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16 精霊の森Ⅰ ~ユニコーンの試練G

 精霊門を抜けると、明らかに他とは違う清爽(せいそう)な気を感じた。

森の木々の間をたくさんの金色の光の球体(オーブ)が飛び交っている。

 よく見ると球体(オーブ)の中に、透明な翅が生えた小人がいた。ていうか、小人が光をまとって飛んでいるのだ。母いわく、この小人たちが精霊なのだそうだ。

 光の球体(オーブ)が、次第にぼくたちの周りに集まってきた。

「精霊たちが、我々を歓迎してくれています」

 そう言ったトポロの声のトーンが、少し沈んでいるような気がした。

「イツキ殿の周りには、特に多く集まっておる。よほど精霊に気に入られているようですな」

 笑顔の団長が冗談めかして言った。

 団長の態度と対照的なトポロの様子が気になって、トポロの方を見ると、彼の周りには、まったく球体(オーブ)が飛んでいなかった。嫌われてる?そんなわけないか。たまたまだろう。それほど気にすることでもないか。

 ところで、精霊と妖精ってどう違うのかな?なんて疑問が、ふと頭に浮かんだ。

 そんなことをぼんやり考えているぼくの左肩に、ひとりの精霊がとまった。

 あんまりかわいいから、なでようと右手を伸ばすと。

「気をつけて!精霊はとってもか弱い存在なの」

 母に忠告され、慌てて手を引っ込める。

 精霊たちの歓迎を受けながら、しばらく進んで行くと、前方に雲の上まで達する、山のように巨大な樹が見えてきた。周囲数百メートルくらいに広がる枝葉。幹は、大人十数人でもかかえきれないほど太かった。とにかく想像を絶するくらいめちゃくちゃ大きい樹だ。

 大樹の前までやって来ると、団長が言った。

「この大樹が聖域の入口です。ここまでは、我々も同行できましたが、ここから先は、ユニコーンに選ばれし者しか、立ち入る事が許されない聖域です。ユニコーンは、異界にある聖域におられます。イツキ殿、こちらへ」

 団長に手招きされ、大樹の前に立った。

 その瞬間、体の中に異質な力が流れ込んでくるような感覚。

 ぼくの手には、長剣に変形した勇者の剣が。体が勝手に動いて、剣先を大樹に向けて差し出した。すると、大樹から光があふれ出て、ぼくを包み込んだ。まばゆい光で思わず目を閉じる。

 ほどなくして目を開けると、景色が一変していた。

  濃い霧に覆われたまっ白な世界。どっちへ行ったらいいのか、まるで見当がつかない。

「イ・ツ・キ。イ・ツ・キ」

 そんなぼくの迷いを察したかのように、誰かが呼ぶ声が聞こえた。ぼくは声のする方へと歩いて行く。

 やがて、霧が晴れて視界が開けてきた。厳かな気などまったく感じない、ごく普通の森の風景。

「ここが、本当に聖域?」 

 思わず自問自答する。

 声を頼りに、さらに森の奥へと進んで行くと、木々の間から沼が、かいま見えた。

バシャバシャと水の跳ねる音。

「ヒヒーーーン」

 ただならぬ馬のいななき。

 急いで沼の側まで駆けつけると、子馬が溺れていた。

 近づこうとして足を一歩踏み出した。

「ザクッ。ブチッ」

 何かを踏みつぶしたような音。靴底から足裏に伝わる不快な感触。

 恐る恐る足下を見た。

「グギャー。ゴ○○リーーー」

 名前を想像しただけでも気持ち悪いGの大群が岸辺を埋め尽くしていた。ぼくはGが大の苦手だ。

 何で聖域にGがいるの?

 とにかく子馬を助けたいけど、Gに行く手を阻まれ前に進めない。

 どうしよう。どうしよう。逡巡しているうちに、水中でもがいている子馬の動きが鈍くなっていく。

 迷っている暇はない。ぼくは覚悟を決めてGの群れの中に足を踏み入れた。子馬だけに集中して、直接Gを見ないようにして進む。

 だけど、足を踏み出すたびに、Gを踏みつぶす嫌な音と感触が堪らない。耐え難きを耐え、ぼくは一歩ずつ歩を進める。

 すると、Gが集まって一匹の大きなGになって、ぼくの前に立ちはだかった。体長は、1メートル70センチくらいかな。

 バッタといいGといい、この世界の虫は、寄り集まって大型化するのが当たり前なの?

 大型化して不気味さは増したけど、ぼくのイメージ(黒くて、ぎとぎとと脂ぎったボディーで、ちょこまかと動き回る)とかけ離れた、妙にずんぐりした体型で、針金のように細い二本の後ろ脚で立った姿に、Gをデフォルメした怪獣の着ぐるみを見ているようで、思いのほか嫌悪感はわかなかった。

 これなら、なんとかなりそうだ。ぼくは、ポシェットから勇者の剣を取り出し、構えた。

 なんで???。剣はペーパーナイフのまま沈黙している。敵と対峙しているのに、こんなとき役に立たないなんて。訳が分からず頭の中をはてなが駆けめぐる。

 なにか武器になりそうなものはないか。ふと足下を見ると、都合良く?武器におあつらえ向きの棒切れが落ちていた。心許ないけど何もないよりはましだろう。

 棒切れを拾い、正眼に構えた。

 怪獣Gが襲ってくる気配はない。こうしている間にも、力尽きた子馬が水底に沈んでいく。悩んでいる場合じゃない。

 ぼくは勇気をふりしぼり、怪獣Gに向かって突進。棒を横ざまに打ち払った。

「ん?・・・」

 怪獣Gに当たったはずなのに全く手応えがない。それもそのはず、棒が怪獣Gの体をすり抜けたのだ。

 その瞬間、シャボン玉が弾けるように、目の前の怪獣Gも、子馬も沼も全てが跡形もなく消えた。


 ぼくは、まっ白な壁に囲まれた、何もない部屋にいた。

「どういうこと・・・」

 まさに、キツネにつままれたような感じだ。

 状況を確認しようと、周囲を見回す。部屋の隅に扉が一つ。

 罠のにおいがしないでもないけど・・・。。隣の部屋に行かないわけにはいかないよね。

 虎穴に入らずんば何とかって言うし。

 ぼくは慎重に扉を押し開けた。


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