第7話「イチゴ農家 vs シティ系イケメン!?」
福岡でのテレビ出演を終えたBerryz Boysは、地元・久留米でも一気に注目を集め始めた。商店街では「テレビ見たよ!」と声をかけられ、地元のスーパーには「Berryz Boys応援特設コーナー」までできていた。
「……やばい、オレら有名人やん」
蒼汰が鼻を膨らませると、レンがぴしゃりと返す。
「浮かれるな。今が一番足元すくわれる時期だ」
「ひぃ、相変わらず厳しか~……」
そこへ、奏多がスマホを見ながらやって来た。
「蒼汰、レン……ちょっとこれ見てくれ」
差し出された画面には、動画投稿アプリで話題になっている別のアイドルユニットの映像が映っていた。
『Urban Prince』
モデル出身、東京育ち、洗練されたルックスと都会的な曲調。フォロワー数はBerryz Boysの数倍。先日のBerryz Boysのテレビ出演に触れた投稿で、リーダーがこう発言していた。
「農業? 田舎ウケはいいけど、全国で通用するの? まあ、頑張って(笑)」
「……なんか、感じ悪くないか?」
蒼汰が眉をひそめると、レンがにやりと笑った。
「いいじゃねえか。ちょうどいい目標ができた」
奏多も静かに言葉を重ねる。
「しかも、このUrban Prince、今度の福岡アイドルフェスに出るらしい。地元枠で、Berryz Boysも出られることになってる」
「マジで!? ……じゃあ、直接勝負できるってことやん!」
それからの数日、三人はとにかく練習に明け暮れた。
朝はイチゴの収穫、昼は出荷作業、夜は倉庫を片付けて作った特設ステージで歌とダンスの猛特訓。隣の畑から「うるさい!」と怒鳴られても、蒼汰はめげなかった。
「だって、今が勝負ばい!」
そして、ついにフェス当日。
福岡市内の特設ステージは、人・人・人の波。アイドルオタク、観光客、取材クルーまでが集まり、まるで夏フェスのような熱気が漂っていた。
「うわ……すごかね……」
ステージ裏で顔を青くする蒼汰を、レンが小突く。
「ビビるな。これが“本物の土俵”ってやつだ」
そのとき、控室の廊下をUrban Princeのメンバーが通りかかった。
リーダー格の栗色ヘアの男が、蒼汰たちを一瞥して鼻で笑った。
「……あー、テレビで見たよ。久留米の……何だっけ、ストロベリーボーイズ?」
「Berryz Boysたい。イチゴの粒に革命を込めとるとよ」
「革命ねえ。田舎の香りがぷんぷんする」
不敵に笑って立ち去る彼らを、蒼汰は黙って見送った。拳をぎゅっと握る。
「絶対、見返しちゃるけん」
午後3時。
ついにBerryz Boysの出番が来た。
レンの力強いステップが先導し、奏多のキーボードが空気を変え、そして蒼汰の歌声が響き渡る。
「♪耕したのは、畑だけじゃなか――
この声も、心も、夢のためやけん――♪」
まっすぐな歌声。
豪華な照明もエフェクトもない。
でも――観客の手が、自然に上がった。
拍手が、どんどん大きくなった。
そして、ステージの袖でそれを見ていたUrban Princeのリーダーが、表情を曇らせた。
「……なんで、あんな素朴な連中が……?」
曲が終わると、ステージは割れんばかりの拍手に包まれた。
「ありがとう! オレら、Berryz Boysたい! 次は、東京のライブに出るけん、よろしくお願いしますっ!」
そう――。
夢は、もうローカルじゃなくなってきていた。