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39 真田幸村の策

「重成、ついてまいれ。」

「はっ。で何処へ?」

「幸村殿に策を強請(ゆす)りに行く。」

「はぁ?」


アホ面の重成を引きずって真田幸村に面会を求める。重成も謀略の面ではまだまだダメだから学んでもらおう。


「これは秀頼様、わざわざお忍びでのお越し、何事でございましょう。」

「うむ、どうにも手が見えぬので、幸村の策を強請りに来たのだ。」

「ふむ?で相手は?」


ふっ。こうでなくてはな…。


「立花宗成殿。」

「ほう、成程………。」


要領を得ない顔の重成。そこで幸村が助け舟を出す。


「立花殿は武勇一筋の豪勇で今は小身代と云えども侮れる相手ではございませぬ。急所で立花殿を投入されては危ういので、あらかじめ戦局から外しておきたい………そう秀頼様はお考えなのですが、なにせ、一旦幕府側に付かれた以上決して寝返る事はなし。そういう御方なればこそ、秀頼様も思案に困られている………という事でございますな。」

「うむ。その通り。どうだ、なんとか戦局から遠ざける手は無いものか?」

「…ふむ………」


暫し幸村も思案に沈む。程なくして、


「では、立花殿の豪勇を称揚する噂を大々的にばらまけばどうでしょう。」


え? 重成がそんな馬鹿な………という顔で(ひでより)を見返すが、


「ほう、大々的に褒め称える………か………」

「そ、それではわざわざ立花殿の存在が重要と幕府幹部に教えてやるようなものでは………」

「重成の申す通り、幕閣の目に必要以上に止まるのう。そうなると緒戦からどこかに起用したくなるのう。そういう狙いか、幸村。」

「はい。温存せずに、何処かの戦場に起用しましょうな。そしてそれは恐らく誰の目にもよくみえる、目立つ場所。」

「緒戦で一当てとくれば、当然、大阪城南面の総構、幸村が整備してくれた真田丸…か。」


そこまで聞いて重成が勢い込む。


「成程、真田丸へ立花殿を誘引して、そこに兵力を集中して打ち取るのですね?」

「ふふふ。それで打ち取れる相手であれば、島津勢にとっくに打ち取られていたであろうな。」


即座に否定された重成が塩を食らったナメクジのように萎む。


「はっ、はっはっ。重成殿、立花殿は兵力のみで打ち取れる相手では御座いませぬ。部下思いの御仁でもありますれば、部下の退路は常に配慮されています故、当然、ご自分の退路を欠く事も無い。無理と判断されたなら普通に引かれますぞ。」

「…確かにそうですね…。」

「ですが、立花殿も今は3万石程度の小身代。そこが狙い目。」


幸村にそう言われて(ひでより)と重成が目を見合わす。


「…ふむ?小身代………」

「かつての筑後半国の領主であれば、それなりに粘れましょうが………」

「そうか…継戦能力が乏しい…早めに引っ張り出して手兵を疲弊させたり、銃弾、火薬、兵糧を消耗させれば戦えなくなる……そういう事か!」


当時、実戦に当たった将兵は平時の倍近い食料を消費したとも云う。要塞を挟んでの火力戦ともなれば、銃弾火薬の消耗は莫大だった。


「はい。疲弊した立花勢は一旦国元まで還るしかないでしょう。立花殿の鉄砲隊の火力密度は異常なほどに高いと聞きます。それは逆に言えば、短時間で打ち尽くすという事。勿論、それに対応した弾薬を保持されているでしょうが、3万石の身代では限度があります。」


立花勢の鉄砲隊は玉と一発分の火薬を紙製のカートリッジに一つに纏めた早合を、後世の弾帯のように帯状に連ねた装備をしていたと云う。この結果、当時の普通の鉄砲隊の倍以上の速さでの連続射撃を可能にしていた。


「うむ。さらに、この摂津河内での現地調達がほぼ絶望の今、他の部隊も弾薬兵糧を渋って立花勢に分け与えたりもするまい。小身代でもあり、今では幕府内でも孤高を保って居るので他の大身代の大名で特に懇意の者も居ない。確かに、一旦国元まで還るしか無くなるであろうな。見事だ、流石、幸村よ。」

「…全く、恐ろしい限りにございます。幸村様の本当の恐ろしさ、そして秀頼様がなぜにここまで幸村様を頼られて居るのか、漸く判った気が致しまする。」


木村重成もここにきて絶賛する。


「重成。この策の恐ろしい処はこれが誰にも迷惑をかけていない点よ。この策が成った処でだれにも恨みを買う事がない。単純に、幕閣が立花殿の使い場所を誤った…それもそこに気が付くのもずっと後。下手をすれば一生間違いに気が付かない恐れすらある。誠に恐ろしい策よ。幸村、すでに御父上(まさゆき)殿を越えられたのではないか?」

「はははっ。それは御座いませぬ。今の策など、所詮は目先のその場その場のやり繰り。父が某を上杉家に人質として遣わしたような、日ノ本全体を見まわしての戦略とは器が違いますれば。」

「ふむ。幸村は所詮、戦術級の策にすぎぬ…と。じゃが、かの漢帝国の大軍師、張子房(ちょうりょう)は戦略面では抜きんでていたが窮地に変転をめぐらすには自分では叶わぬ、宜しく陳平に策を図るべし…と言ったというではないか。」

「左様でございます。幸村様は、すでに陳平に匹敵されておりますぞ。」


やたら褒められてうつむき加減に頭をかく幸村だった。



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