と悪心とが争っているようだ

 剣の柄にはまっている赤い石から黒い邪悪な(オーラ)が噴き出し、トポロの全身を包んでいる。トポロは、この石の邪気に操られているのだろう。

 トポロがゆっくりと顔を上げぼくを見た。その目は真っ赤に血走っている。

「来る!」

 トポロが、いきなり斬りかかってきた。

 かろうじて剣を受け止める。

 その後、何度かトポロと剣を交えたが、さっきまでの剣のさえがない。

 それでも、ドラゴンの騎士の正体がトポロと分かった以上、極力ダメージを与えないよう気をつかいながら戦うこの状況では、攻撃をかわすのがやっとだ。

 一旦距離を取って相手の出方を探る。

「やつに迷いが生じているせいで剣が鈍っている。それに・・・」

「それに?なに?

 ヤッケが言いかけた言葉を途中でやめたのが気になった。

「それに、邪気がやつの心身を(むしば)んで、かなりやばいことになってるぞ」

「それって、命に関わるかもってこと」

「最悪そういうことになるだろうな」

 早く何とかしないと。トポロを傷つけずに、正気に戻す手はないか。どうしたらいいんだ。

 ぼくがそんな思案をめぐらせていると、トポロが打ち込んできた。

 盾で受け止めたが、またしても剣が鞭のようにしなった。

 同じ手は二度と喰わない。盾で防ぐと同時に、さっと後方へ飛び退き回避する。

「いつまでも、おれの剣をかわせると思うなよ。変形するのは、お前の剣だけではないんだ。見るがいい。そして、おれの最強奥義を受けてみよ」

 トポロの剣が3メートルほどに巨大化し、赤い石から溢れ出る黒い邪気が剣をおおった。

「ドラゴン・スラッシュ」

 中段の構えから、大剣を右肩の上に軽々と振り上げ、一気に振り下ろすトポロ。

 剣から放たれた邪気が無数の刃となって、四方八方からぼくに襲い来る。全ての刃を盾で防ぐことは無理だ。

「俺様に任せろ」

 ヤッケが輝き、金色の光がぼくの周りを囲んだ。金色の光に触れた邪気の刃が次々に消滅していく。

「すごい。やるじゃないヤッケ」

「あったりめえだ。なにしろ俺様は聖なる存在だ。邪気を無効化するなんて朝飯前だぜ」

 おそらく絶対の自信をもって放ったであろう最強奥義が、こうも易々と破られたことに信じられないといった表情を浮かべ呆然とするトポロ。かなり動揺しているようだ。

 ここが攻め時、一気にトポロに詰め寄り、剣を握る手を盾で思いっきりなぎ払った。

 トポロの手からふっとんだ剣が岩に当たり、赤い石が砕け散った。

 すると、トポロが身に付けていたヨロイが雲散霧消し、ドラゴンの騎士=トポロの体が縮んで元の背格好に戻った。

「おれは、ここでなにを・・・」

 赤い石の呪縛が解けて、トポロは正気に返ったようだ。

 ぼくには分からなかった、どうしてトポロがドラゴンの騎士なんかになったのか。そこで、トポロに訳を尋ねた。

「父と共に旅をして炎のドラゴンをたおした救国の英雄の一人であるあなたがなぜ、ドラゴンの騎士などになったのですか」

 ぼくの疑問に答えて、トポロが事情を詳しく話してくれた。

「何の役にも立たないと思っていたおれが、勇者パーティーに参加し、初めて認められたんだ。おれでも誰かのために役立てるんだと、自信をもつことができた。

 でも、世の中おれが思っているほど甘くはなかった。

 勇者ユウトにあこがれ、ユウトのような強い剣士になりたいと願っていたおれは、ユウトが元の世界に帰ったあと、ソーニョの平和を守るために、王国軍に入隊した。

 はじめは、元勇者パーティーの一員だったということで、他の兵士から一目置かれていた。

 しかし、屈強な王国軍兵士たちの中で、体が小さく、力も弱いおれは、厳しい訓練についていくのがやっとだった。もともと弓の腕はそこそこだったが、剣の腕前は、からっきしだめで、人並み以下のレベルだ。

 そんなおれに対して、他の兵士たちからは、勇者パーテーでろくな活躍もできなかったくせに、王女の幼なじみというだけで、国王に取り入って、いけ好かないやつだと陰口をたたかれ、上司からはねたまれ、次第に周囲から孤立していった。

 結局、自分はユウトのようには成れないのだと挫折感を感じ、半ば自暴自棄になっていたときのこと。

 あてどなくぶらぶらと街を歩いていたとき、露店の占い師の老爺(ろうや)に声を駆けられた」

「そこの方。あなたには大きな悩みがあるようですね。その悩み、解決する方法をご教示できますぞ」

「そのときのおれは、(わら)にも(すが)る思いで老爺の話に耳を傾けた。老爺はおれに赤い石を渡し、どんな願いでも叶えてくれる神秘の宝玉だと言った。

 その石を手にしたとたん、石が真紅に輝き声が聞こえたんだ。お前の望みを叶えてやろう。我と共にあれば、お前は最強の剣士になれるだろう。という声が。そのときのおれは、これぞ天の恵みと歓喜に震えたんだ。そんなおれの様子を見た老爺が言った」

「気に入っていただけたようですね。石も良き主人(あるじ)に出会えたと喜んでいます。その石はあなたにさし上げます」

「これは貴重な物ではないのですか。そんな物をいただいてもよろしいんですか。と老爺に問い返した」

「かまいませんよ。石があなたを持ち主と認めたのですから。どうぞご遠慮なく」

「おれは、喜んで石をもらい受けた。

 その夜の事。石が再びおれに話しかけてきたんだ」

「勇者といえども、聖剣がなければただの人だ。勇者ユウトが強いのは、勇者の剣のおかげだ。お前も最強の剣を持てば強くなれる。お前の剣の柄に我を装着せよ」

「おれは言われるまま、剣の柄に石をはめた。すると、体中に溢れんばかりの力が(みなぎ)り、自分は勇者を凌駕(りょうが)する最強の力を手にいれたと確信し、高揚感で胸が高鳴った。

と同時に別の何者かが、おれの中に入り込んでくるのを感じ、意識が遠のいた。

 そして、気がついたらベッドに横たわっていた。それ以来おかしな夢を見るようになったんだ。

 おれをばかにしたやつらが、ドラゴンの騎士と名乗る剣士に次々に殺されていく夢を。

 おれは、夢の中で爽快な気分を味わっていた。

 だがそれは夢ではなく現実だった。

 しかも、ドラゴンの騎士はおれ自身だと知ったとき、恐怖で身の震えが止まらなかった。

 それ以来、おれの心には強大な力に酔いしれる自分と、それを恐れ抗う自分がいた。おれの意識と体が何者かに支配され、自分で自分をどうすることもできなかった。操り人形のように、そいつのいいなりになっていたんだ。  

 魔が差したと言えば、言い訳になるかも知れない。すべては、おれの心の弱さのせいだったんだ」

 トポロが母に対してよそよそしい態度に見えたのは、トポロの中で善の心と悪の心が葛藤し、良心の呵責(かしゃく)を感じながら母と接していたからだったんだろうな。おそらく。

「さっきから聞いていれば、何をぐだぐだと泣き言を言っているんだ。トポロ、君には幻滅したよ。もう少し上手く、わたしの手駒として働いてくれると期待していたんだがね」


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