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34 千姫躍動

(成程、秀頼様が言われた通り、千様が二位の局を連れ出してきたな………)


物乞いに身を(やつ)した真田忍びの一人、割田重勝(わりたしげかつ)が影から周囲を警戒する。

千姫自身、もちろん単独では無く薙刀を抱えた女房衆の護衛も有るが、実戦力としては心許ない。大坂城下総構の内側とは言え、護衛は必要だ。


「局殿、まずは彼方の呉服を見に行きましょう。墨屋(墨屋作兵衛)は伏見から大坂に移られた大店で太閤様もご贔屓にされていたのですよ。」


二位の局は言われるままに付いて行く。その大店の店先の丁稚は藤内の忍びだ。千姫の周囲は遠巻きだが十重二十重に護衛されていた。


「局殿、次は『南都諸白』を買い付けておきましょう。鴻池殿(伊丹酒)の出店が出来ていますの。殿がご機嫌な時の取って置きのお酒に。」


『南都諸白』は奈良流の諸白造りによる澄み酒だ。朝廷でも利用される清酒で当時最上質の高級酒である。


「局殿、次は金創薬を買っておきましょう。また戦になりますのでね。あのお店は小西様ともご縁があった薬師が出入りされているお店で、良質の地黄や芍薬が有るお店ですよ。」


小西は言う迄も無く、関ケ原にも参戦していた小西行長。小西家は元々薬剤商である。

千姫に休む間もなく城下を連れ廻されて二位の局も(つなぎ)に接触する機会を掴めない。徐々に焦りの色が見え始める。


(くっ、くっ、くっ…千様もようやりなさる。ああも始終振り返られて引き回されていては嫌な顔も出来ず唯々諾々と付いて行くしかない。焦りもしようて………おっと!)


二位の局の足元に小さな紙屑があるのを目敏く見つけた重勝。それを何食わぬ顔で蹴り飛ばした女房と蹴られた紙屑を拾って去った浮浪者。


(あの女房も中入りして居ったのか。浮浪者は柳生の手の者か。あの身のこなしで浮浪者とは片腹痛いが今日は泳がせておけとの事だったな。)


千姫付きの女房に扮している仲間の忍びに目配せして、間諜の女房に張り付かせる。さらに、柳生扮する浮浪者にも別の仲間を複数付ける。


(しかし柳生も中入りまでするようになったか。西国では堂々と柳生の名乗りを挙げて、諸方に押し入って無体を働いて居ると聞くが。)


「局殿、次はどうしましょう、そうそう、あのお店が良いですね。あそこで小豆の甘葛煎を頂きましょう。甘くて美味しいですよ。」


甘葛煎は甘葛(あまづら)の樹液を煮込んで造る甘味料で、室町時代から製造されている。だれでも入手できるものでは無かったが、商業経済が発達していたこの時期の大坂ではすでに庶民でも手がだせる商材になっていた。


「局さん…でいいですよね。秀頼様はこの時期にわざわざ入城された大橋様と局さんを、半信半疑のご様子でしたが、私は帰参をとても嬉しく思っています。奥は女性が極端に減っていたので。義母(はは)上のお傍で居られた局さんですので、難しい文なども頼めると嬉しいです。」

「私でよろしければ、なんなりとご用命ください。」


(ほほう、此処で秀頼様が怪しんでいる事もぶっこんで来られるか。秀頼様を警戒させて相対的に千様への警戒が緩む…そういう狙い。千様も中々に侮れぬな。)


「局さん、そう固くならず。女性は女性同士、分け隔てなく語り合いましょう。そうだ、お爺様(家康)はお元気にされていましたか?もうご高齢ですから、大事を取って本当は駿府でゆっくりと過ごして頂きたいのですが。」

公方(くぼう)様(家康)は今なお、殊の外ご健勝でございますよ。なにせ、()づから薬を調合される御方でございます。まだまだ10年やそこらは平気で御座いましょう。その気になれば、今からでも御子も作れましょう。」

「まあ!それは良かったです。」

「…あの、公方様は一応秀頼様の敵で御座います。そのように喜ばれては………」

「良いではありませぬか。戦場での討ち死になれば誉でも有りましょうが、平時に…それこそ食当たりなどで無為に命を落とすような事などあれば、悔やんでも悔やみきれません。秀頼様も申されていました。

『天ぷらは旨いな。だがあの臆病な家康は大事をとって、こんなに旨い物でも食いはするまい。長生きはしようが詰まらぬ生き様よ。』

と…。」

「天ぷらですか。公方様もお傍衆も、時折、ご褒美と称されて戴ける事もあるようにお聞きしますが。」


(上手い。普通に天ぷらを食べている情報が取れた。さらに秀頼様が揶揄されている事を聞き及んだ家康は、意地になって天ぷらを食する頻度も上がろう。しかし、何故に秀頼様は取り立てて天ぷらを話題に挙げられているのか?なにか狙いがあるのか?油分が多すぎるのは年寄りには良くないとは聞くが………。しかし千様がこれほどとは。二位の局を反間に仕立て上げるのも時間の問題であろうな。)


千姫の手腕に舌を巻く割田重勝だった。


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「くっ、くっ、くっ。痛快ではないか。二位の局のその時の顔が見たかったわ。」

「殿(秀頼)は、またそのような。笑いごとではござりませぬ。千は冷や汗流して頑張りましたのに。」

「いやいや、すまぬ。まさか、千がそれほど上手く引き回すとは予想外でな。これなら二位の局は千に全て任せられよう。頼んだぞ。」

「! 千に全てを………。宜しいのでしょうか。」

「うむ。現実問題、奥向きに男は関われぬ。女性で信が置け、知恵も回る者となると千以外は居らぬ。是非にも頼みたい。」

「有難う御座います。漸く、千も名実とも豊臣の女に成りきれます。」


これで二位の局は十分だ。後は愈々目の前の籠城戦だな。

復旧が終わりつつある総構に意識を移す秀頼だった。

















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