吊り橋が落とされているなんて、お決まりの展開だけど・・・ ~ウナギは食べられるより、食べる方がいいよね~
翌日、朝からぬけるような青空が広がり、気分爽快。湖畔の道を進むこと半日。森の出口に近いこともあるのだろうか、魔獣が出現することもなく、日没前に迷いの森を抜けた。
「この先は、険しい山道を登ることになります。馬の負担が増すことになりますので、ここで休むことにしましょう」
団長の指示で兵士たちが野営の準備にとりかかった。
次の日、ぼくたちは山道を登っていった。
しだいに道は細く険しくなり、やがて、急峻な崖道に。右側は切り立った崖、左側は深い谷、ぎりぎり馬車が通れるくらい狭い道をゆっくりと進む。車輪を踏み外せば、谷底へ真っ逆さま、一巻の終わりだ。慎重に手綱を操るトポロ。
こんな所で魔獣に襲われたらひとたまりもないだろう。だが、魔獣に遭遇することはなく、ぼくの心配は杞憂に終わった。
やがて、前方に渓谷が見えてきた。
「この橋を渡れば、あと少しで妖精の村です」
トポロが言った。
「なんで???!!!」
橋のたもとまで来たとき、疑問符と感嘆符の混じった言葉で、ぼくは叫ばずにはいられなかった。
せっかくここまで来たというのに、吊り橋のロープが切れて、橋が落ちていたのだ。
「劣化によってロープが切れたのではないようです。ロープが鋭い刃物で切断されています。切り口はまだ新しいので、何者かによる妨害工作と思われます」
ロープの切れ目を調べていたハウンドが報告した。
しばらく、団長と兵士たちは対策を話し合っていた。
「この少し下流に以前使っていた渡しがあります。そこから舟で向こう岸に渡ることにしましょう」
協議の結果、舟で川を渡ることになった。 団長の言った通り、下流には河原に下りる道があり、岸に手こぎの小舟が繋留されていた。小さな舟だが、ぼくたち七人が乗るには十分な大きさだ。
吊り橋が架けられてから、あまり使われていないようだ。メンテナンスに不安があるけど、対岸に渡るくらいなら問題ないだろう。
馬車は舟に乗せられないので、ここに置いて行くことにした。馬は車両から解放した。こ こに残して行っても、帰巣本能で王宮に戻るから心配ないとのこと。
まず、リンクスが舟に乗り込み、次に団長、ダスマン、ハウンド、トポロの順で、最後に母とぼくが乗舟した。母はトポロに手を取ってもらい、少し照れながら恐る恐る揺れる舟に乗り込んだ。
舟を漕ぐのは力自慢のハウンドだ。流れに押し流されないようにしっかりと舟を進める。
川の中程まで進んだ所で、いきなり水中から魔獣が現れた。
細長く円筒状の体型。背は黒く、腹は銀白色。体表が、ぬめぬめして光っている。それは、世界最大の蛇アナコンダの二倍、いやそれ以上に大きいウナギの魔獣だった。
鎌首をもたげたウナギが、人ひとりを簡単に飲み込めるほど大きな口を開けて、ぼくたちに迫る。
でも、大丈夫。念のため母が築いていた魔法防壁が、ウナギの攻撃を阻む。
防壁を突破しようと、何度か防壁に体当たりするウナギ。相当な衝撃にもかかわらず、防壁はもちこたえている。物理攻撃に対する防御力は、かなり高いようだ。それでも油断は禁物。団長たちは臨戦態勢をとって不測の事態に備えている。ぼくも長剣に変形した剣を手に、ウナギの襲撃に備える。
いい加減あきらめてくれないかな。と思っていると、ウナギが水中に潜った。ぼくたちを餌にするのをあきらめて、去って行った訳ではなかった。
ウナギが水中から舟底に体当たりしてきた。防壁で守られているとはいえ、舟は大きく揺れる。ぼくたちは振り落とされないよう、舟の縁に必死にしがみつく。敵が水の中では、なすすべはない。
再び水上に顔を出したウナギ。尾で舟底をはたかれ、大きく跳ね上がり宙を舞う舟。ぼくたちは皆、川に投げ出されてしまった。
ぼくは水面に浮かびながら、母や他の人たちの無事を確認した。
ほっとひと安心したのも束の間。ウナギが、まっしぐらにぼくの方に向かって来る。ぼくはウナギの攻撃に備えて剣を構える。泳ぎながら戦うのは不利だ。ちょっと勘弁してよと愚痴りたくなるがしかたない。そう都合よくいかないのが世の常。
ウナギは、ぼくの手前で水の中に潜った。
「どこにいった?」
どこから攻撃してくるか分からない。辺りを警戒していたが、いきなり強い力で身体を締めつけられた。ウナギがぼくに巻きついたのだ。
ウナギは、ぐいぐいぼくの身体を締め上げる。幸い両腕の自由は利くから、剣を振るうことはできる。しかし、万歳をしたようなこの体勢では、ウナギに致命傷を負わせるのは難しい。まさにお手上げ状態だ。そんなぼくの思いに答えるように勇者の剣が変形した。
ぼくの手に新たな剣が…。えっ、これって剣というより包丁じゃない。勇者の剣は出刃包丁に変形していた。これでウナギを捌くってこと?包丁だってれっきとした刃物だから、まあいっか。とにかくこれでウナギの化け物を料理しようじゃない。料理の腕は自信ないけどね。
ぼくは、包丁を逆手に握り直し、渾身の力を込めてウナギに突き刺した。痛みでのたうちまわるウナギ。その拍子にぼくは川に投げ出された。
「ぷっ、はー」
水上に浮かびあがって呼吸を整えているところへ、怒り狂ったウナギが牙をむいて上方から襲い来る。手にした包丁が再び長剣に。
その刹那、白刃が閃きウナギの頭が宙を飛ぶ。切断面から激しく黒煙が噴き出した。力尽きたウナギは、ぶくぶくと泡を立てながら水底に沈んでいった。
「ゴーーーー」
うん?何の音。ほっとしたのも束の間。ぼくが流されていくその先には滝が。流れに逆らって必死に泳ぐが、激流にのまれ下流へと押し流される。滝が目前に迫る。
「だめだー、おちるうー。うわーーーーー」
ぼくは、滝壺へ真っ逆さま。




