41 池田勢上坂
尼崎城天井裏。ここには耳太とは別の大坂方の忍び、闇鍋の組が張り付いていた。
(闇鍋様、池田忠継らが集まるようです。)
(ああ。池田一族も2代目3代目に順次代わっている。顔合わせも必要になっているのだろうな。)
////////////////////////////////////////////////////////////////////////
「皆、揃ったようだな。荷が重く大変だっただろう。暫しゆるりと兵共々我らも一息入れようか。」
姫路藩主となっている池田利隆が場を仕切る。正面には分家した池田一族を代表して播磨国赤穂を領する池田忠継が着座している。隣には同じく播磨赤穂で1万石の池田政綱がちょこんと座っている。御年10歳。勿論初陣だ。他には池田輝政の兄・元助の子孫などが小領主として続いているが重臣格であり、独立大名には至っていない。
「利隆もお疲れでしょう。流石に此度の幕府要求は我らの身の丈を越えておりますれば。」
「全くだ。忠継も大変だっただろう。」
そこに、陰湿そうな、ひねた面構えの老人が口をはさむ。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ。その昔は戦の度に城の蔵は空になる事などいくらでもありましたぞ。足りなければ敵地で乱取りなど当たり前。今の戦は優しゅうなりましたなぁ~。」
老人は山名豊国。因幡守護で鳥取城の主だったが紆余変転の末、今では但馬国七味郡6700石の小名だ。偉そうな口上だが戦では全く無名で文化人として名を成している。関ケ原戦以後に家康の手引きで宮内少輔に任官していた。
「宮内少輔殿。今は幕府の世。ほぼ全ての土地がお味方なれば乱取りなど出来ようか。」
「かっ、かっかっ。大きゅうなればなったで窮屈なものですのぉ。されば、儂ぐらいの身代が一番幸せでしょうかのぉ。」
「宮内少輔殿。戯言は程々にされよ。で、御身はどうなのだ?割り当て分の兵糧は調達できたのか?」
「お歴々同様に、まあ、8~9割じゃて。」
同様と言い当てられた池田利隆の顔が歪む。そもそもの要求が過大なのだ。15万が半年以上食い繋げられる兵糧を中国路の池田一族と周辺の小名だけで調達できる訳もない。幕府もわかっていて無理な要求を出していた。
「半年は無理でも、4カ月はなんとか此れで保ちましょう。そのうちには、関東、東海からの補給も届きましょう。」
「忠継の申す通りだ。幕府も本当に半年分揃うとは思っていまい。関東はともかく、東海の荷なら確実に到着している筈だ。」
「…あの、関東の荷は届かぬのですか?」
幼い政綱が素朴な疑問を挟む。
「うむ。政綱もしっかり考えておるな。良い事だ。東海からであれば船が使えるので、まず確実に届く。だが関東は江戸湾での船便は盛んだが、伊豆が邪魔で船での西国への輸送はほとんどないのだ。」
「ですが、先太閤殿下は小田原攻めに水軍も使い…あー。」
「気が付いたか。そうだ、水軍衆が皆解体されたので今尚維持されていない航路は荷が運べぬ。唐入りの頃のほうがよほど今よりも荷運びは楽だったろう。」
一同からため息が漏れる。場が澱んだので利隆が話題を変える。
「兵糧はやるだけやったので、もう良いだろう。で、我らはどう致す?大坂城北側や西側の砦ぐらいは落とせようが、大坂城自体には指一本触れれぬが。」
「カルバリン砲はやはりだめでしたか。」
「ああ。あれは幕府にとっても切り札。将軍家が直々に使用する…という話だが…」
「違うのですか?」
「うむ。どうも残弾が少ないようなのだ。本音ではそれを知られたくない…そんな感じだな。」
「冬の陣でも結構撃っていましたからなぁ。」
「新しい弾も多少は作っているようだが、少数らしい。それに大砲は火薬の消費も激しい。そうそう好き勝手には撃てぬのだろう。」
「ひゃっ、ひゃっひゃっ。されば、やる事は一つじゃの。」
ひとつ?疑問に思った一同が一斉に山名豊国を見る。
「働いた振りだけするしか無かろうに。ゆったり進んで、じんわり砦を落して回る。しっかり兵を休ませて何時でも戦えますぞ………と幕府にお伺いを立てれば、あとは幕閣の胸先三寸よのぉ。」
「宮内少輔殿、それではあまりに…」
「いや。忠継…。言い方に棘はあるが実際宮内少輔殿の案以外にやり様がない。そもそも大坂城に北から迫る事自体が無意味に近い。幕府も本心ではわれらは北側を抑えて駐屯しているだけの意味しか期待しておるまい。よかろう、宮内少輔殿の案で当分は行動し幕府の指示を待つとしよう。皆、それで良いな?」
池田利隆の問いにだれも反論は無く、特に成す処なく会談は終了したのだった。




